第71話 オークションという戦い


ダンジョン中心の生活を繰り返して春がきた…

冬越しクランが冬場の成果を売り払うために珍しい物はオークションに回される事になる。


俺たちは主に金、銀、宝石類を売り払い、鉄と魔水晶とミスリルは残してアゼルとメリザの装備用にする予定だ。


俺の幸運のペンダントは微妙に採掘の運も上がるようで、20階層のボス部屋前に拠点を置いて19階層で採掘したわりには、確率の低いミスリルや宝石類が結構まじり、有難いことに金鉱石がかなりの量手に入った。


二度目のダンジョンアタックでアゼルとメリザも10階層のボスの討伐も出来たし、最終的には俺とクマ五郎で20階層のボスであるゴーレム二体の討伐をして転移陣で帰ってきた。


『一瞬、二体のゴーレム共にあの時みたいに二段階ゴーレムだったら!?』


と焦ったが、ただのゴーレムで中からロム兄さんもレイナも出て来ない様で、ホッとしたのだった。


多分次回は少しアゼルとメリザに固い魔物対策を追加すれば、二人でも20階層のボスを倒せるだろう。


しかし残念ながらエクストラポーションは結局宝箱から手に入らなかったが…ダンジョン産の装備が結構手に入り、スキルスクロールも2つ手に入った。


一つは回避のスキルで、既に持っているスキルなので、アゼルに渡した。


もう一つは、ライフヒールの魔法が20階層のボス討伐のご褒美で出たが、


〈メリザが、アゼルがスキルを貰い、羨ましそうにこちらを見ています…スキルをあげますか?〉


と、脳内にプープルプルっというドラクエの会話音とともにテキストが現れた…


『うーん回復魔法かぁ~、

欲しいっちゃ欲しいが…メリザが見てるなぁ~…

…仕方ない…だって俺はお兄ちゃんだもの!』


と脳内会議の結果、


『イエス!!』


と、決断してメリザにスキルスクロールを渡すと、


「ポルタ兄ぃ、大好き!!」


と抱きついてきた。


『あのぅ~、僕もでしょうか?』と伺ってくるように見つめるアゼルに、


もう、ヤケクソで、『おいで…』とばかりに、手を広げてやると、


「うわあ、ポルタにぃ、ありがとー」


と感情の無い声と表情のアゼルが抱きついてきた。


そして、抱きつきながら


「これ、毎回やります?」


と聞いてくるアゼルに、「要らない」とだけ答えると、アゼルの心からの「ポルタ兄ぃ、ありがとう…」を頂いた…


多分これはスキルに対してのありがとうではない…変なイベントから解法された事への感謝だろう…どうやら多感なお年頃の少年にはキツイイベントだったようだ…


さて、そんなこんなしているとオークションの日がやって来た。


予算は特許使用料とダンジョンで稼いだ金額を合わせて大金貨70枚ほど…足りて欲しい…


そして、このオークションは貴族か大商会の会長など会員しか参加出来ない…見学はチケットを取れば可能なのだが…勿論俺のような兼業蜂蜜商人に参加出来る資格など無いのだ。


そこでニールさんが動いてくれて、以前俺に紹介状を書いてくれた伯爵夫人の〈ローゼッタ・ツー・ロックウェル〉さんが、


「是非、力になりたい!」


と、オークションへ参加をしてくれたのだ。


旦那さんのロックウェル伯爵様もとても温厚そうな紳士で、


「妻から話は聞いている。

前回はひどい目に合わしてしまった穴埋めに、君の育ての母上の為のエクストラポーションは必ず競り落とす!

まぁ、任せてくれ…」



と自分の胸をトンと叩いて、奥様をエスコートしながらオークション会場に向かって行った。


『なんとも仲の良い夫婦だな…』


と、思いながらお二人を見送り、俺は観客席にアゼルとメリザと一緒に座りオークションのを観覧する。


オークションが始まれば、アゼルもメリザもずっと祈りながらステージを眺めている。


Aランク冒険者が狩ってきたドラゴンの素材や俺も倒した娘とのある黄色熊の毛皮など…様々な商品が競り落とされるなか、ようやくダンジョンショップの買い取り商品の番が回ってきた。


いくら俺の顔が利くダンジョンショップと言えど激レアな商品は買い取りではなく一時預かりとなりオークションでの価格決定の後に持ち込みした冒険者に手数料を引いた代金を渡す仕組みは変えられない…


緊張しながら見つめるステージに小瓶が運び込まれ、ついにたった一本のエクストラポーションの競売が始まった。


「では、最低落札価格の大金貨20枚からのスタートです」


と声が響き、購入希望者の「30」の声を合図に、


ドンドン価格が上がり諦めて手を下げていく者が増える中でロックウェル伯爵様が手を上げながら、


「67!」


と叫び競売相手を射殺す様に睨む!


『温厚そうな紳士だったのに…怖い…』


と、俺は軽く怯えるが同時に心強くも感じていた。


そして競売相手も伯爵様を睨み返しながら、


「68っ」


とコールし高々と手を上げる。


刻みはじめた金額は暫く続いて、意地の張り合いとも言えるコール合戦の末に過去最高額の大金貨70枚が近づいている…


苦虫を噛み潰したような顔で、ロックウェル伯爵様は、


「69!!」


とコールし、隣のローゼッタ様まで「死ね!」と聞こえてきそうな目で競売相手を睨む…


『夫婦共に、こえ~よ…』


しかし、競売相手も「ぐぬぬぬぅ~」となりながらも、


「70!」


とコールしてしまった。


ハンマーを握った進行役が興奮しながら


「過去最高額と並んだぁぁぁ!」


と叫んでいる。


『もう、駄目だ…予算オーバーだ…ごめんよノーラ母さん…』


とガックリと沈む俺達は、その時…


「75ぉぉぉ!!」


というロックウェル伯爵様の気迫の籠ったコールを聞いたのだった。


競売相手は遂に諦めたらしくゆっくりと手を下ろすと会場を静寂が包み、


「大金貨75枚、過去最高額で落札ぅぅぅ!」


と進行役のハンマーの音が響き、


会場に「うおぉぉぉぉ…」というどよめきが包みこむ。


うん、これ普通に予算オーバーだけどね…どうしよう?

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