第70話 バラスダンジョンに挑戦


俺がエクストラポーションの話を聞いたのは、アゼルとメリザのスキルなどの相談にダンジョンショップを訪れた時にニールさんから聞いたのだが、クレスト周辺のダンジョンのドロップ宝箱やダンジョン内にランダム生成される宝箱からも出てくるらしくオークションの常連らしい…


相場は大金貨30枚~50枚程度…拠点に家を建ててほとんど無くなったとはいえ、不労所得も有るからこの冬中ダンジョンに潜れば何とかなるかも知れないし、運さえ良ければ自分で引き当てれる可能性もある。


お肉ダンジョンと魔法ダンジョンは冬越しクランの狩り場になっているので今からでは仕事にならない事は知っているので消去法ではあるが鉱物ダンジョンに潜る予定にしている。


しかし問題は、鉱物ダンジョンの敵は岩や金属系の敵が多くウチの虫魔物では攻撃が通らない事だ。


武器もハンマーやツルハシでないとダメージがあまり入らないので、採掘ポイントも多いダンジョンだが不人気であまり人がいない。


街の武器屋でハンマーとツルハシをアゼルとメリザの分も購入してたので、三人とクマパンチの使い手のクマ五郎で、初めての鉱物ダンジョン、正式名称〈バラスダンジョン〉に来ているのだが…噂以上、本当に人が少ない…


居るのは採掘狙いの冒険者だが、鉱物がかさばり、すぐに帰る為に滞在している冒険者が少ないようだ。


敵は このダンジョンのマスコット的なストーンスライムや、ガイナッツの国に居た岩亀の下位種の石亀という最大でも買い物カートサイズの亀魔物やストーントーテムというストーンバレットという魔法を飛ばす設置トラップの様な魔物など、防御力に自信のある奴らばかりでメリザは既にツルハシの振りすぎでマメがつぶれて、


「ポルタ兄ぃ、私もう無理…索敵するからツルハシは勘弁して…」


と弱音を吐いている。


まぁ、仕方ないので女の子の手のひらがゴツゴツしてしまうのも少し可哀想だとメリザには索敵で警戒してもらうことにした。


敵を倒して、鉱物資源感知で採掘を繰り返し10階層に到着したが、やはりボス待ちの冒険者すら居ない…


『俺一人ならばボスに挑み下の階層に向かうのだが、アゼルとメリザが下の階層で通用するのか…?

本人のやる気が有れば行けそうな気がするが…

アゼルはまだ行けるが、メリザはグロッキー気味だし…』


などと俺が考えていると、メリザが傷軟膏を潰れたマメに塗り込みながら、


「ポルタ兄ぃ、ズルいよ、水魔法…私もノーラさんのエクストラポーション買えたら、次は水魔法を手に入れる!

ポルタ兄ぃより凄い、なんかこうビッシャン!みたいなやつ…」


と、新たな目標を決めたらしい。


アゼルは、


「僕は、もうちょっと頑張ってこのダンジョンで、採掘したいかな?

ポルタ兄ぃと居れば採掘ポイント解るしもアイテムボックスで鉱石の仕分けも出来るから…

下の階層からはミスリルとかも手に入るんでしょ?

ポルタ兄ぃみたいなオーダー装備をそのうち身に付けたいよ。

その為の鉱石を集めたい。」


と言っている。


『うん、うん…良いこと、良いこと…目標が有るのは、やる気に繋がるからね』


俺が兄妹達が目標を決めた事に目を細めてニコニコしながら、


「じゃあ、ボスはどうする?

倒さず、ここでキャンプして魔物素材と採掘で稼いだあとで倒して転移陣で帰るか、ボスを倒して下の階層にチャレンジするか?」


と聞くと、地べたに座りクマ五郎にもたれ掛かっているメリザが、


「ポルタ兄ぃだけで倒してよ…ボス…それで下の階層みてから判断したら良いよ」


と言い出した。


『えっ、なに?酷くない…』


と、すこし妹の言葉にショックを受けていると、


アゼルまで、


「賢い!それ良いね」


と賛成する。


『嘘、酷いよ…お兄ちゃん泣いちゃうよ…』


と、俺がしょんぼりしていると、アゼルが、


「ポルタ兄ぃだけで倒して、次に僕らだけで倒したら、初回討伐の宝箱二回貰えるから」


と説明してくれた。


メリザも


「そう言うことぉー!」


とクマ五郎をモフモフしながら応えている。


『あら、いやだ、この子達…天才!』


と、ようやく理解した俺は、


「ヨシ!決定、それで行こうクマ五郎…」


とクマ五郎を連れてボス戦に行こうとしたらメリザが、


「駄目、駄目!クマ五郎は保険で私達とチームになってもらうからっ!」


とクマ五郎をギュッとしている。


クマ五郎も、


〈任せるんだなぁ〉


と、まんざらでもないご様子…


『解りましたよ…ボッチでボスに挑みますよ…』


と、少し寂しさを覚えながらボス部屋の扉を開けて、俺一人で中に進んでいく…背中に二人の


「いってらっしゃーい…」


の声を聞きながら…


『なんだか泣きそう…』


俺が悲しみを噛み締めながら入ったボス部屋の中には中型ぐらいの岩亀がポツンとたたずんでいた。


『お前もボッチか…でも今は…』


「俺の寂しさを受け止めて貰うぞぉぉぉぉぉ!」


とツルハシを片手に走り出し、俺は魔力を纏わせたツルハシで岩亀の甲羅の側面をカチ割り、腰から雷鳴剣を引き抜き、サンダーの魔法を発動させながら甲羅の中の赤黒い肉に突き立てる…


稲妻が岩亀の体内を駆け巡りガクガク痙攣する…そして部屋の主のボッチはパッシュンと消え去ったのだった。


入り口の扉が開きアゼルとメリザとクマ五郎が入ってきて、


メリザが、


「早かったねポルタ兄ぃ、宝箱確認しよぉー!」


と言いながら歩いてきた。


何だろう…この感情…名前の知らない感情が俺の中を駆け抜けて行った…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る