第131話 やっと出来たプロポーズ


どうしよう?…

先日からアゼルとメリザがヨルドに引っ越して来たのだ。


別に嫌とかではないのだが、これはいよいよクレストの街から正式な抗議が来るかもしれない…


そして近づくシシリーさんを議長とする婚礼会議…


折角男を見せななきゃ!と各地を巡り、装備に使う希少金属の買い付けなどのついでにこっそり自腹で購入した装飾品用の希少金属に、今はサファリエリアの人気者のカーバンクルの仲間を森で狩って、ダイヤモンドもゲットして、ベルト爺さんの匠の技で婚約指輪にしてもらったのに…


俺の予定では、シシリーさんに正式なプロポーズの後、数ヶ月のイチャイチャ期をはさみゴールインをする予定だった…


あの可愛らしいカーバンクルも俺は心を鬼にして狩ったのに…

サファリパークやファミリー牧場も、二人のデートコースとして整備を頑張ったのに…


なのに、なぜ、現在4対1の構図で結婚を迫られているのでしょうか…


しかも、半数は妹的な…いや…妹ですね…がっつり妹…。


『本当にどうしたら良いのよ!』


俺は、案外古風なのに…いきなり嫁さん複数なんて…しかも、血は繋がってはいないが妹とし長年過ごして来たのに、いきなり嫁にしろと言われましても…いや、大昔は近親婚って有ったらしいし…


『って、落ち着け俺!まず落ち着け!!

4対1がまずダメだ!…多数決に出られたら勝ち目が無い…

これは、個別に呼び出して、話し合いで解決しよう!!』


という意見で俺の脳内会議が閉会した。


4対1では勝ち目が…って俺は今、誰と何を戦っているのだろうか?…


しかし、こんなデリケート中のデリケートな問題をこんな大人数ですることがそもそも間違いないなのである!

そう、きっとそうなのである!!


ということで、まずは婚約者のシシリーさんから、おデートという名目で外に誘い出す。


残された三人も、


「デートならば…」


と、個別で話し合う時間を認めてくれた。


シシリーさんとは凱旋パレードの時に帝都で何度かお忍びデートをしたのだが、大概甘いモノを食べるデートに落ち着いた。

それというのも魔王国の孤児院出身のシシリーさんは、甘いモノなど殆ど食べる機会が無かったらしい…


俺を気に入ってくれた理由には少々不安が残るが、多分俺と気が合うのは同じ孤児だった事も有るだろう。


そして、覚醒して魔王になった後も極寒の地で殆ど外との貿易なども無かったので、甘いモノなど夢の食べ物だったと言っていた。


シシリーさんが、


「甘いお菓子と暖かい家族は、魔王に即位しても手に入らないと諦めていたの…

でもね、あの謁見の間でポルタを見て、この人と暖かい家庭を作りたい!と思ったの…」


と言ってくれた事が有った。


その言葉で、俺も、


『よし、シシリーさんと暖かい家庭を作って、甘々のお菓子に負けない、シロップ漬けみたいな未来を…』


と思っていたのだが、シロップの海に船出する前に大船団になりそうな勢いです。



しかし、まずは男として筋を通すのが先と、今回もヨルドのカフェでのデートにしてパンケーキ越しに彼女に、


「シシリーさん、これを受け取って下さい…」


と指輪を渡した。


『何て所でプロポーズしているんだ!?』


と思うだろうがシシリーさんにとっては、甘味が食べれる場所は〈どこぞの夢の国〉とイコールであり、一番好きなパンケーキは、例の〈ネズミーマウス〉とイコールなのだ…


つまり、俺は今、あのシンデレラの城をバックにプロポーズしているのと同じ!!


…と思いたい…


仕方がないのだ…シシリーさんはデートとは甘味!とインプットしてしまい、夜景を見下ろしてプロポーズするにはヨルドの町は薄暗過ぎる…せめて何処かの王都ぐらいは人がいなければならない…


無い知恵を捻りだした結果がコレなのだ…


しかし、シシリーさんは、涙を流して喜んでくれた。


頬っぺたに生クリームをつけたままだが…


俺は泣いているシシリーさんの隣に回り込み、頬に手をあててそっと生クリームを親指で拭うと、シシリーさんはそっと目をとじる…


『えぇ?チュウをしろと…生クリームを拭いただけだよ…プロポーズで既に注目を集めていますよシシリーさぁ~ん…』


という俺の嘆きなど誰にも届かず、何故だろう…周りの目が、


『くっちびる、アッソレ、くっちびるぅ!』


と囃し立てている…様に思え…

いや完全に、『イケ!』って声に出さずに言いいながらパンケーキを食べることも忘れてこちらを見ながらナイフとフォークを握りしめているお嬢さん方が…


『シシリーさんも待っている…』


と、状況を確認したが、


『行くしかない!』


俺は腹をくくり、シシリーさんにキスをすると店の中に歓声がこだまする。


「キャー素敵!」


とか


「お幸せに!」


とか


「ご領主様万歳!」


などと…恥ずかしいすぎる…

あと、「ケッ、爆発しろ…」と呟いた男性店員…貴様はアウトだ。


今晩カサカサ祭りの出張サービスをプレゼントだ…まぁ、安心しろ十ぴき程度の小さな祭りで勘弁してやる…



それからは、シシリーさんと込み入った話がしたいので屋敷に戻り、静かな場所で俺の秘密や結婚感などを話した。


シシリーさんは、ある一定の理解を示してくれたが、やはり、嫁希望連合と家族になるのが夢らしく、


「私の夢を叶えてくれないの?」


と言われてしまった…


『グハッ…詰んだ…言い返せない…』


個別に対応するはずが…俺はもう彼女に反論すらする事を諦めた。


『だって、惚れた女のお願いが聞けなくてどうする!?』


しかし、


「シシリーさんとちゃんと夫婦したいから」


と滅茶苦茶お願いして、シロップの海に漕ぎ出すのはまずは一艘で、大船団になるのは暫くの猶予が与えられ、なんとかいきなり嫁多数の大船団での出航は回避されたが、

立ち寄った近くの島で船団か増えるのは目に見えてしまっている…


『これは解決ではなくて先延ばしだな…』


と、頭が痛くなりそうだった。


しかし、予想外だったのが、俺がプロポーズしたカフェが、恋人達の聖地になり真似てプロポーズする者が後を絶たないらしい…


現在ヨルドの街は結婚フィーバーに入っている。


せめて、沢山人口を増やしてくれたら、静な屋敷のベランダでプロポーズが出来るかもしれない…


頑張れ新婚さん達よ…

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