第17話 初依頼と遠い目標
ガタ郎を仲間にしてから何度かダンジョンに潜り、今では9階層でも平気で、お肉集めが出来る様になっている。
お金もソコソコ貯まったが買い取りポイントのみではCランクへのランクアップは厳しい…
なぜならば、冒険者はクエストをこなしてナンボの商売だ。
依頼を受けて、その依頼を達成して初めて冒険者としての信頼が生まれ、依頼を数多くこなした冒険者という称号としてポイントが入り冒険者のランクが上がってゆく。
たとえば冒険者が気に入った街で家を買うにも、現金は勿論のことBランク以上という信頼が無いと簡単には家も買えないので、大概の冒険者は宿屋生活が続き宿代を稼ぎ続ける生活になる。
クレストの様な街ではなくド田舎にでも行けば、今の俺のランクでも農地と家が買えて、兼業冒険者として暮らす道も有るが、嫁も居ないのに田舎で畑を耕して落ち着くのには早い気がする。
しかし、Dランクまでは頑張り次第でわりとすぐだと聞いていたが、Cランク冒険者に上がるのには、かなりのポイントを要する。
確かに、Dランクの依頼からの達成ポイントは桁が違うのだが、今まで数百とかで昇格したのに、Cランク昇格するには数万を越えるポイントを要する。
買い取りのみならダンジョンに潜っても一回100ポイントほど…金は入るが昇級にはかなりかかる…
冒険者の世界では、Bランク冒険者になって初めて一人前と認められる厳しい世界なのだ。
ちなみに俺のDランクなどはひよっこ扱いで、1つ上のCランク冒険者ですら半人前扱いなのだ。
半年前までのGランクはまさにゴミ扱いである。
『良く頑張ったがまだまだ先が長い…』
季節は春になり、ようやく魔物も活発になる季節…
つまり農家も畑を始めて、畑への被害を訴えたりする様になり農地を荒らす魔物の討伐など、Dランク冒険者に丁度の依頼がちらほらクエストボードに並ぶ様になっているのだ。
「よし、始めてクエストを受けようかな?」
と呟く、
今までは、クエストボードには載らない俗にいう『いつでも依頼』や、クエストボードに有っても手続き無しで誰でも参加出来る大量発生クエストぐらいしか受けて来なかった。
流れで熊を見つけてクエストに移行した事はあったが窓口で依頼を予約するのは初である。
〈旦那様、良いの有りやしたか?〉
と、影に潜っているガタ郎が聞いてくるので、俺はクエストボードを眺めながら、
『羊農家から羊を襲う森狼の群れの撃退か、もう1つは、果樹園のオーナーから冬の間に果樹園を縄張りにした黄色熊って奴の討伐依頼ぐらい…かな?』
と心の中で答えると、影の中でガタ郎が、
〈果樹園を守りたいでやんすよ。
頑張ったら樹液吸っても良いでやんすよねぇ?〉
と騒いでいる。
『オーナーが許してくらたらね…』
と、釘をさしたがガタ郎が、
〈殺るでやんすよぉ~〉
と、暗殺で有名な影アギトが、『殺る気』を出しているので、俺はギルドカウンターで果樹園からの依頼を受ける事にしたのだ。
クレストの街から馬車で丸1日の山あいの村だが、乗り合い馬車などなくて馬車をチャーターするか歩きになる辺鄙な集落であるのだが、依頼主から『なるべく早く』と注文の追記が有ったのでクレストの街で小型の荷馬車をチャーターした。
馬一頭と御者のマイクさん付きでお値段なんと大銀貨一枚…
『仕事を受ける為の出費にしては微妙に痛い…』
拘束日数が伸びれば伸びる程にチャーター馬車の追加料金がかかるので俺は『帰りは歩く!』と覚悟を決めて片道のみでお帰り頂いたのだった。
そしてチャーター馬車で到着したのは山の麓の農村…と言ってもほぼ果樹園の関係者のみの村のようだ。
着くなりオーナー風の偉そうなオッサンに、
「来てくれたのは良いがこんな子供か?!」
と失礼な挨拶をされた。
イラッとした俺だが、
『これもランクアップのポイントの為だ!』
と自分に言い聞かせてグッと堪えて、少し引きつる笑顔で、
「クレストの街から来ましたDランク冒険者のポルタです」
と挨拶を返すとオッサンは、
「あぁ、今オーナーを呼んで来るから待ってろ…」
と…
『イヤ、お前誰だよ!!』
と心の中でツッコむ俺の影の中からガタ郎が、
〈何でやんす?テッパンの果樹園ジョークでやんすか?〉
と呆れている。
暫く待つと、杖をついた気の良さそうな爺さんが現れて、
「ようこそ、こんな遠くの田舎の依頼を受けて下さり有り難うございます」
と丁寧な挨拶をしてくれた。
俺も改めて、
「クレストの街から来ましたDランク冒険者のポルタです」
と頭を下げると偉そうなオッサンが、
「オーナー、こんなガキで大丈夫なんですか?
熊ですよ、黄色熊…」
と言ってくる。
流石にカチンと来たのだが、オーナーは杖を目にも止まらぬ速さでビシッっと偉そうなオッサンの目の前に突き付けて、
「黙らないか、なんと失礼な台詞を…」
と言葉少なく怒りを表す。
すると、偉そうなオッサンは冷や汗を流し入れながら、
「も、申し訳ございません…」
と、謝っているが俺はたまらず、
「オーナーってかなり強いんじゃないですか?…俺なんか来なくても良かったんじゃ…」
というとオーナーの爺さんは、
「ホッホッホ、私も元はBランク冒険者でしたが、この歳と悪くなった足では…とても、とても…」
と笑っている。
俺は、
「では先輩、頑張りますので黄色熊の縄張りに誰か案内をお願い致します」
と、お願いするとオーナーは偉そうなオッサンに、
「ちゃんとご案内するように!」
と指示をだす。
急にヘコヘコしだすオッサンに案内されて、果樹園の上の方に見える山肌に穴を開けて住んでいる熊に会いに行った。
辺りの木々には爪で引っ掻いた様な縄張りの印がある…
『かなり爪の幅が有るな…大きな個体かも知れない…』
などと考えてて少し緊張する俺だったが、しかし影の中からは、
〈あぁ、爪跡から樹液が、うまそう…〉
と、ガタ郎の欲望まみれの声が聞こえてきた。
さっさと終わらせて、樹液舐めさせてやらなきゃ拗ねてしまいそうだなと感じる俺は、
『さぁ、殺りますか!』
と気合いを入れるのだった。
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