第65話 里帰りで知った事実


クレストの街に戻り、馬車も復活したので遠征に出かける事にした。


遠征と言っても、俺の育った田舎の町〈エマ〉に行って、孤児院に寄付の一発でもかまして爺さんを驚かせてやろうという目的だ。


こんな、命の軽い世界で頑張って俺みたいな孤児を育て上げてくれた恩人だ…

不労所得が有るので、ヂャラリと大金貨数枚を渡しても大丈夫だろう。


生まれ育った西の田舎町を目指して、クマ五郎の引く幌馬車でのんびりと、馬車の旅を楽しんでいるのだが…サスペンションはなんとも有難い物だ、完全とは言わないが、あの弾むような縦方向の衝撃がかなり軽減されている。


これで、道も舗装されれば長旅も怖くなくなるのに…

しかし、乗り換えもなく、アイテムボックスから食事も出せるので、食事休憩の調理時間も削れる上に、幌馬車なのでテントの設営も要らずである。


おかげで乗り合い馬車よりも快適だし、クマ五郎の頑張りもあり予定より早く目的地のエマの町に到着した。


『しかし…懐かしい…何一つ良い思い出は無い町だが、懐かしさは感じる…』


良く遊んだ小川、よく野宿した広場…

数年しか経っていないが、変化の有る場所を見つける毎に何故か少し寂しいような気分になる。


飢えをしのぐのを助けてくれたパン屋が無くなっていたり、知らない店がオープンしていたりと…


そして、一番の変化は…孤児院の爺さんが…死んでいた。


といっても、死体を発見したとかではない。


俺が、ガイナッツの国で暮らしていた冬に、風邪を拗らせてポックリ逝ってしまったとの事だ…

今は、俺の先輩に当たる〈ノーラ〉さんが孤児院を何とか切り盛りしているらしいのだが…どうもあまり上手く行って居ないらしい…


ノーラさんは旅商人の娘さんだったのだが、幼い時にエマの町の近くで盗賊に襲われ、両親と自分の右足の膝から下を無くして孤児院の爺さんが保護した足の不自由な料理上手なお姉さんで、俺にとっては母ちゃんのような存在だ。


爺さんに代わり、俺たち孤児の生活面を支えてくれたアラサー女子で、爺さんが足が悪く奉公にも出られず、冒険者にもなれないノーラさんを孤児院のスタッフとしてスカウトしたらしく、ノーラさんは十代前半から働いてくれていたそうだ。


正直、俺が稼いで寄付したかったのはノーラさんが居たからだが、しかし、現在は孤児院はかなりヤバイ状態らしい。


爺さんの呆気ない死に、発覚した借金…

ノーラさん自体に返済義務こそ被らなかったが、孤児院の土地は差し押さえられてしまい、

何とか好意で、約一年の猶予が与えられて、卒業し冒険者になる孤児院生や、商会に奉公にあがる孤児院生を見送って尚、二歳~九歳までの孤児五人の行き先が決まって居ない状態で、今は上の子が下の子の面倒を見てくれている。


勿論、俺と暮らし中にはオシメを替えた弟や妹分がこの冬には住む場所を失くすらしい…


『 そんなの許せる筈がない!』


ションボリしながら疲れ果てた姿で話してくれたノーラさんを見て俺は決めた。


今度は、俺が何とかすると…

何も出来ない俺を保護して、何とかしてくれたように…


俺は、


「ノーラさん…いや、ノーラ母さん。

決めてくれ、孤児院を買い戻して、孤児院を続けるか、別の場所で良ければ俺の買った新たな家で兄弟皆を連れて移り住むか…

なんなら、冒険者なりり立ての卒院生も連れて…」


と、俺が提案するとノーラさんは、驚き、


「ポルタちゃん、数年でそんな…家なんて無理でしょ?

あと五人なら私の裁縫の内職で細々なら食べれるし、それにポルタちゃんといつも一緒だったアゼルくんやメリザちゃんも冒険者になって、たまにお肉を届けてくれるのよ。

町の片隅の借家でなんとか10年程頑張れば、みんな卒業の歳にはなるから…」


と…


『駄目だ、10年身を削って生きたにしてもそれから先のノーラさんの人生はどうするの?』


俺は、


「ノーラさん、もしもの話で良いから答えて。

孤児院を買い戻すのと、皆で引っ越し…どっちが良い?」


と改めて聞くとノーラさんは、


「借金をしていた商会の会長さんは、無理な取り立てもしなかった上に、この土地の開発計画が纏まるまでの間住むことを許してくれました。

だから、買い戻して手間を掛けさせるよりも、他の町でもいいからユックリと暮らしたい…かな…」


と力無く答える。


『その願い聞き届けたり!』


俺は、


「安心してくれ、兄弟達が育つまでは勿論、ノーラ母さんの老後まで任せてくれ!

これでも冒険者と、蜂蜜農家の二足のわらじでガンガン稼いでいるから」


と答えた。


ただし、あと1~2ヶ月しないと母屋が出来ないけどね…

でも足の悪いノーラ母さんに楽をさせたい…


俺の言葉に半信半疑ではあるが、ノーラさんは頑張って背伸びした提案だとしても…「嬉しい」と言ってくれた。


ノーラさんは、


「ただ、ポルタくんとは14しか変わらないのよ…お母さんは酷いんじゃない?」


と言っているが、益々母ちゃんみたいに見える優しい笑顔だった。

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