第15話 お肉ダンジョンなのに


鶏魔物を探しては倒すのを繰り返しているが非常に効率が悪い…

鶏魔物は問題なく倒せるが探すのが大変で倒して出たのが、鶏皮に卵がメインでたまにササミがドロップして、そしてついさっき初めて鳥モモ肉が1つ手に入った。


鶏皮は十枚以上あるし、一度出てきた鳥の内臓は悩んだ末に、『折角だけとマジックバッグが汚れそう』との理由から断念した。


『臓物からレバーだけ外して自分用にするか?』


とも考えたが、そもそも鶏レバーもそんなに好きではないので今回はサヨナラした。


そのうちダンジョンが消してくれるだろう…

それから俺は辺りを見回して、


「もういいか、次に行こう…」


と呟き3階層を目指して移動したのだった。



3階層は森のエリアで、やはり数チームの冒険者がいる。


『木で視界が開けていないがこの階層も広そうだ…』

と思いながら歩き始めると、すぐに彼方から俺に会いに来てくれた。


猪魔物だが、初級ダンジョンのアタックボアよりも一回り大きくて、トサカの様なタテガミが特徴の…知らない猪魔物である。


『鑑定スキルでもあれば…いや、最悪魔物図鑑でも有れば…』


と考える俺だが、


『あれ?王都だから図書館ぐらい有るんじゃないかな…帰ったら探してみよう』


などと気楽に考えていたら、軽く無視されたのがお気に召さないのか猪は俺に向かい地表を滑るように突進してくる。


『早い!』


と、猪魔物のあまりのスピードに面食らった俺は、思わず飛爪を繰り出した。


顔面目掛けて横に振り抜くと、


剣の直線上に有る牙に当たり、ガキン!っと甲高い音が鳴り、俺の手元の剣にも手応えが伝わる…


やはり、『飛ばす』ではなくて、『伸ばす』だ。


と改めて確信した新たな相棒の固有スキルであるが、しかし、感心している暇はない…

軌道を逸らされただけの猪が仕切り直しして向かって来いるのだ。


今度は、一旦避けて側面から首筋目掛けて縦に飛爪を振り下ろす。


すると、俺の横を通り過ぎて走りながら猪魔物はパシュンと消えた。


その瞬間に急に気だるさを覚えた俺は、


『当面は1日三発だな…』


と、これ以上の魔力消費をしない様に飛爪の使用回数を決めただった。


ありがたい事に肉はかなり大きなブロック肉が手に入った。


ホッと一息つく俺だったが何処からか、


〈よっ、旦那!お見事でやんした〉


と声をかけられた…『気がした…』とかでは無く、直接脳に来るような…


『まさか奴か?!』


と、俺の直感が騒ぎだし辺りを見回す〈特に地面〉


『…いない?』


と思いながら俺がキョロしていると、


〈旦那、下じゃ無くて、上でやんすよ…〉


と言われて、俺は変な汗をたらしながら恐る恐る近くの木を見上げるとスケボーぐらいの黒い何が見えたとたんに、ブワッと音が出るかと思う程に先ほどの鶏皮のように全身に鳥肌が立つのがわかった。


しかし、声を上げたり震えることはない…平常心のスキルが効いているようだ。


木の上の黒い物体を睨み付けながら、剣を握り締め、


「出てこい!」


と叫ぶと、


〈御意でやんす〉


とカサカサと降りてくる……クワガタ……セーフ!ノットG、イエス!クワガタ…俺は心から安堵した。


虫の中でも、クワガタやカブトムシは裏側さえ見なければギリギリ耐えれる部類だ。


俺はクワガタに


「なんで食用肉のダンジョンにクワガタが居るんだ?」


と、文句に近い疑問を投げ掛けると、


〈旦那ぁ、越冬でやんすよ…外は冬でやんしょ?アッシらは寒いのは苦手でやんすから…〉


と…言って…


『って、会話してない?!』


と、俺は今更気がつき、『まさかぁ~』と思いつつも、


「クワガタさん、俺と話せるの?」


と恐る恐る聞いてみる。


すると〈ワッハッハ〉と顎をガチガチしながら笑うクワガタは、


〈アッシが喋れるんじゃなくて、旦那がアッシらと話せるんでやんすよ、なんと言ってもでやんすから〉


と教えてくれた。


『前からそんな気はしてたがヤッパリか…』


と、がっかりするやら納得するやら何とも言えない気持ちで、


「で、俺に何か用か?」


と聞くと、クワガタは、


〈えぇ、旦那の子分になりたいんでやんすよ〉


と言ってくる。


確かにインセクトテイマーでは有るが…


俺は、


「なんで、子分になりたいの…自由に樹液でも吸ってたら良いんじゃない?」


と提案するがクワガタは、


〈いえいえ、アッシらは数は居りやすが基本は弱く食べられる側の命でやんす。

しかし、主を得た場合は、主の力量に応じて強化され、賢く、強く、固くなり、寿命も長くなりやす。

しかも、旦那はこんなに話せる上に、配下になりたいの衝動が止まらない事からきっと王様でやんしょ?

アッシらにしたら、死んでもお仕えしたいし、配下になった時の恩恵が凄い、最高のお方でやんすよ〉


と、力説されたが俺は、


「えー、俺、虫苦手だしなぁー。」


と渋っていると、


〈そこを何とか…お試しで…何なら先っちょだけでも…駄目でやんすか?〉


と、仲間になりたそうに見つめながら懇願してくる。


「何の先っちょだよ?」


と俺が呆れていうと、


〈顎でやんす〉


と、クワガタはガチガチとやっている…


『確かに、ましな部類では有るが…虫だよ…』


と、悩みに悩んだ末に、


「わかった、俺に裏側を見せない事を条件に配下にするけど、俺は何をすれば良いの?」


と答えると、クワガタは、


〈いゃったぁぁぁぁ!旦那ぁ、有り難うごぜぇやす!契約は簡単でやんすよ。

アッシに手をかざして名前をつけるだけでやんす〉


と言いながら嬉しそうにガチガチしている。


俺は、言われるままに手をかざして、


「ガタ郎!」と呼んでみた。


すると、スケボーサイズのクワガタが光りだして一回り小さくなり、顎の形は波打つ様なカーブ状に変わる。


そして、光りが弱くなると、


〈有り難き幸せ、『影アギト』のガタ郎、この命、殿の為に!〉


と…種類どころか、キャラが変わってない?


「ガタ郎…キャラや語尾が変わったけど…?」


と聞くと、


〈殿と、魂が繋がり、殿の知恵や力を与えて頂きましたので喋り方も変えたでやん…変えました。〉


と答えるガタ郎に、


「いや、無理に変えなくて良いよ、気楽にやってよ語尾ぐらい。」


と呆れる俺に、


〈そうでやんすか?旦那様〉


と、ホッとしている様子のガタ郎であった。


「無理なキャラは疲れるよ …で、色々聞きたいんだけど?」


と俺がいうと、


〈何でも聞いて欲しいでやんす〉


と答える気満々のガタ郎に、


「なんで、姿が変わったのか?

影アギトとはなにか?…

あとは、俺の力を与えられたと言ったが、与えた俺は弱く成らないのか?の三点かな…」


と、質問するとガタ郎は、


〈まず、そうでやんすね。

旦那様の力を貰い受けた訳でなくて、共有したので弱くは成ってないでやんす。

むしろ、アッシの固さや顎の力も旦那様と共有されたので、旦那様がちょっと強くなる方でやんす。

そして、旦那様の王様パワーでアッシは進化して上位種の仲間入りが出来たでやんすよ…ありがたや、ありがたや〉


と言って前足をコシコシと擦り合わせている。


「いや、キモいキモい!コシコシは止めて!!」


と抗議する俺にガタ郎は、


〈失礼したでやんす…〉


と言って素直にコシコシを止めてくれた。


そしてガタ郎は説明を続けて、


〈そうでやんすね…あとは影アギトの説明でやんしたね。

簡単いうと、影に潜れる暗殺クワガタとでも言いやしょうか…まぁ、そんな感じでやんす〉


と言ってたのだが、俺は、


「影に潜る…?」


と、また解らないワードが出てきて首を傾げて考えていると、


〈いっぺんやってみやしょう!〉


と言ってガタ郎は俺の影にチャプンっと潜った。


「おっ、凄げぇ~!」


と驚くと、


〈そうでやんしょ!〉


と、自慢気なガタ郎の声が聞こえた。


「えっ?」


と、さらに驚く俺に、


〈影に居る間は旦那様の一部と同じ、考えた事は声に出さずとも…

あぁ、旦那様が流れこんでくりゅうぅぅぅ!ってな訳でやんす〉


と、俺の影の中から気色の悪い声を出しながら直接脳に伝えてきたのだ。


俺が思わず、


『キモい…』


考えると、


〈キモかったでやんしょ?!〉


と、言ってくるガタ郎…


とまぁ、要らない知識まで手に入れたガタ郎が仲間になってしまった…


しかし、普通ならぱ気を失っていてもおかしくない虫とのふれあい…あの時の平常心スキルがここまでの仕事をするとは…

と、俺とは思えない自分の振る舞いに俺自身が一番驚いているのであった。

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