第44話 ドロップアップ
手始めの一戦目は、瞬殺だった。
俺は早速、二人の了解を取って、手に入れたドロップ品からドロップ増加剤をクラフトした。
それを飲んで、第二戦目。初心者のリオンが主体となって、俺とアリスがサポート役に回った。
スラキンを切り崩して、トドメはもちろん俺だ。ドロップ増加剤の効果は、モンスターにとどめを刺したときに発動するからだ。
出来上がった2個のドロップ増加剤をアリスとリオンにも渡した。
これで、誰が倒してもドロップ二倍だ!
それからは、ひたすらにスラキンを倒しまくった。
クラフトできたドロップ増加剤はなんと300個!
それを仲良く、三等分した。一人当たり100個となる。
休みなしにスラキンと戦い続けたため、二人は少しお疲れだった。
こんな時は初級ポーションで乾杯だ!
「お疲れ様!」
「めっちゃ倒したね……僕は疲れたよ」
「初めてのボスモンスターと戦ったにしては上々。リオンも探索者として一緒にやっていく?」
「えっ、いいよ。カメラマンとしての方がいいな。自衛として戦えるくらいにしておく。二人みたいには戦えないな」
どうやら、ボス周回はリオンにとってかなり大変だったようだ。
俺とアリスは、楽しかったので時間を忘れてスラキンを倒しまくっていた。
好きも物の上手なれという。リオンの好きはカメラマンなのだ。
「でも、いい経験をさせてもらったよ。アリスと二人だけじゃ、今回のようなことは無理だからね」
「戦いたくなったらいつでも言って、サポートするから」
「ありがとう! ダンジョン神のサポートなら間違いないね」
リオンが笑顔でそう言うと、アリスが俺を見ながら、
「偶に危険なことするけどね」
「たしかに!」
リオンが深く頷いた。きっと炎魔法ボルケーノのことを思い出しているのだろう。
「サポートするときは魔法は使わないから安心して」
「うん。くもくもの魔法はやばいからね」
「今の強さならフェニックスも魔法を使わずに倒せるんじゃない?」
「う~ん、どうかな」
フェニックスを倒すためには、何も残らずに消滅させないといけない。灰の一つ残っていても、そこから復活してしまうからだ。
この魔剣フランベルジュの力を持ってすれば、殺れないことはなさそうな気がする。どちらにせよ、試してみないことにはなんとも言えない。
初級ポーションを飲みながら、考えているとアリスが聞いてくる。
「くもくもはこれからのダンジョン探索は上級ダンジョンにするの?」
「そうしようと思っているよ。もっとすごいアイテムをクラフトしたいし!」
まだ中級ポーションや上級ポーションのレシピを得られていない。魔ポーションも同じだ。
それをもらうためには、もっと高難度のダンジョンを探索しないといけない気がしていた。
それに上級ダンジョンを制覇したら、熟練の探索者って感じがするし。ダンジョン神として、高難度ダンジョンの1つや2つくらいは挑むべきだろう。
視聴者たちもそれを求めているような気がする。
「私たちはしばらく中級ダンジョンで経験を積もうと思う」
「そっか……」
「上級ダンジョンは私とリオンだけじゃ無理ね。パーティーを組まないと、それもあってタルタロスギルドとやり取りしているのよ」
「その時は俺も呼んで!」
「良いけど……無茶しないでね」
「くもくもは強すぎるから、表に出ずに僕たちをそっと影で見守ってもらおう」
「それが良いかもね」
「わかったよ。陰の実力者的な感じで、配信に見切れている感じでいるよ」
リオンのカメラワークを意識して、同行しないといけない。大変なミッションになりそうだ。
初級ポーションで疲れを取った俺たちは、ボス部屋がある第三階層から第一階層へ向かった。
「今日は楽しかった。くもくも、またね」
「ありがとう! 僕たちもくもくもの活躍を応援しているからね!」
「うん! アリスもリオンも今日はいろいろとありがとう! また一緒に探索しよう!」
「「うん、じゃあね!」」
パーティーを組んでボス狩りは、やっぱり楽しい!
楽しすぎて、150回以上もスラキンを倒してしまった。
ボス部屋に他の探索者がいないからできたことだった。
アリスとリオンと別れた後、俺は新宿ダンジョンの第一階層で探索者たちに囲まれていた。
どうやら、みんな俺に話しかけようとタイミングを見計らっていたようだった。一緒にいたパーティーが解散となったので、今だという感じで押しかけてきた感じだ。
しかし、俺から一定の距離をとったまま、彼らは動こうとしてなった。そして、口々に言うのだ。
「あれっ、なんだ。頭の上にあるやつ」
「天使の輪じゃね。前からあったけ?」
「いや、初めて見るぞ。あれがダンジョン神の本当のお姿なんだよ」
「マジかよ……本当に神様だったのか」
あっ! ステータスをギア3にしたままだった。
頭の上に絶賛天使の輪が浮いていた。
それを見た探索者たちが、慄き話しかけられずにいたのだ。
質問攻めにあうよりも、この方がいい。
俺が前に歩くと、探索者たちが後ろに下がって道が開かれる。
勝手に道が出来上がっていくぞ。
気を利かせてくれた探索者たちが、ダンジョン神のために道を開けよなんて言い出す始末だ。
俺は一切そんなことを頼んではない。
でも、好意でしてくれているのなら、喜んで進むべきかな。
大勢の探索者たちの視線が俺に集まっていく。
一挙手一投足に固唾をのんで見守っている感じだ。そんなに見つめられたら、結構恥ずい。
俺は販売ゴーレムたちが並ぶ付近に向けて歩いていく。
それを見た探索者が高らかに言う。
「ダンジョン神が何かをするぞ。皆のもの! 静まれっ!」
突然仕切りだした探索者に気が散りそうになったが、ぐっと我慢する。頭の上の天使の輪が、円月輪として使えるなら、投げつけたいくらいだった。
それでも他の探索者たちは、静まるどころか……騒ぎ始めた。
「もしかして、新しいアイテムが売り出されるじゃないかっ!」
「えっ! どんなものなのかな……」
「並んだほうが良いか?」
「いや、待て! まだダンジョン神がいらっしゃるのだ。迷惑をかけたら、売り出されないかもしれないぞ」
「それどころか……ブラックリスト入りするかもしれんぞ!」
「うあああ! それだけは、それだけは勘弁してください」
うるさいな……騒いでいる人たち全員をブラックリストに入れちゃうぞ。
冗談だけど、本当に静かにしてほしい。
とある探索者がブラックリスト入りの言葉を発してからは、みんな静かになった。
探索者にとって、ダンジョン神にブラックリスト入りにされることは死活問題らしかった。
新しい販売ゴーレムをセット完了!
売り出すアイテムの販売内容も設定する。
◆ドロップ増加剤 1個
【購入に必要な素材】
・ブルースライムキングのコア ✕ 5
このくらいの条件でいいかな。
よしっ、販売開始だ。
俺は集まった探索者に聞こえるように言う。
「新しくドロップ増加剤を販売開始します。購入に必要な素材は、スラキンのコアが五個になります。この薬を飲めばモンスターを倒したときにドロップ量が二倍です。一度飲めば効果持続は24時間となります。ではさようなら!」
俺はアプリの『帰還』ボタンを押して、納屋に戻った。
そして一息つく。新宿ダンジョンでドロップ増加剤について、説明している最中に動き出す探索者たちがたくさんいた。
おそらくボス部屋は探索者たちで溢れかえっていることだろう。
新宿ダンジョンは今よりも探索者が多くなることが予想される。しばらくは、アプリで販売状況を見るのみにしておこう。実際に訪れるのは、よほどのことがない限りやめおく。
ドロップ増加剤も自動クラフトできるようにセット。
「マジかよ。もうかなり売れているぞ……」
スラキンのコアを在庫として持っていた探索者たちが鬼のように買い始めている。自動クラフトが大忙しだ。
そしてドロップ増加剤の効果によって、初級ポーションの素材集めのスピードも上昇した。
とんでもない数の初級ポーションが飛ぶように売れては、自動クラフトされていく。
これで、探索者たちにより多くの初級ポーションが得られるようになったので、言うことなしだ。
さてと、お昼ごはんを食べたら……どうしようかな。
少し勉強した後に、ダンジョン探索したいところ。
魔剣フランベルジュの性能が、新宿ダンジョンではいまいち活かせなかった。
それができるダンジョン……あっ!!
俺は仁子さんが探索中の知床ダンジョンを思い出した。
かなりの高難度ダンジョンと言っていた。新しいダンジョンで探索者はほとんどいない。おそらく調査中のタルタロスギルドの探索者だけだ。
よしっ、昼からは知床ダンジョンで決まりだ!
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