第72話 ノーラママにサプライズ


銅貨一枚でも稼ぎたいからとあまり拠点の家にも帰らずに頑張っていたが、


「エクストラポーションの落札祝いをやりましょう」


とのローゼッタ様の提案でロックウェル伯爵様のお屋敷に招かれる事になった。


家族を誘いに久々に家にもどるとパーシー邸が完成間近で事務所や蜂蜜工房は既に完成していた。


そして…ノーラさんは…俺の知っているノーラ母さんではなくなっていた…


なんと…


疾風アゲハのマサヒロを背中に着けて、パタパタと羽ばたきながら洗濯物を干している…


そして、俺を見つけると、


「ポルタ君お帰りぃ~!」


とジェットスクランダーを手に入れた、どこぞのくろがねの城の様にビューンと飛んで来たのだ…


アゼルとメリザは、


「ノーラさん、凄い!」


と騒いでいるが…俺は、少し引いてしまった。


『だって母ちゃんが空を飛んでるんだぜ…』


と、俺はサプライズパーティーに誘いに来たのにとんだサプライズをくらう羽目になったのだった。


聞けば、マリーがノーラさんと子供が沢山繋がりで意気投合したらしく、丘の上の傾斜のある地面では松葉杖で移動するのが平地より大変だったらしくそれをノーラさんがマリーに相談したらしい。


『気づかなくてごめんよ…』


すると、相談を受けたマリーが


「ミヤ子の子分のマサヒロで空を飛べば?」


という提案をして、練習の末今では見事に〈ノーラ母さんウイングバージョン〉として、洗濯干しや家庭菜園や花壇の水やりに重宝しているらしい。


「お買い物も行こうかしら?」


と言い出したノーラさんを必死に子供組のリーダーシェラが止めてくれたらしい。


『シェラ、グッジョブ!』


そして、ノーラ母さんはマリーを通してウチの周辺に住む非正規の虫魔物にも草引き等の簡単な業務を頼んでいる…


『何故だろう、俺より上手に正規も非正規も扱っている気がするのだが…』


草引きを終えたバッタ魔物達に、


「ありがとうね」


とリンゴを切り分けて配っている…羽の生えた虫の女王のよう…

もう、あれは俺の知るノーラ母さんではない…インセクトクイーンノーラ様だ…


ノーラさんは、


「セミ千代ちゃん、子供達に集合の合図お願い」


と言うと、


セミ千代は、洗濯干場の近くの木にとまり、


「みーん、みん、みん、みぃぃぃぃ!」


と大声で鳴き始める。


すると、どこからともなく子供組がバタバタと集まってくる…


『避難訓練か?…これ…』


と思いながらも俺は、ノーラ母さんの伸び伸びブリに呆れるやら感心するやら…


『まぁ、本人が楽しそうで何よりだけど…』


と、そんな事があったがノーラさんにはエクストラポーションの事は伏せたままで、


「お世話になってる伯爵様からお食事に誘われてるから皆で出かけましょう」


と言って、皆よそ行きを着て伯爵邸を目指して移動した。


きらびやかな部屋に豪華な料理…皆はパーティーなど初めてだが、ロックウェル伯爵様は、


「作法など気にすると料理が美味しくなくなる。美味しものは気楽に食べるのが一番!」


と笑いながら骨付き肉を手に持って食べてみせる。


子供組はそれを見て、ぱぁっと明るい顔になり、何時もの様に食べ始めて、子供組の一番下のポロやダミアの保育組に「あーん」とさせて食べさせたりしていた。


ノーラさんは、料理人の人に質問をして何とか我が家でもこの味が出せないかと頑張っている…


しかし、本人はまだ自分このパーティーの主役とは知らないのだ…


そしてお食事会はすすみデザートが運ばれると同時に例の小瓶がノーラさんの前に運ばれるてくる。


ノーラさんは、


「?これは?」


と不思議そうに伯爵夫妻を見つめるが伯爵様は、


「それはノーラさん…貴方の為にポルタ君達が頑張って手に入れた物です…どうぞ、お飲みになってください。」


と説明する。


ノーラさんは、まだ状況を理解して居ないが、


「飲めばいいの?」


と俺達冒険者組に聞いてくる。


俺達三人が頷くのを見て、ノーラさんは、


「ヨシ!」


と気合いを入れてそれをゴクリと飲み干す。


座ったままのノーラさんはまだ、何が起こったか解らない様子である…


しかし次の瞬間、


「冷たっ!」


と驚いて自分の足元を見たのだった。


すると、靴をはいた左足の隣に素足の右足がスカートの裾から覗いていたのだ。


春先の冷え込む夕方の床の冷たさを感じた右足をノーラさんは見つめながら、


「えっ?えっ!?」


と困惑している。


すると、ローゼッタ様がメイドさんに、


「例の物を」


というと靴下と靴を運んで来て、ローゼッタ様は、


「ノーラさん、裸足では寒いですわよ…どうぞ、私からのプレゼントです。

女のお洒落は足元からですわよ…」


とノーラさんにウィンクを飛ばした。


『やはり、この夫婦は今まではのお貴族様のなかで一番粋な方々だ…』


と、俺が思っていると、ようやくノーラさんはこの状況を理解して泣きだしてしまった。


ノーラさんは涙声のまま、


「ありがとございます。

皆もありがとう…私、幸せです…天にも昇る気持ちです…」


と言っていた。


まぁ、実際に後日、お洒落な靴を履いた妖精の様なノーラ母さんが天空を舞っていたのはツッコまないでおいた…


良かったね…ノーラ母さん…

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