第106話 祭り囃子のその後で…


夕方迄に許可を得て俺が地下牢に行くと階段を降りたとたんに、


〈王よ、ご帰還を心よりお喜び申し上げます。

我が一族4500、王のご期待に応えられますように日々鍛錬をして参りました〉


と排水溝の奥から聴こえる…


『増えてない…前は三千だったよね?1.5倍だよ…』


と、思いながらもアイテムボックスからアルバイト代の食糧を取り出して山にし、そして、依頼内容を伝える。


〈攻撃はしない〉

〈考えつく限りの恐怖を深夜から翌朝まで宜しく〉

〈走り回り、飛び回り、たまによじ登っちゃって〉

〈食糧は参加した皆で分けてね〉


と、俺がお願いすると、


〈御意のままに…〉


と排水溝から無数の気配がして、


〈皆、やるぞー!〉


〈〈〈応!!〉〉〉


と無数の声が聞こえる。


俺は、


「では、決行は深夜であとは宜しく!」


と言って階段を駆け上がる。


後ろでは無数の気配が食糧を運び初めていた…


『気配とカサカサ音だけで怖ェェェェ!』


という準備を整えたその夜、シルクのパジャマを着てナイトキャップを被り、枕を小脇に抱えた皇帝陛下が近衛騎士団とフェルド国王と心配して残ったガイナッツ国王と共に現れた。


フェルド国王が近衛騎士団に、


「これは皇帝陛下が受けなければ成らない試練である。

叫び声が聞こえても、鳴き声に変わろうとも、助けを呼ばれても何人も地下に降りることは負かりならん!良いな!!」


と指示を出している。


皇帝陛下は、


「イルよ、大袈裟な…余は、子供では無いぞ…地下牢が怖いわけは無い!」


と、余裕の表情で階段を下る。


メイドと近衛騎士が一緒に降りて、板のベッドにフカフカの布団を用意し、


「お休みなさいませ、陛下」


と告げて階段を登ってくる。


ガチャンと鍵の掛かる音が鳴り、


「では、陛下失礼致します」


と言って近衛騎士も階段を登ってきた。


俺達は用意されたソファーに座り、地下牢に向かう廊下で祭りの始まりを待っていた。


見張りの騎士と、ワクワクしているフェルド国王と、『本当にやるのか?』と心配そうに俺を見つめるガイナッツ国王に、少し眠たい俺…


草木も眠る丑三つ時…夜祭は、皇帝陛下のハイトーンボイスから始まった。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」


「止めてくれぇぇぇぇぇ!」


との声に近衛騎士達が動こうとするが、フェルド国王が、


「狼狽えるな!我が友は今、己と戦って居るのだ。」


と皆を制止する。


『いや、いや、戦うどころか、ボロ負けの声がしますよ…』


と実行犯ともいえる俺がドン引きしていると、


「どれだけ増えるのだぁぁぁ、まだ増えるぞ!どれだけぇぇぇぇぇぇ!!」


『ジェネリックのIKKOさんがいる…』


と、地下からの声を聞きながら、


『どうも出来ないし、攻撃はダメってお願いしたから…大丈夫かな…』


と、少し落ち着く事にした俺に、ガイナッツ国王は悲鳴を聞いて、アワアワと青ざめながら、


「ポ、ポルタくん…」


俺を揺すりながらしきりに、


「大丈夫だよね?」


と聞いてくる。


それでも、1.5倍、深夜のメガ盛りカサカサ祭りは続き、皇帝陛下の声もカスレはじめて、


「らめぇぇぇぇ、パジャマの中は…らめぇぇぇぇっ!!」


との声を最後に聞こえなくなってしまった…


影の中で休んでいるガタ郎に、俺は、


『悪い、祭りの終了を伝えてきて』


と、お願いすると、


〈了解でやんす〉


と言って影のから出て階段を降りて行く…


流石に暗殺クワガタが降りて行ったので近衛騎士達も後を追って地下に降りるが、騎士団の悲鳴もこだまする羽目になった。


『ごめんね騎士さん達…』


無事に?


第二回、お仕置きカサカサ祭りも終了し、たった数時間でかなり老け込んだ皇帝陛下が、追加で地下牢へと向かった近衛騎士達に担がれて上がっ来た。


理由は言わないが、どうやら今からお風呂に行くらしい…



メイドさんが、俺達に


「お部屋が用意して有ります。」


と言ってくれたのでその夜は宮殿で泊まらせてもらった。


翌朝、少し遅く起きるとメイドさんが、


「ポルタ様、午後より会議が御座いますのでご用意を…」


と言われた。


『流石は大帝国の皇帝陛下だ、あの祭りのあとでも、仕事をする気力が有るとは…』


と俺は感心しながら会議に出席すると、昨日とは別人のような、的確な指示を出す皇帝陛下が居た。


「魔王領との交渉はポルタ殿に一任する。

彼の判断で、魔の森に魔王軍を迎えたとしても我々が先んじて用意をすれば、もしも魔王軍な策略だったとしても問題はない。

それよりも、本当に助けを求めて足掻いて居るのなら一刻も早く助けに向かうべきだ!

フェルド王国とワルド王国、それに魔の森に面している〈ヨーグモス王国〉はこれより数年がかりで構わないので国境の守備を固めつつ万が一に備えよ。

残りの国は戦後で疲弊しているフェルド王国と新たに仲間になったワルド王国の支援を頼む。

勿論、帝国からも支援を行う。

皆、それで良いか?」


と…信じられないくらいのリーダーシップを見せる皇帝陛下…

しかし、会議の最中で資料の紙をめくる、カサッという音が鳴る度に、ビクンと成るのはご愛嬌だと思っておこう…

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