第108話 魔王国到着


メリザと修学旅行初日で告白されてその後の旅行が気まずくなるみたいな旅行あるあるは回避できて、その後の旅は何事も無く順調に進み、ヨルドからワルド王国まで丸一日ほどかかる魔の森の端を突っ切るアリスの地下トンネルを抜けてワルド王国に入ると、確かに耕作に不向きな砂利が多い大地が広がっていた。


現在はアリス達城蟻チームが復興支援として魔の森の近くに耕作地を耕して、魔の森の栄養豊富な土を丸めて運び耕作に適した広大な畑をワルドの国にプレゼントしてくれたので夏には何かしらの実りは収穫出来るだろう。


蟲のヌシにも話を通しているので、腐葉土を持ち出しても問題ない場所から拝借しているで魔の森の方々とのいざこざは起こらないはずである。


蟲のヌシさんから聞いたのだが、他にもヌシさんが森に暮らしており、彼らは五匹で一つの魔術的な装置の一部の様な存在らしい。


良くは解らないが、ヌシが守る結界の様な場所より中に踏み入らない限りは特に問題はないらしいのだが、無事にその中に入るには色々なルールがあるらしく、もしも無断で入ってしまうと、何かしらの状態異常にかかり弱体化したところをヌシの配下に倒されるという罰を受けるらしく、ワルドの使った魔物避けの魔道具では、その罰を執行する兵隊が近付けなくなり、ワルド兵士は魔の森で体調が優れない程度で結界内を横切る事に成功したのだとか…

遥か昔にこの森を支配していた者が施した物らしいが、とんだザル結界である。


そんな魔の森を抜けてそこから10日ほど更に北に向かい、やっと魔族領の中に入ったのだが、そこはワルド王国より更にまともに耕作出来そうな大地ではなかった。


木々はあるが針葉樹ばかりで、その先には木々の生えない大地が広がっている。


タイガとかツンドラとかと言われる極寒の大地なのだろう…現在は春終盤で比較的寒さも我慢出来るが、平地が続き地面が硬い事もあり馬車も1頭引きに変えて、速度より疲れたら数時間おきに交代を心がけ、御者も俺達全員で三交代して寒さ対策の為にローテーションする事にしたのだった。


『こりゃあ、耕作も物流も一苦労だろうな…』


と、代わり映えしない寒々しい景色を眺めて馬車を走らせている…

俺は、比較的寒さは大丈夫だったので御者の時間も長く出来た。

『 なぜかな?』と思いよくよく考えてみると、耐寒のスキルを取得していたのを思い出した。


理由が解り、


「俺ってそういえば耐寒スキル持ってたから寒い夜の御者担当は任せて…」


と提案したのだが、何故かアゼルとメリザからは散々


「ポルタ兄ぃだけズルい!」


と、言われてしまったのだが夏前なのにこの辺りがこんなに寒いとも知らなかったし、耐寒のスキルもすっかり忘れていたので仕方ない…


そして、魔族領に入り初めての第一村魔族?を発見した…というか、発見され馬車の前に立ちはだかれた。


それは、馬に乗った弓兵士…ではなく、


下半身が馬の兵士さん達だった。


「そこなる馬車、止まりませい!

我こそは魔王国の南の守り、ケンタウルス隊を率いる〈タリウス〉である。

貴殿の所属と名前を申せ!!」


と叫んでいる。


俺は、


「マルス帝国の特使ポルタと申します。

マルス帝国、皇帝、アルフリード・エルド・マルスと、帝国内の各王国の王達から魔王陛下への書簡と、皆様への食糧支援を持って参りました」


と答える。


すると数頭…いや、数人のケンタウルス隊と名乗るの部隊の中から、タリウスと自己紹介した下半身が馬並み…というか馬そのもののオッサンが馬車に近寄り、ぐるりと一周俺達の馬車を確認して回り、


「食糧は?」


と聞いてくる。


俺は、アイテムボックスから人参を一本取り出して、ポイっとタリウスのオッサンに投げて渡す。


「アイテムボックス持ちか…」


と納得する馬のオッサン…


すると、


タリウスのオッサンは人参を見回した後に、カリっと一口噛り、


「むほっ」


っと言った後に、ガリボリと人参を頬張る…


「うまい、旨い!」


と言ってタリウスのオッサンが人参を噛っていると部下のケンタウルスが集まって来て、


「隊長だけズルい!」


「俺達にも下さいよぉ…」


と、口々に不満を漏らしているので、俺はアイテムボックスから部下の分も出して渡すと、


「ポルタの兄貴、ありがとう」


「イジワル隊長よりポルタさんの配下になりたい。」


などとお世辞を言ってくる…それを影の中から聞いていたガタ郎が、


〈名付けをして従魔にするでやんすか?〉


と聞いてくる…


『なんで?ケンタウルスさんはお馬さんと人の魔族だよ…』


と俺が心の中で聞くとガタ郎は、


〈だって、手足が6本でやんすっ!〉


と力説する。


いや、確かに6本ではあるが、彼らは虫ではない…


俺が、


『虫ではないでしょ?』


と少し呆れながら心の中で答えると、


ガタ郎が、


〈心をへし折って、私は卑しい虫で御座いますとか言わせれば、ワンチャン配下にしてテイム出来るんじゃないんでやんすか?〉


と提案するが、


『そんなセリフを言った時点でテイム関係無しで配下…というより、〈下僕〉なのよ…』


などと、俺の影に潜っている相棒とアホな会話をしていたら、人参を食べきったケンタウルス達に、


「こちらです…」


と案内されて魔王城へと向うことになったのだった。


道中、ケンタウルスさん達に魔王国の説明を受けながら進む…

この地に落ち延びて300年、人より寿命が長めの魔族さんと言えど、現在の北の外れの魔王国生まれが殆どで、新鮮な野菜や、果物、豊富な穀物をお腹いっぱいたべる事など一度もない生活らしい。


魔王国の比較的南の土地で細々と作られる野菜と、個人的に信頼関係を結んだ魔族が近隣の国の村と貿易をした商品が流通するくらいで、あとは海の幸や春から秋まで生えている草を食べる草食系魔物などや、その魔物を狙う肉食魔物を狩り肉中心の生活をしているらしい。


特に冬場は、海から取れる塩で塩漬けした保存食ばかりで、生野菜に飢えていたらしく、


「人参、旨かったなぁ」


といまだに仲間内で語っている。


『なんだか、体に悪そうな食生活だな…』


と思ってしまう俺だが、でもケンタウルスさんはどうなんだろう?…胃は人間側なのかな?下半身にも馬の胃が有るのかな…?

肉とか一度人間側で消化したヤツを草食側で消化したとしても消化に悪そうだし…などと考えてながら、ログハウスの様な建物が並ぶ町を抜けて石作の城に到着した。


さぁ、いよいよ魔王陛下とご対面だな…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る