第107話 魔族領への旅の始まりと告白


帝都で皇帝陛下からの差し入れ用の資金で魔族領への食糧を買い込んだ後にお手紙やら何やら色々と託された。


俺が魔族と逢ってみて、魔の森の領地を魔族に返すも返さないも自由との決定権もくれた。


皇帝陛下があの夜以来仕事が出来る様になり俺も帝都で動き易くなったし…


『やって良かった!カサカサ祭り』


だね…


そして、帝国をあげて魔の森との国境線の防御力の強化を始めるために各地の王様は自分国へと帰っていく…

俺もアルトワ国王陛下に誘われて一緒にクレストの町まで馬車に乗せてもらった。


『ウチのクマチームが育休中なので有難い…』


帰りの馬車で、以前ガイナッツからの詫び金を丸々ロックウェル伯爵経由で賜った件について礼を述べた。


あのお金のおかげで育ての親の切断された足を治す為のエクストラポーションを競り落とした事を話すと、


「ポルタ君、そんな刺激的な事には是非ワシも混ぜて欲しいのぉ」


と寂しそうに見つめてくるお爺ちゃん王の隣で王子様が、


「来年からは隠居生活だろ父上…

楽しみは後に残しておいて今は魔王軍の件を頑張ってくれよ…」


と、やれやれと言った感じで注意する。


アルトワ王は、


「とっととお前が王位を継いでくれていれば、今ごろは諸国漫遊の旅が出来たものを…」


と残念そうだ。


アルトワ国王が思い出したように、


「それはそうと…、ポルタ君の所属先はどうなったのじゃ?

皇帝陛下もあの後、戦地帰りの戦士の様な顔つきになってしまい聞けずじまいじゃったからのぅ」


というので、陛下が迷い込んだ異界の祭りの話をすると、


アルトワ国王は益々残念そうに


「ポルタ君、頼むからワシも仲間に混ぜてくれ!楽しい事に飢えてるのよワシ…」


と話している。


王子様は、


「いやいや、それはえげつないお仕置きを…」


と、少し青ざめている。


そんなこんなが有りがらもアルトワ国王に戻り、拠点までわざわざ回り道をしてして下さったのだ。


俺は国王陛下達に乗せて頂いた礼を述べてから拠点へと入って行った。


『商会の全体会議を開き、少し長旅に出る事を話さなければ…』


と、魔族の国を目指す事を伝える予定なのだが、魔族の国に行くために一つ目の問題は馬車を引いてくれるクマ五郎達が育休中な事だ…


『本当にどうしよう?…』


などと色々考えながら従魔用の厩舎に入ると、たまらないくらい可愛い小熊がキュー、キューと鳴いて、デレデレのクマ五郎とクマ美とセミ千代が居た。


『無理やりにでも、魔族領に行こうなどとは言えないなぁ…』


と、小熊をモフりながらクマ五郎馬車は諦めた。



そして、商会全体会議の結果、久しぶりのアゼルとメリザが合流してくれる事になった。


なので、新しく整備され納品や営業用の馬を増やす為の商会の馬牧場で購入されたばかりの馬から二頭ずつ、アゼルとメリザに従魔契約をしてもらった。


二人の従魔の馬を2交代制にすれば休憩無しで一日中走っても、一日交代で走り続ける事が出来る。


商会の蜂蜜やクッキーそれにプリンもゴソッと用意し、アイテムボックスに放り込み、


俺達は魔族領へと向かった。



2頭引きのキャンピング馬車、しかもアゼルとメリザが交代で御者をしてくれるので楽チンだ。


キャンピング馬車の中で、


「悪いねぇ、楽させてもらって…」


と、俺がポツリと言うとメリザが、


「気にする事を無いよ、今まではポルタ兄ぃが1人で御者をしてくれたんだから…

それより、ポルタ兄ぃはどうするの?」


と、漠然とした質問を聞いてくる。


俺が、


「ん?何をどうするんだ?」


と聞き返すと、


メリザは当たり前かの様に、


「え、奥さんに決まってるじゃん!」


と言ってくる…


『何で急に?』


と思っているとメリザが、


「ポルタ兄ぃも成人したんだしお金もあるし、ちゃんと冒険者もしてるし国のお仕事もこなす…

有料物件が、婚約者も居ないのは変だよ!」


という、俺が少し拗ねながら、


「変じゃないよ…忙しくて、彼女を作る暇が無かっただけだから…多分…」


と、自信無く答えるとメリザは、


「安定した生活、バリバリこなす仕事、居ない婚約者…あぁ、キツい性癖でも有るのかな?って思われても私は知らないからね。」


と、厳しい現実を突きつけてくる…

俺は、ガッカリしながら、


「そうかぁ…でも、彼女も居ないのに婚約者なんて見つかる訳ないなぁ…」


と言うとメリザは、


「何言ってるのポルタ兄ぃ…あんなにモテモテなのに!」


と笑いながら言う。


「…ん?」


と、首を傾げる俺にメリザは、


「ルルちゃんは親公認のポルタ兄ぃ狙いだし…」


と、言い出す。


『何!?』


と驚く俺だが、メリザは続け、


「シェラも、〈ポルタ兄ぃの奥さんになる〉って言ってるし、」


『えっ?』


「ノーラさんも、ライラさんも、〈ポルタ君になら嫁にいきたい〉って言ってるからね…」


と、報告してきた。


『なんと、育ての親と没1女性まで…』


俺が驚きながらも一旦冷静になり、


「って、身内ばかりじゃねぇか…

あれだろ、〈ウチの子、良い子なのに…私ならあんな良い子、放っておかないのに…〉的な身内贔屓の褒め言葉だろ…」


ガッカリしているとメリザは、


「皆、結構本気かも…私もポルタ兄ぃならいっぱい稼ぐし嫁に行ってやっても良いよ…どう?」


と、茶化すので俺が、


「はい、はい、ありがとう。

メリザも身内だから嬉しいさ半減だけど、妹といえど1人の女性に、〈嫁に行っても良い〉と言われるくらいはまともな男に成長したと自信を持つことにするよ」


と礼を言うとメリザは真っ赤な顔だった…


次の日、その日はメリザが御者をしてアゼルとキャンピング馬車の中で話していると、急にアゼルが、


「メリザが、昨日から機嫌が悪いんだけど?…ポルタ兄ぃ何か言った?」


と聞いてきた。


心当たりが無い俺は、


「う~ん?解らないなぁ…」


と答えるしか無かった。


アゼルに、昨日の会話をだいたい説明すると、


『あぁ~』


みたいな顔をしたアゼルは、


「メリザ、ちょっとマジだったんだなよ…

でも、照れ隠しで〈稼ぐから〉みたいなこと言ってしまって…機嫌が悪いんだな…

ポルタ兄ぃ、もう、メリザをもらってやってよ。

ポルタ兄ぃは選り取り見取りだけど、ありゃ、ポルタ兄ぃに引き取って貰わないと行く宛がないよ…気が強いし、厄介だし…」


とお願いされたが…素直に喜べないし、今後の接し方に困ってしまう。


俺は、


「う~ん、とりあえず今は魔王様の件に集中だな…デートもしてない女性と婚約も何もないだろ」


と、全てを保留とし聞かなかった事にした。


今からまだまだ旅は続く…気まずい話題と、繊細な話は避けたい!

血が繋がってないから問題は無いメンバーだが、全員俺の中では身内枠なのよね…と、悩んでいると、


影の中からガタ郎が、


〈オスなら片っ端から交尾でやんす〉


と…


『どこの、群れのボスの話をしてるの?…』


と、俺が呆れながら心の中でツッコむと、


〈旦那様は、十分強い群れのボスでやんすよ…アッシなら秒でイクでやんす!〉


と、ゲスい返事をしてきた。


俺は、


『もしかしてガタ郎…』


とガタ郎の下半身事情を心配すると、ガタ郎は自慢気に、


〈拠点の森にはアッシの子供が沢山居るでやんすよ。

今年の夏には色々な交雑種の子供達が飛び回る予定でやんすっ!〉


と…ウチの〈やんす〉の下半身は案外〈ゲス〉な事を知り、少しビックリしながらも、馬車は北に向かい走り続けた…


脳内変換でガタ郎の語尾が勝手に〈そうでゲス〉みたいになったのは内緒にしておこう…

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