第87話 モンスター使い
第二回層はモンスターが襲ってこないので、のんびり探索できた。
大鹿のようなモンスターは、大人しく俺たちから離れるように逃げていたほどだ。
俺は遠目から大鹿モンスターを見ながら、閃いた!
「ピコーン!!」
「なに!? どうしたの! そんなに大声を出して」
急に仁子さんの後ろで声を上げてしまったため、驚かせてしまった。
ごめん、ごめんと謝りつつ、思いついたことを説明する。
「この二階層は上よりも広いから、あのモンスターに乗って探索するのはどうかなって思って」
「あの大鹿ってなんていうモンスターなの?」
「シルバーバックっていうみたい。強さは大したことないし、大人しくからうまく扱えれば、乗れるかも」
「面白そうじゃん! 優雅にシルバーバックに乗って探索しよう!」
優雅に乗れるかは別として、モンスターに跨って操れたら仁子さんが言うように面白そうだ。
早速俺たちは、二匹のシルバーバックに目をつけた。
のんびりと雪を掘って、その下にある何かをもしゃもしゃと食べている。
どこから見ても隙だらけだ。
「いっくよ! それっ」
仁子さんはその一匹に狙いを定めると、高く飛び上がった。
空中でくるくると何回もしながら、シルバーバックの背に着地をした。
おおおおっ! なんてウルトラC級の乗り方をするんだろう。
そんなことをしたら、モンスターはたまったものではない。
案の定、シルバーバックは突然の予期せぬ来訪者にびっくりして暴れまくっていた。
「くもくもも、早くしないと逃げちゃおうよ!」
「豪快に乗りすぎっ!」
仁子さんと話しているうちに、もう一匹はすごい勢いで駆け出そうとしていた。
このままでは逃げられてしまう。
結局、俺も仁子さんと同じように大ジャンプして、逃げるシルバーバックの背に乗った。
ものすごく暴れるけど、俺の腕力を持ってしがみつけば、振り落とされることはない。
長い角を振り回して、なんとか俺を落とそうとするけど、背には届かないようだった。
「落ち着けっ、俺は敵じゃないよ」
「いやいや、探索者だからモンスターにとっては敵よ。でも乗りこなしてみせるわ」
「俺だって負けないよ」
暴れ馬、もとい暴れシルバーバック。
どれほどなだめても、モンスターとは通じ合うことはできなさそうだった。
早々と諦めた仁子さんは、シルバーバックの首に手を回して締め上げる。
「えっ、倒すの!?」
「違うわ。こうやって体に覚えさすのよ。言うこと聞かないと倒しちゃうぞってね!」
「そんなことでうまくいくの?」
「やってみる価値はあるわよ。普通の生き物とは違うから、正当法では無理だろうし」
「こうなったら俺も!」
首を締め上げると、シルバーバックはたまらなくなったようで、膝をついて静かになった。
「やったよ。うまく行ったみたいだ……って仁子さん、締めすぎっ!!」
仁子さんが乗るシルバーバックは、口から泡を吹いていた。
もうじき白目になりそうだ。
後少しで意識が飛ぶことだろう。
「いつも倒しているから力加減が難しいわね。このくらいかな」
「良い感じ! その生かさず殺さずってところで」
「いい子ね。いうことを聞きなさい。じゃないと、お仕置きよ」
仁子さんが締め付けると、シルバーバックはぐへっという変な声を出した。
しばらく言うことを聞かなければ、お仕置きを続けた。
厳しい調教のかいもあって、なんとモンスターが俺たちの言うことを聞くようになった。
これはすごいことだと思う。今まで配信動画や探索者たちの話から、モンスターが人間の言うことを聞くことがなかったからだ。
「よしよし、いい子だ。右に曲がろう」
やった!
ちゃんと右に歩き出したぞ! 俺のシルバーバックは調教後は素直だった。
しかし、仁子さんのシルバーバックは、時折言うことを聞かない時があった。反骨精神を宿したモンスターみたいだ。
まあ、その度に仁子さんが首元をしっかりと抱きしめていた。
後ろで恐ろしいうめき声が聞こえてくる。
それを聞いた俺のシルバーバックはビクビクと震えて、更に言うことを聞くようになるのだった。
「くもくものは、いいな。私のと違って素直ね」
「仁子さんに恐れて、言うことを聞いているみたい」
「なんでそうなるのよ。私は大変なのに!」
「じゃあ、先に行っているね」
「ちょっと待ちなさい」
これ以上、仁子さんの調教を俺のシルバーバックに見せると、精神状態がやばそうだ。
もう十分言うことを聞くので、一足先に下への大階段を探すことにしよう。
生き物に乗ったのは初めてだったけど、意外にもうまくできるものだ。
脇腹あたりを足で突いてみると、前に勢いよく走り出した。
これはいいぞ。風は冷たいけど、すごく爽快な気分だ。
「仁子さん、お先に!」
「置いてかないで! コラっ、早く進みなさい!」
のっそのっそと歩いてはいる。だけど、あの調子なら下りて自分の足で歩いたほうが速そうだ。
俺の方はどんどん言うことを聞いてくれる感じだ。
「それ、ジャンプだ!」
うおおおっ、思いの外高く飛べるんだ!
ヒャッホー! やばい雪の中をモンスターに乗って駆けるのが、これほど楽しいとは思っても見なかった。
スキーやスノーボードとは違ったスポーツ感がある。
「仁子さん、見て! ジャンプ!」
「いいなっ! なんで私のシルバーバックはできないの!?」
仁子さんは悔しさをシルバーバックにぶつけるように、首を絞めていた。
そんなことをしたら、倒してしまってドロップ品に変わってしまいそうだ。
「俺のシルバーバックと交換してみる?」
「いいの?」
「うん。じゃないとドロップ品になりそうだし」
「ありがとう!」
早速、交換して仁子さんは俺のシルバーバックに乗ってみる。
「ジャンプよ!」
その声に反応して、シルバーバックは豪快に飛び上がった。
「やった! できたわ。くもくもは調教がうまいのね。モンスター使いになれるかもよ」
「モンスター使い!? そんな職業はないよ」
「今考えたの。私のシルバーバックはどう?」
背に乗ってみる。
暴れるかと思ったけど、すごく大人しかった。
あれっ!? 仁子さんのときはあれほど暴れていたのに不思議だ。
それには彼女も気がついたようだ。
「なんで!? くもくもだと違うの?」
「俺に聞かれても……」
とりあえず、前に走らせてみよう。横腹を足で突いてみる。
「おっ、走った! いい子だ」
「おかしい! 私のときと全然違うじゃん! どうしてなの?」
「モンスターに懐かれやすいのかな?」
モンスターとこのようなことをしたのは初めてだった。
いつもは命をかけた戦いばかりだ。
自分の配下にしようとなど思ったことがなかった。
「でも、やっとシルバーバックに乗って探索できるね」
「視聴者たちも気になっているみたいだけど、今日のところは先に進んだほうがいいわね」
仁子さんからはモンスター使いのくもくもという二つ名を頂いた。
天使のくもくもと合わせて、これで2つ目だ。
モンスター使いと言っても、シルバーバックに乗れるようになっただけだ。
「見て、下への大階段が見えてきたわ」
「よし、急ごう!」
「なら、競争ね。どっちが早くシルバーバックを走らせられるか勝負よ」
「望むところさ」
俺たちはシルバーバックの横腹を突いて、大階段へ向けて走らせた。
このシルバーバックたちは俺に懐いており、家に連れて帰りたいくらいだった。
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