第5話 強く成るために
悩んでみたものの少し暴れ過ぎてフラフラの状態で地上まではとても戻れそうにない…
渋々5階層の下のセーフティーエリアに行くと既に誰も休憩して居なかった。
『まぁ、初級ダンジョンのボス部屋前以外でキャンプする奴も居ないよな…』
と思いながら俺は、鞄から〈虫除けのお香〉を取り出して火を付ける。
これは以前虫対策に無理して購入したのだが、野宿のキャンプでは余り効果が無かったが風が吹かない閉鎖空間ならば俺を奴らから守ってくれる筈だ…多分…
と信じつつ、ここでは煙たいと文句をつける人間も周囲には居ないので、モクモクと漂うお香の煙に包まれて、その日が俺は眠りについた。
翌日も5階層でレベル上げと素材回収をして夜はお香に守ってもらい眠る。
幸い確実に強くはなっている感覚はある。
最初が激弱だった事もあり少し強くなっただけでも違いがよく解るのだ。
攻撃の威力や体の動かし方など、無駄が少なくなり疲れにくく成ったので日に日に狩れる魔物の数が増えて来ている。
明日は、試しに下の階層にチャレンジしても良いかも…と思うが、しかし明日で一旦地上に戻らなければならない…
そう、虫除けのお香を使いきったからだ…
食糧もまだあるのに…勿体ない…
しかし、虫除けのお香は絶対に必要だ!
スケボーサイズの奴が寝ている時にカサカサされた日には…考えただけで鳥肌が立つ。
しかし、確実に強くなってる気はするが、レベルアップの度にファンファーレが鳴る訳でもないしステータスが見れる訳でもない…
いや、正確に言えば、『無料では見れない』だな…
教会で、小銀貨5枚で見てもらえるが、そんな金があったら俺は迷わず飯を食う。
あぁ、本当に貧乏から抜け出したい…
『よし、明日は6階層の様子をチラッと見てから地上を目指そう。』
と、決めて俺は最後の虫除けのお香の煙に包まれて眠りに着いた。
そして次の日…
初めて6階層 にやって来ると、岩の転がる山間の様な開けたエリアだった。
『よくもまぁ、地下になのにこんな大空間と何の光か解らないが、明るく草木も生えているような場所が作れるんだな…』
と感心しながら所々に出ている山肌に水晶の様な物を見つけた俺は、気になって掘り起こすと、それは立派な拳大の水晶柱だった。
綺麗なのでよく分からないが鞄にしまう。
鉱物の知識は全く無いし、ダンジョンでは採掘も出来ると資料を読んだから何かしらの価値が付けばラッキーぐらいで、辺りをみるが鉱物探知もなければアイテム鑑定も無い上に、俺は掘り起こすスコップすら持っていないので、露出していない限り採掘は無理な話だ。
そして、少し歩き回ると丸い石がゴロゴロしている場所についた。
この階層でまだ魔物に会っていない…静かなエリアだなと思ったのもつかの間、石が〈意思〉を持って、俺に飛びががる。
驚きながらも俺はギリギリ避けれたが、
『ロックスライムか?』
と確かに、冒険者ギルドの資料を読んだが癖の強い手書きのレポートみたいな資料であり途中何ヵ所か書き手の集中が切れて文字が荒ぶるので読みづらい所があり予想も入ったが、スライムという文字は判別出来たし虫が居ないのが確認の重要事項だったので気にして無かったのだ。
正直、6階層からの魔物も〈何とかスライム〉が三種類と〈アタックボア〉に〈走りキノコ〉らしいが、どう考えてもロックスライムはマズイ…
なぜなら、俺が貧乏で頭部装備はおろか少し頑丈な作業着しか着ていないからだ。
どれがロックスライムか解らないゴロタ場で不意に石を投げつけられるような攻撃がくる。
片手剣からこん棒に持ち替えては見たが、野球等の球技全般苦手な俺が見事に打ち返せるとも思えない。
試しに、渾身の力で石を殴ると、パシュンと消えたので、
『やった!この方法だ』
と調子に乗ったのが二つ目は普通の石で、ただただ手が痛いだけだった。
「こんなのどうすんだよ…索敵系のスキル持ちしか無理だろぉがよぉぉぉ…」
と一人ボヤくが、ほぼ無個性の冒険者の俺とパーティーを組むような奴などいない世界…俺が索敵スキルを手に入れるか、または、他のスキルを手にして役に立つ冒険者にでもならない限り攻略は厳しい。
残されたのは実現可能なプランは、
『硬い装備を購入して我慢しながら通り抜ける』
ぐらいしか無さそうだ。
そうと決まれば、大人しく5階層に戻り敵を狩りながら地上を目指す。
鞄もこの三日で大分膨らんだ。
売れば結構な額に成るかもしれないし、虫除けのお香さえ有れば、残りでお鍋やお鍋のフタを購入して装備するという手段で突破も可能だが、どうせならば胸当てや兜は欲しい。
果たしてどれくらい貯めなければならないか解らないが、地上に上がったら必要な物を買ってから防具屋に行こう。
中古の良さげな防具でも有れば儲けものだが…
と、考えながらも危なげ無く地上まで帰還して、ギルドに素材の買い取りをお願いする。
すると、カウンターで、
「ポルタさん、惜しかったですね。
あと、角ウサギの魔石一つ有れば、Eランクに上がれましたよ。
それと、買い取り金額は大銀貨四枚と小銀貨三枚です。」
と渡された明細を見る。
『3日間の遠征で、四万三千円…妥当なのか?泊まりだから…微妙かなぁ
あの水晶は魔水晶かぁ、二千円とはなかなか…シャベルでも買って鞄に入れとくかな?』
と考えながらも、非常食や、虫除けのお香などの必要アイテムを買う。
アイテムショップの奥の棚には、ダンジョン産のマジックバッグが飾ってあり、小金貨二枚と書いてあった。
マジックバッグは、見た目より遥かに沢山の物が入り、いくら物を入れても重さの変わらない正に魔法の鞄で、中には大容量の物や時間停止の付いた物もあるらしいのだ。
俺の目の前の鞄は『荷車一杯程度』と 書かれているが時間停止は付いていないようで、それが、二十万円…安いのか?…よく分からない世界だ。
確かに、猪を狩って山から持って帰るのが楽になるかも知れないが、今の鞄を満タンにすることも出来て居ない俺にはスライムの激安魔石でも大銀貨四枚以上稼げる容量のある今の肩掛け鞄で当面は大丈夫だろう。
アシッドや、ポイズンならばノーマルわらび餅野郎よりは魔石の単価も高いので、夜通し戦ったあの時ぐらいにパッツンパッツンまで入れるくらい狩ればあの鞄だって夢ではない…しかし、今は装備が優先だ。
近くの防具屋に向かい品物を見る。
…革の兜や、革の胸当てならば、中古を買えるが…新品は無理だ。
鉄の帽子か鉄板入りの革の胸当てならば中古でどちらか買える…
鉄の帽子は革の帽子を鉄板で補強した物で鉄兜よりは弱いが鉄兜より遥かに軽い装備であり十歳の俺には丁度かもしれない。
革の兜や胸当てでは、ロックスライムの体当たりという名前の投石を食らっても跳ね返せそうにない…
胸当ては、もう一度狩りに潜ってもうワンランク上の鉄の胸当てでも良いかもしれないし、お金を貯めてマジックバッグも有りかも知れない。
『夢が膨らむよ…』
と、一人で悩んだ末に店のおやじさんに鉄の帽子の代金を払った時に俺は気がついた。
『宿代を…残してない…』
と…俺は泣く泣くダンジョンに戻り野宿スポットのセーフティーエリアを目指したのだった。
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