第132話 身の回りの変化と進化


街は順調に成長し、俺の人生も順風満帆…半年後の結婚式に向けての準備を進めている。


非正規職員の芋虫さんの努力の結晶であるヨルドシルクでドレスを作り、

パーティー用のお肉はアイテムボックスに装備用に狩ったドラゴンのお肉が入っているし、あとは、挨拶回りぐらいになった。


『あぁ、俺も結婚か…』


と、しみじみと思う。


そして俺の周辺でも色々な変化があった…


まず、ドテが進化して喋れる様になった。


多分シシリーさんの魔王スキルに眷属認定されたら自動に発動する魔族や魔物の中の異世界からの遺伝子を活性化するバフみたいなヤツであろう。


見た目も優しい青年風になっていて、ある日の朝にいきなり見たこと無い青年に、


「兄貴おはよう!」


と、食堂で言われた時には驚いた。


キョトンとしている俺に青年は、


「いつもの朝の挨拶しただけなのに、おかしな兄貴だな。」


と笑って去って行ったが…


「兄貴?」


と首を捻っている俺は、暫く考えたのちに



『えっ、ドテチン?!』


となり、改めて腰を抜かした。


…まさか、毎朝俺に会いに来て、


「うがう!」


と、言ってから生き物の世話に向かうのが「兄貴、おはよう」だとは思わなかった…


そして、俺は落ち着く為に、朝のお茶を飲んでいるとドテが食堂に帰ってきて、


「兄貴、オイラしゃべってる?!」


と、今頃気がついたようだ…


彼は職場のワイバーン牧場に行って、「おはよう」と、いつもの挨拶をしたら、同僚に、


「ドテか?」


と質問されて、


「そうだけど?」


と答えてから暫く会話をしてはじめて、


「あれ!?里のオーガ以外と喋ってる!」


と気付いて慌てて確認の為に戻ってきたらしい…かなりの天然だ…


「何か朝から、服がブカブカするから、痩せちまったかな?って思ってたけど…」


と言っているが、『痩せた』ぐらいの変わり様では無い…別人だ。


…あと、ミヤ子の見た目がステンドグラスの様な羽根の妖精風の姿にかわり、話せる様になっていた…


心配になり俺の従魔を一通り呼び出したが、大きな変化はミヤ子だけだった…


しかし、全員が、何かしらの小さな変化を感じており、ガタ郎は、


〈顎の威力が前よりも上がったでやんす。〉


と言っていた…


詳しい事はあえて触れないが、これも俺と深い絆で繋がったシリーさん…いや、シシリーの魔王スキルの恩恵が俺の配下にまで伝わったからであろう。


ミヤ子のみ大きな変化が有ったのは、単騎でドラゴンを狩った事が有るのがミヤ子だけだ…


多分レベルの問題で超進化したみたいだ。


結婚式の打ち合わせで教会を訪れた際に、ついでに俺のスキル鑑定もしてもらうと、


レベルは112に上がって、

インセクトテイマーとアイテムボックスはスキルレベルマックスになっていた。


無限収納は嬉しいのだが、正直、Aランク冒険者並みのレベルに到達したが、俺はもう冒険者として働く事はなく…冒険者のランクもお飾りとなってしまったのが悲しい…


Aランク冒険者にはドラゴンテイマーや達人級の武芸者もいて、上級ダンジョンの下層目指しアタックをしては、エリクサーや聖剣等を持ちかえっているそうだ…


あちらの方々は領主になってみたいかも知れないが、俺は一度で良いからAランク冒険者を目指して、上級ダンジョンに潜っておけば良かったと少し…ほんの少し悔やんでいる。


なんせ、なかなか抜け出せない底辺冒険者の日々を過ごし、いつかは高位のランクの冒険者になってダンジョンの下層を目指す…なんて妄想をしていた事も有った事を今更ながら思い出してしまっている…


無い物ねだりだとは理解しているのだが、将来子供が出来て俺の全て譲ったあとの楽しみにとっておくのも良いかも知れないが、前世の知識からもチャレンジは後になればなる程、手元の安心や幸せを手放したくないという〈欲〉が出てしまい踏み出せなくなるものだ…


幸せな期間なのに、少し寂しく…

って、あら、いやだ…マリッジブルーってヤツ?

本当に有るんだ…都市伝説だと思ってた…


などと、新しい発見に驚く毎日だが、もっと驚く知らせが舞い込む事となる…


ある日、帝都から転移を使い、伝令職員さんがヨルドに訪れ、


「大至急シシリー魔王陛下同伴で宮殿に来られたし!」


との連絡を受けた。


『もう、悪い予感しかしない…』


シシリーさんとアベル騎士団長とサントス文官長を連れて転移した帝都は、少し物々しい雰囲気で宮殿内もピリピリしていた。


そして、皇帝陛下に謁見するのだが部屋に入るとすぐに皇帝陛下が深々と頭を下げ、


「すまぬ…余の失態だ…宝物庫に賊が侵入し…魔王国より預かっていた至宝の数々を奪われてしまった…本当にすまない…」


と詫びる皇帝陛下だが、魔王国の物ばかりを盗むとは…何ともキナ臭い。


皇帝陛下は、


「余の影達を放って行方を探させている…暫くすれば何か手がかりを掴むやも知れないが…とりあえず奪われた至宝のリストだ。」


と差し出された資料には効果は分からないが、

〈魔神の斧〉だの

〈幻惑の鎧〉だの

〈サタンサーベル〉だの

と、呪われそうな装備の名前が並ぶ…


『ん、だよ!?サタンサーベルって…盗賊はあれか?黒いバッタのバイク乗りのライバルの、シャドウなムーンさんか?』


何だろう、凄く嫌な流れだ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る