第29話 炎魔法

 デッドバットの群れを押しのけて、第五階層への大階段を発見!

 夕ご飯の時間を考えると、探索はこの下の階層までになりそうだ。


 まあ、沖縄ダンジョンの半分まで来られたから良いとしよう。


「今から第五階層へ行きます! サラマンダーよ。いてくれ!」


 やはりLIVE配信の最後はクラフトで締めたい。

 よしっ、頑張るぞ。

 張り切っていると、書き込みに変化があった。

 なんと俺を応援メッセージが次々と届き出したのだ。


「ありがとうございます! チャンネル登録がまだな方はぜひお願いします!」


 そういうと、チャンネル登録数がぐんぐん増えていく。

 おおおおっ! すごいぞ!

 一体どうなっているんだ!?

 今まで、うんともすんとも言わなかった視聴者たちが、なぜこのタイミングで書き込みを始めたのだろう……さっぱり理由がわからない。


 でも嬉しいから、良し!


 ウキウキしながら、大階段を降りてしまう。

 これだよ、これっ!

 ダンジョンLIVE配信をしている感じがしてきたぞ。


 ムフフフ……探索にもより力が入るぜ!

 大階段から出た先には、マグマの海が広がっていた。

 所々に浮島のように大岩がある。もしかして……ジャンプしながら進むのか!?


 いやいや、一歩でも踏み外したら、マグマダイブ。

 蘇生のペンダントを持っていたとしても、マグマの中では生き返って即死だ。


「見てください。沖縄ダンジョンの第五階層はマグマの海を進むようです。えっと………あっ、遠く離れた位置に下への大階段が見えます! あそこまで移動していきます」


 この階層は他の階層よりも狭いようだった。

 それにしても、危険極まりない階層だ。しばらく、マグマの海を眺めていたら、表面が盛り上がった。


「うあっ! 何かがいます!」


 巨大なオオサンショウウオが陸地に上がってきたっ!!

 まさか……マグマの中を泳いでいるなんて……。

 心臓に悪いって!

 体から、マグマをなみなみと垂らしながら、俺に近づいてきた。

 襲う気満々で大きな口を開いてくる。


 その前に素早く鑑定だ。


◆サラマンダー 種族:蜥蜴

属性 :炎

弱点 :水、氷

力  :120

魔力 :60

体力 :170

素早さ:20

器用さ:30

硬度 :150


 硬度が150だ。これはミスリルソードによる物理攻撃は厳しいかな。

 いや、今の俺のステータスはフレイムタートルと戦ったときよりも、大きく上昇している。

 一瞬で斬れば、ミスリルソードにサラマンダーの熱は伝わらないはず。


 無理だった時には、必殺技のアイシクルソードがある!

 まずは素のミスリルソードで試し斬りだ。


 エイッ、ヤー!


「アチチチチッ! マグマが飛び散るっ!」


 サラマンダーを両断できた。サラマンダーが倒れ込んだ勢いで、体に付いていたマグマが四方八方に飛んできた。

 大変危険である。

 初級ポーションを飲んで、火傷を回復させる。

 ふぅ~……危なかったぜ。ちょっとしたマグマシャワーだった。


 もう一匹が陸に上がって来ているのを見て、俺は素直にミスリルソードを氷の刃に変えた。


「サラマンダーは接近戦をするなら、氷の魔法剣がオススメです」


 アイシクルソードで斬ると同時に瞬間凍結だ。

 これなら、体に付いたマグマが飛び散らない。

 やれやれ……と思っていると


「うああああっ!」


 後ろから炎が襲ってきた。

 それを慌ててアイシクルソードで斬り伏せると、その先にいたのはサラマンダーだった。


「どうやら、サラマンダーは炎を吐けるようです。ファイアブレスってやつかもしれません」


 このままファイアブレスでじっくり焼かれるのは嫌なので、サクッとアイシクルソードでたたき斬る。

 そして、俺はドロップ品を回収しながら、マグマの海を見ていた。


 サラマンダーはその中を泳いで、獲物が近づくのを待っているようだ。

 こちらからはマグマの海が邪魔をして、サラマンダーの動きが見えない。

 う~ん、このままではサラマンダーとの戦いが受け身となってしまう。


 モンスターとの戦いで、重要なことは自分にとって優位な状況に持ち込むことだ。

 受け身の戦いでは、足元を掬われる可能性がある。


 危険な予感がしたら、じっくりと考えることも探索者にとって必要なのだ。これは数々のダンジョン配信動画から学んだことだった。


 やっぱり、あれしかない。

 俺は魔ポーション(小)をアイテムボックスから数個を取り出す。

 連続一気飲みをした。


「これから、氷魔法ニブルヘイムを全力で展開します。通常は俺を中心に半径10Mを極寒の世界にしますが、今回は全力で行きます。おそらく倍以上の効果範囲となると思います」


 魔力をすべて使うと気を失ってしまうので、ちょっと残して後はすべてを氷魔法のニブルヘイムに注ぎ込む。

 今俺ができる魔力で放つマックス・ニブルヘイムだ!


「うおおおおっ! ニブルヘイムッ!!」


 ここまで魔力を一気に使ったのは初めてかもしれない。

 息切れが半端ない。


 そのおかげでマグマの海の半分が凍りついた。

 全部いけるかと思ったけど、流石に無理だったようだ。


 マグマが凍って、岩石になっている。これなら、安全に歩いていけそうだ。

 果たして、マグマの海のどのくらいの深度まで、ニブルヘイムが届いているかが気になるところ。


 もし、サラマンダーがいるところまで届いているのなら、魔ポーション(小)を飲んで備えておくべきだろう。

 ゴクゴク……飲み過ぎて水腹かも。これ以上飲んだら、夕ご飯に影響が出てしまいそうだ。


 そんなことを思っていると異変が起こった。

 冷えて岩石となった表面にひび割れが至るところに現れたのだ。


「来るっ!」


 寒さに耐えかねたサラマンダーたちが、一斉に飛び出してきた。

 その数はえーと……数えるのが、難しいくらいだった。多分、50匹は優に超えているはず。


 よしっ、陸に上がれば動きは遅い。詰め寄ってアイシクルソードで次々と斬り倒していく。

 ニブルヘイムを使いたいところだけど、これ以上魔ポーション(小)を胃が受け付けなかった。


 動く度にお腹がちゃぷんちゃぷんと鳴っているほどだ。

 ここは省エネのアイシクルソードに限る。もうブンブンと振り回して、サラマンダーをドロップ品に変えていった。


「なんとか、全部のサラマンダーを倒せました。ドロップ品がなんと258個です。サラマンダーが今日の夢に出てきそうなくらいです」


 サラマンダーの釣り堀は、大漁だった。これでも階層の半分しか凍らせていないから、まだ250匹以上のサラマンダーがいると思われる。


 アイテムクラフトに必要な数は十二分に集まったし、乱獲はしないでおこう。

 LIVE配信を見てくれている視聴者たちも、満足そうな書き込みが多い。

 なら、盛り上がったところで、アイテムクラフトをしよう!


「素材が集まったので炎魔法のリングをクラフトの準備をします」


 アイテムボックスから必要な素材を取り出す。

 今回もクラフトするために、たくさんの素材を集めたな。灼熱の地獄の中で、よく頑張った俺、すごい!

 心の中で褒めていると、視聴者たちも称えてくれた。


「では、クラフトします」


 素材が光の粒子となって渦を巻き始める。それは中心へと収束していき、燃えるような宝石が付いた銀のリングになった。


「炎魔法のリングが完成です! では早速、装備して使ってみます」


 氷魔法のリングを装備している手とは反対の手の指にはめた。

 すると、頭の中で『ボルケーノ』という言葉が浮かんできた。

 地面に手を向けて、その言葉を発する。


「ボルケーノ!」


 地面からマグマが吹き出した。なんというか、このダンジョンで使うには動画映えしない……。

 だって、この地面は先程まで、マグマだったからだ。

 違うダンジョンで使ったら、もっと印象が良かったのに……残念だ。


 しかし、地面からマグマを吹き出させる魔法とはすごいと思う。

 ダンジョン以外で使ったら、大惨事間違いなしの強力な魔法だ。


「今日は炎魔法のリングをクラフトしました。初めてのLIVE配信で緊張しましたが、第五階層までやってこれました。明日も引き続き、沖縄ダンジョンの下層を目指していきます。よかったらグットボタン、お気に入り登録をお願いします!」


 アリスとリオンが面白かったと言ってくれていた。なんと明日も見てくれるという。

 他の視聴者たちも丁寧な書き込みをしてくれていた。

 俺は大きく手を振りながら、LIVE配信を終了した。


 良い感じだ! チャンネル登録数もどんどん増えている!

 知らないうちに、500人を超えているじゃないか!?


 えっ、もしかして1000人の壁が見えてきたかも! 明日もこの調子でLIVE配信しよう。

 目指せ、チャンネル登録数1000人だ。アリスとリオンには、まだまだ追いつけないけど、いつかきっと近づいてみせる。


 俺は鼻歌交じりに、納屋に帰還した。

 たしか今日の夕ご飯は、大好きなハンバーグだったはず。もりもり食べて、明日に備えよう。

 あと、勉強も忘れずにちゃんとやろう。両親に黙ってダンジョン探索をしているから、これだけは疎かにしないと決めているのだ。

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