第4話 逢いたくなくて震える


「武器ヨシ、食糧ヨシ、毒消しヨシ、ポーションヨシ、砥石ヨシ!」


宿屋で1泊した翌朝、完璧な準備を整えて俺は改めてダンジョンに潜る。


まず目指すは6階層だが、多分今の俺では苦戦する羽目になるのは明らかなので、当面は中間のセーフティーエリアでキャンプしながら、5階層を回ってレベル上げと素材集めを頑張る予定だ。


少し強くなって自信がついてから中型のビックスライムと出会えたならばかなり大きな魔石もゲット出来る。


そして、初級ダンジョンを踏破できればDランク冒険者への昇格条件を満たして、あとは、冒険者ギルドの依頼達成ポイントや買い取りポイントさえ貯めればDランクまでは昇格出来る事になる。


昨日4階層までは下見済みでサクサク進め、注意するのはアシッドスライムの装備へのダメージと、ポイズンスライムの毒攻撃ぐらいだ。


複数で取り囲まれない限り大丈夫だとは思うが、油断は禁物…、片手剣で狙いをつけてスライムの核を砕くと、パシュンと乾いた音がなりコロンと魔石が転がる…


角ウサギも初見では苦戦したが、行動パターンが解ってきたら問題なく対応出来る様になった。


角ウサギの魔石と角を鞄にしまいながら成長している実感に喜びを感じる。


「そろそろ腹も空いたから、一旦セーフティーエリアに向かおう」


と、呟いて5階層の下り階段へと移動する。


5階層は見晴らしの良い平原風の殺風景なエリアだから迷うことはない…

そして到着したセーフティーエリアには、数名の駆け出しと兼業のベテランが昼飯を食べている。


そして俺はギルドの資料で知ってはいたがセーフティーエリアに水場があるのを生で見て少し感動した。


チョロチョロ水が湧き出す小さな泉がセーフティーエリアの隅にあり、冒険者達が喉を潤したり水袋に補充したりしている。


『よっぽどダンジョンはお客に来て欲しいようだ。

快適な空間を提供してまで人間を内部に留めたいのだろう…』


などと考えながらも俺も水袋を出して新鮮な水を補充し、セーフティーエリア入り口近くの空いてる場所に腰を掛けて乾パンと干し肉を噛り一休みしていると、


「兄貴、兄貴!」


と、呼ばれた気がして辺りを見るが俺を呼ぶ冒険者等いない…


『気のせいか?』


と思い、再び干し肉を噛ると、


「兄貴、こっちですよ。」


と、言われた気がする…


俺は、この感覚を知っている。


むしだ…


俺は最大級の警戒をしながら辺りを見回すと、ソイツは居た…前世も今世でも俺の一番の天敵…Gである。


足元からガタガタと震え出して思わず、


「うわぁぁぁぁぁ!」


と叫びだす。


俺の異変に気がついたベテランが鉈を片手に駆けつけてくれ、カタカタ震える俺に、


「坊主どうした?!」


と聞いてくる、


俺が震えながらデッカいGを指差すとベテラン冒険者が、


「ジャイアントコックローチか?セーフティーエリアでもこいつは平気で居るからな…」


といって、ベテランは鉈を振り下ろすと奴は切り裂かれドサリと地面に倒れた奴の体内から一欠片の魔石がコロンと地面に転がった…


目の前で起こっている生々しいビジュアルに鳥肌を立てながら、


『えっ、セーフティーエリアにも平気で居るの…』


という真実にあまりのショックで気を失いそうになる俺だが、ベテランの冒険者が、


「坊主、噛まれたのか?怪我は…」


と心配してくれる、


俺は体中に蕁麻疹が出てヘナヘナとその場にへたりこむ。


その様子を見たベテラン冒険者が、


「糞っ、俺の知らない毒の症状だ。

奴らは何でも喰うし、どこでも這い回る…知らない病や、毒を喰っている可能性もある…どうしたらいい…」


と焦っている。


しかし、


『 ごめんなさい、ただの拒否反応です…』


と言いたいがそんな雰囲気でもない…


なので、俺は鞄から毒消しを取り出して、ゴクリそれをあおり、さもこの毒消しが特効薬かの様に振る舞い、


「ありがとうございます…不意を突かれて…不覚を…」


と誤魔化した。


虫嫌いで、Gが死ぬほど苦手とは言えない俺は、ベテラン冒険者に感謝を告げた後で少し恥ずかしくなり足早に一旦5階層に移動した。


背中にベテランさんの、


「坊主、無理はするなよ」


との声を聞きながら…


『予定が狂った…虫が少ないがGが居るならそこはもう地獄だ…これでは全部台無しだ…』


と、やけくそでスライム達やウサギを倒すが頭に先ほどの奴がちらつく、これなら草原でダンゴムシやバッタに悩まされるほうがましかも知れない…


不安を拭い去る様に敵を倒し続ける。


『…ん、だよ!虫が居ない世界は無いのかよ!!』


いや、最悪居ても良いんだけど俺の側に来ないで欲しいし、視界にも入って欲しく無い…前世のGでも恐怖の対象なのに、今世のGはスケボーサイズなのよね…見ただけで産まれたての小鹿みたいに震えてしまう。


先ほどの真っ二つでグロテスクな奴の姿を思い出さない様に半日程暴れていたが、流石に少し疲れて来た俺は、


『どうしよう?地上に戻れば宿代が必要になるし、セーフティーエリアは無料だが、Gが出る可能性がありセーフティーでは無い…これは詰んだかも…』


と、悩んだとてどうしようもない現実と、究極にレベルの低い二択に頭を痛めるだけだった。

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