第133話 思いもよらない襲撃


何か有るかと警戒しながら待つこと2ヶ月経つが…特に何も無い…

そして皇帝陛下からの定期報告も「進展なし」の報告しか来ない事で更に不安になる俺達だが、どこの誰の仕業かも解らない限りは周囲を警戒する程度しか出来ない…


可能性は薄いけど、ただの物取りの可能性も捨てきれないのだが、魔族の秘宝ばかりが金銀財宝が犇めく宝物庫から盗まれたという事実から何の意図を感じる。


帝都の貴族達は魔族の残党の犯行を心配しており、折角雪解けムードになりつつあった魔族への厳しい拒否反応が再び再燃してしまっている…


『良くない流れだ…』


ストレスな事ばかりが増える中で、とんでもない報告が商会のヨルド支店長ヘンリーさんから入ってきた。


ヘンリーさんは商品の売り込みの為に馬移動が多く、テイマースキルを買っていたのは知っていたが、俺たちの従魔召喚でメモを届けた話を聞いて、

拠点の牧場の責任者であるライラさんとヘンリーさんで従魔召喚を取得して、お互いの手紙入れを装備した従魔を交換して緊急連絡手段にしていたらしい…


『確かにヘンリーさんが個人で1羽だけ卵鳥を飼っていたのが不思議だったが、謎が解けた…あれはライラさんのテイムした卵鳥だったんだね…』


と理解した俺だったのだが、普段ヘンリーさんは文通のような、『暖かくなりましたね』とか『花が咲きました』みたいな文に和まされていたらしい…


『おっ、なんだい?ヘンリー支店長はライラさんとそんな仲なのかい?…それは何とかしないとなぁ…』


と俺がヘンリーさんとライラさんの今後を勝手に妄想していると、ヘンリーさんが、


「今朝の報告で、早朝オーガ村が襲撃されたらしいのです」


と言われ驚いた俺は急いでアベル騎士団長とドドさんとルルさんを連れて転移して拠点に戻ることにした。


ドテチンが「行きたい!」と騒いだが、転移スキルの人数のこともあり、なんとか留守番をお願いして文字通り飛んで拠点に戻ったのだが、拠点では皆が普通にいつもの作業をしている…


「えっ、襲撃者は?」


と俺が思わず聞いたのだが、ノーラさんがパタパタと最近お気に入りの羽の色が少し白っぽいマサヒロの娘とドッキングしたまま、ハニーとマリーを引き連れて飛んできて、


「ポルタ君、賊はもう無いよ…」


と、いう…


『無い?』


〈いない〉とか〈帰った〉とかではなく〈無い〉?…と、思っていたらマリー達はお腹を擦っていたのを見た俺は全てを理解した。


どうやら、ウチの子達は賊を捕らえたのでは無くて食べちゃったみたいだ…怖いよ…


ノーラさんの話では明け方にセミ千代の緊急警報で起きて、虫達に誘導されてオーガの里に向かうと、約300の鎧を身に纏った一団とその従魔らしい魔物500程が山の裏手から駆け上がり押し寄せてきたらしいが…


非番のミヤ子とその子供達が…って、ミヤ子も家庭を持ったんだね…と驚く俺だが、

それよりも、千近い敵をミヤ子ファミリーが一撃で半壊させて、残りは防衛隊長のカブ太の号令のもと、5000を超える虫の軍勢が…


「って、非正規従の虫達も増えてない?…」


と、要らないところが気になり話が入って来ない俺だが、要するに雑魚は虫達が蹂躙して、敵将はパーフェクトノーラさんが右手にドッキングしたマリースティンガーパンチで沈めたらしい…


「全く…ノーラ母さんまで何してるの!!」


と呆れてしまうが、一緒に戦ったフルアーマー・クマ五郎は、


〈 まさに蝶のように舞って、蜂のように刺す見事な戦いぶりだったんだなぁ〉


と、ノーラさんを誉めているが…本当に蝶が舞って蜂が刺したのだよ、クマ五郎…まぁ、無事だから良かったけど…


俺は、ノーラ母さんに、


「ノーラさん危ない事は控えて下さいね…」


と、心の底からのお願いをしたのだが、当のノーラ母さんには


「はい、はい了解…今度からは遠距離攻撃にするね。」


と、笑顔で言われた。


『いや、そういう意味でなくて…』


と思うと同時に、ウチの装備系従魔にマリーも入っていたとは…ノーラさんの発想力って…と、少し感心した俺だった。


1日1回のマリーの必殺技の致死毒針だが、数千いるマリーの娘をカートリッジの様に交換すれば、致死毒パンチが数千発繰り出せる事になる。


あまりの殺傷力とそんな攻撃を考えついたノーラさんに、『ノーラさん、恐ろしい子…』と、白目で驚きそうになる。


しかし、結局、現在残っているのがマリーの強力な致死毒で虫達も食べない敵将の遺体と、中身が溶けてお肉だけ無くなった魔物と人の皮と骨…あとは装備品の数々…そして、嫌な事に鎧には同じ家紋が入っていたのだ…


「お貴族様の騎士団じゃねぇーか!!」


と、この証拠だけで、もう色々理解してしまった俺は、体の穴という穴から血を吹き出してはいるが、敵将は帝都の会議で見たことのある…魔族嫌いの派閥の国の国王と一緒にいたヤツだと思い出し、


『魔族嫌いだからって、静かに暮らしているオーガを襲うかね?…気が知れないよ。』


と、怒っていると、アベル団長が、


「ポルタ様、コイツはフェルド隣の勇者の末裔の国、ヨーグモスの男爵だぜ。」


と教えてくれた…


他の国に乗り込んでの軍事行動だから皇帝陛下にチクれば良いんだろうけど…

あの反魔族の派閥って勇者の末裔かよ…ややこしい…と俺は頭が痛くなりガックリしていると、するとまたアベル団長が、


「あぁぁぁぁぁ!」


と騒ぐ。


「今度はなに?」


とうんざりしながら俺が聞くと、アベル団長は、


「魔王国の至宝ですよ!この槍!!」


と叫ぶ、


「本当に?」


と念をおす俺に、アベル団長は、


「自分が、運んだオルトロスの槍っていう、なんでも狼系の魔物を使役する槍ですぜ!」


と…


確かに魔物が500程居たらしいが…だとしたら最低だな…よりにもよって、お隣の反魔族派閥の国が丸ごと(敵)で(賊)の様だ…とりあえず、アルトワ国王に自国内で戦闘が有った事と、皇帝陛下にキッチリとケジメをつけるように報告して…


アンリ達には拠点の、アリス達には魔王国の更なる防御をお願いしようと決めた。


多分、奴らは魔族がターゲットだし、魔族と友好的な勢力も危ないだろうから、方々に連絡を回そうと、帝都に向い、物的証拠のオルトロスの槍と鎧に死体を皇帝陛下に提出して報告をする事にしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る