第14話 お肉ダンジョンと試し切り


武器も買い揃えて時間停止付きのマジックバッグも買えた。


近接は魔鉱鉄の片手剣で、遠距離は鋼の弓…

丸盾が一枚に全身寄せ集めの中古の装備…次は装備も揃えたい気持ちもあるが、俺もまだまだ成長期であり当面はこの装備でも構わない…というか今買い換えても成長に合わせて直ぐにまた買いかえる事になるだろうから焦って最強装備を目指さない。


ある一定の防御力があり装備できればヨシとすることしよう。



そんなこんなでギルド経営の宿屋の延長をお願いしたので、今から1ヶ月はダンジョンを中心で稼ごうと決める。


度々ダンジョンに稼ぎに潜るのに、宿を取るのは勿体ないと思うかもしれないがギルド宿は空き部屋が埋まってしまえば再び空く保証が無いのだ。


一般的な宿は長い目で見れば高く付くし、かといって素泊まりのカプセルホテル的な宿は快適なギルド宿を知ってしまった後では少々キツイ…いっその事野宿なら我慢も出来るが、金を払って硬い板ベッドでは損した気分になってしまう。


だから温かくなり野宿が可能な春まではギルド宿を拠点にするつもりなのだ。


中古の寄せ集め装備を身につけて、冒険者ギルドのクエストボードを確認するが、やはり依頼はあまり無い…


「よし、お肉ダンジョンにアタックだな!」


と気合いを入れて、ダンジョン行きの乗り合い馬車乗り場に向かう為に移動する。


すると、ギルドの酒場で朝から飲んでいる熊の件でお世話になった〈夢の狩人〉の皆さんが酒瓶を持ち上げて、


「ポルタぁ、ゴチになってるぞぉ~!今度は、何処に行くんだ?」


と、ご機嫌で聞いてきたので、俺が


「中級のダンジョンに行ってみようかと…」


と、答えると、


「おう、行ってこい、行ってこい!若者はあれだね…元気だねぇ…」


と、酒瓶から酒を注ごうとするが既にカラ状態だ。


「おっ、いけねぇ、飲みきっちまった…奢りの酒は旨いからついつい飲んじまうよ」


と騒いでいる一団に、


「いってきます。飲み過ぎないでくださいね。」


と告げてから出掛けた。


冒険者ギルドの側から出ている乗り心地の悪い馬車に乗る事四時間以上…

俺は腰とケツにダメージを負いながらダンジョンの村に着いた。


お肉ダンジョンこと、正式には〈カラルダンジョン〉という名前で、入り口の村の名前も〈カラル〉である。


俺はカラルの冒険者ギルドの窓口でマーキングのサインを記入してからダンジョンに潜る。


一階層は普通の広い洞窟であり、敵も余り居ないのか?はたまた結構いる冒険者が移動がてらに狩ったからか?…兎に角敵も出て来ないただの通路的なエリアを過ぎて二階層に下る。


思った以上に下を目指す冒険者も居るようで階段を下る俺の前後に冒険者のチームが何組か一緒に移動している。


『やっぱり人気の稼ぎスポットは人も多いな…』


と思いながらとりあえず、ソロでの初アタックの俺は二階層でダンジョンでのお仕事を開始しようとすると、どうやら他の冒険者達はぞろぞろと下の階層を目指して移動を続けていた。


『彼らはボス戦目当てのチームか何かなのだろう…』


と予想して俺は彼らの背中を見送る。


このカラルダンジョンは下に行けば行く程に良い肉が手に入りやすくなる。


全30階層のダンジョンで、10階層毎に敵が強くなるが、肉はその分ランクアップする。


殆どの冒険者が10階層から20階層階層で狩りをするらしく、その辺りが敵の強さと肉の買い取り額の割合で一番の稼げるらしい。


ボスを倒してメダルが手に入れば次回は転移陣で11階層から20階層で狩りができる。


それより深い階層は、凄い良い肉も手に入る可能性が有るが敵もかなり強くてBランク冒険者が貴族のパーティーなどで使う肉の納入依頼などで踏み入る場所らしい。


俺は武器は少々良い物になったが成り立てホヤホヤのDランク冒険者であり、まずは無理はせずに10階層迄の間でじっくり強くなりながら稼ごうと思っている。


本格的な中級ダンジョンという事に少しビビっているのか草原エリアの二階層は初級ダンジョンよりとても広く感じた…まぁ、実際に広いのだが…

とりあえず奥を目指して歩き出したのだが、何が出るのか?何処に居るのか?など俺には全くわからない。


資料では、


『魔物のレベル帯はそのままで色々な食用魔物が出現』


としか書いてなかった。


『同じ肉で飽きさせない為のダンジョン側の配慮かな?』


などと考えてながら索敵スキルなども無い俺は、警戒をしながら歩き回るしかない…

まばらではあるが冒険者がいるので何かはいるはず…


と、俺は注意して辺りを見回すと鶏の様な魔物がいた。


名前は解らないが、かなり大きくて手羽先だけでも「ブーメランか!」っていうぐらいの大きさのが取れそうだ。


そして、巣に近づきすぎた俺に確実な敵意を向けて巣から立ち上がり、


「コケーッ!」


と威嚇してくる。


『立つと更にデカいし好戦的だし…シャモかよ!』


と悪態をつきながら剣と盾を構える。


『そういえば、この剣は固有スキルが有ったな…確か飛爪だったか?…でもどうやるんだろう…』


と一瞬悩むが、この世界で技名を叫びながら戦ってるヤツを見たことがないから、


『念じればなんとかなるだろう…』


との結論に至り俺を蹴り飛ばす気バリバリの鶏魔物の首めがけて、間合いの外から横なぎに剣を振り抜く…


何かが体からフッっと吸い出される感覚があり、


同時に鳥が「グゲっ」っと小さく一鳴きして、その首と周囲の背の高い草が凪払われて宙に舞いパシュンと消える鶏魔物…


「えぇぇぇぇっ!」


と、購入したばかりの剣を握りしめながら俺は思わず声をあげてしまった。


『びっくりした。何が完全下位互換のスキルだよ!』


と驚きながらも俺はさっきまで鳥魔物がいたところと手元の片手剣を交互に見ながら今起こった事を整理してみる。


今のは店員さんが言っていた斬撃をスキルでは無いよ…別物のスキルだ。


固有スキルの名前が『トビヅメ』だから勘違いしやすいが、振り抜いた切っ先の延長線上にある草も凪払われた…まるで切っ先が伸びた様である。


何か体から出て行ったのは魔力だろう…


『そうか!魔力で切っ先を伸ばすスキルかも知れない…』


ならば魔力が距離に応じて霧散して威力が下がるのであれば、1メートルほどしか効果が出ないのも分かる。


初めから六割程度の威力の斬擊を飛ばすインパルスショットとかいうスキルの目的が違う…

俺の予想が正しければ、魔力が有れば俺のこの片手剣はいざという時に刃渡り2メートル近いとんでもないリーチの武器とイコールの代物になる。


『大当たりを引いたかもしれない…』


と、興奮する俺だったのだが、しかし、俺の魔力量とか飛爪の使用魔力とか全く解らない…

ゲームとは違い、この世界では魔力が無くなれば魔法が打てなくなるだけではなくて、聞いた話では魔力切れと同時に意識が遠退くらしい。


孤児院の爺さんにも、


「冒険者になるなら魔力切れで魔物の真ん中で寝てしまうバカにはなるなよ」


と言われたが、


『魔法がそもそも使えないから…』


と思っていたが、まさか自分が魔力量とか気にする時が来るとは…


『爺さん、俺、成長してるぜ…』


と、俺は遠くの爺さんに届く筈もない報告をしながら、


ドロップした〈鶏皮〉を拾いあげるのだった。


肉じゃ無いのかよ…しかし、鶏皮串何人前だ?…デカイし、何かグロいな…

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