第16話 帰還と久しぶりの街
流れでなんとなくテイムしてみたのだが、正直ガタ郎が高性能なのだ。
偵察は勿論、物の影を渡って敵の背後から強烈な攻撃を仕掛けて倒してしまう。
強さ的には5階層迄の相手なら問題なく任せれるほどだった。
そして一番役に立つポイントが集まる虫の窓口となってくれる事だ。
〈えーい、旦那様とお話したければ、アッシを通してからにして欲しいでやんす。
文句の有る奴は力で言うことを聞かせるでやんすよぉ!〉
などと仕切ってくれるおかげで、俺は
「お帰りいただいて…」
と答えるだけで、バッタや団子虫に芋虫などに会わなくて済む。
ガタ郎には、
「コックローチの一族は相談無しでお引き取り頂いて」
と指示を出しているので、セーフティーエリアで虫除けのお香無しでも平気で眠れる。
有能な配下に守られながら俺はお肉集めを続けている。
時間停止のマジックバッグのお陰で、屋台で買った時のままの温かい食事や新鮮な野菜もダンジョンの中で食べられる。
ガタ郎は樹液を勝手に食べて、たまにオヤツにリンゴなど俺がデザートに買った果物を与えるぐらいで満足してくれている。
『燃費もいい奴だ…』
そんなこんなで5日潜って、鶏・猪・鹿・牛とバリエーション豊富なお肉が集まった。
「一度戻るか?」
と呟くと、
〈了解でやんす〉
と答えるガタ郎…もう、チームメイトのようだ…『虫なのに』…
それからダンジョンを地上に向かい上がって行き、
数日ぶりの地上で乗り合い馬車に乗りクレストの街まで帰ってきたが、腰へのダメージでぐったりしながら冒険者ギルドへ向かうと数日前と同じ配置で、酒場で飲んでいる夢の狩人の皆さんがいる。
一瞬、『本当に数日留守にしたよな?』と自分に確認してしまったが俺に気づいたオッサン達が、
「よう、ポルタぁ~、頑張って来たかぁ~」
と、べろべろで迎えてくれた。
俺が、
「えぇ、何とか…」
と、答えると、
「あー、入り口すぐのバトルコッコのもつ煮が食いたいなぁ~、あの屋台の爺さん死んじまったから…寒くなると思い出すよ…」
と酒飲みが思い出を肴に飲み始めた。
『あの内臓を美味しく食べる方法が有ったんだ…』
と感心しながら、
「では、買い取りカウンターに行ってきます」
と挨拶をして俺はギルドの奧へと向かう。
買い取り窓口で鞄から肉と魔石を出していると、ギルド酒場の女将さんがやってきて俺の並べた肉を見ながら、ギルド職員さんに、
「鶏皮と4つ、それとブロック肉を二つギルド酒場に回しておくれ」
と告げて帰って行った。
『あぁ、買い付けかぁ~』
と納得しているとギルド職員さんが、
「結構頑張りましたね。その年齢でダンジョンは大変だったでしょ?
ギルドカードにはソロって書いて有ったから野宿とか大丈夫だった?」
と、書類になにかを書き込みながら心配してくれた。
俺が、
「ダンジョンで仲間が出来たので初級ダンジョンよりかなり楽出来ました」
と答える。
すると職員さんは、
「では、パーティー申請しとかなきゃね」
と手を止めて俺を見る。
『いやいや、クワガタだけど…』
と思いながら、
「仲間になったのはコイツです」
とガタ郎を紹介する。
職員さんは、俺の影からピョコンっと現れたクワガタに一瞬ビックリしたが、マジマジとガタ郎を見つめた次の瞬間アワアワしながら職員さんは、
「か…影アギトですか?もしかして…」
と聞いてくるので、
「そうみたいですね」
と俺が答えると、ガタ郎も〈うんうん!〉と頷いている。
職員さんは、
「危険度Cのキラーベアーの討伐に続いて今度は危険度Cの暗殺クワガタの影アギトをテイムですか…?」
と少し呆れていた様であった。
俺が、
「駄目でしたか?」
と聞くと職員さんは、
「従魔の登録はお願いします…あと、街の中で暗殺は止めて下さいね。」
とお願いされた。
『いやいや、街の外でもダメだろ?!暗殺は…』
とツッコミたくなったが俺は言われた通り、登録を済ませて買い取り金を受け取る。
5日潜った成果が小金貨三枚以上になった。
本日は移動で疲れたから屋台で何か食べて宿屋で体を洗って寝る事にした。
ギルドから出る時に酒場を通ると酔っぱらい達が、カリカリに焼いた鶏皮せんべいをパリパリ噛りながらまた飲んでいる…
ギルド酒場の女将さん酔っぱらい達のおつまみの仕入れに来たようである。
『俺が倒した鳥魔物のヤツだな…』
と思いながら俺は酔っぱらい軍団に、
「お先に失礼します」
と声をかけると、彼らは、
「うぃ~」
と、手を振って答えてくれた。
『毎年冬場はあんな感じなのかな?』
と先輩達の肝臓を心配しつつギルドを後にしたのだった。
ギルド宿に帰る前に手にしたお給料で買い物に向かう…
日用品に、食糧…もう、腐る心配が無いので、乾パンと干し肉とはオサラバである。
温かな串焼き肉でも焼きたてのパンでもマジックバッグでそのまま保管できる。
容量もデカイので水袋も複数持ち歩けるし、ガタ郎の為に生野菜や果物を大量に購入し鞄にしまう。
『一年前には想像も出来なかった…財布の中身を心配しないで買い物が出来るなんて…』
などと、買い物をするたびに幸せを感じる俺であった。
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