第28話 ガッカリしてしょんぼり


皆様こんにちは、いかがお過ごしでしょうか?

俺は今ギルド酒場で女将オススメのアタックボアの野菜炒めを頬張っております。


魔法ダンジョンでは正直なところ心がポッキリ折れたので帰って来ました。


何故ならボス部屋前にはずらりとテントが並びボスのリポップ待ちをしていたのだ。


一組6時間としても、四組で1日…今いる冒険者が複数個のパーティーでアタックする可能性もあるが、テントや焚き火一まとまりずつだとすると10日近く待つ羽目になる…


冒険者のほとんどが10階層から20階層での狩りを行っており、転移メダルの為に10階層のボス部屋混みあっているらしいが…


そんなに、ここでのんびりしても仕方ない…


『べつに、このダンジョンで生計を立てる訳では無いから』


と、開きっぱなしのボス部屋をスルーして11階層に降りるのだが、


索敵スキルを使っても獲物の赤い点が出ない…


なぜなら、先客の冒険者達が全滅させて現在休憩中だからだ。


ダンジョンの普通の敵は約二時間サイクルらしく、彼らは狩っては二時間休むを繰り返しているそうで、等間隔に縄張りを持っている様子であり、そんなお仕事の現場に新参者が入る隙は無い…


まともに狩りをするなら20階層より下に潜らないと駄目らしいがそんな階層の敵は俺には強すぎる。


こんなふざけた状況にしびれを切らして下を目指すと全て倒された階層を通る為に徐々に敵の強さも解らず。


やっと遭遇した敵は強すぎて返り討ち…なんて、新人がゴロゴロ居るらしい。


マジで阿保臭いから10階層の転移陣で地上に戻った…という訳で現在野菜炒めをやけ食いして宿に戻る事にしたのだ。


素材は買い取って貰えたが、大銀貨五枚程度…正直赤字だ…まぁ、すぐに嫌になって帰って来た俺も悪いが、小金貨三枚のマントを買って大銀貨五枚では駄目なのよ…


まぁ、戦利品としてマジックポーションと何だか解らないスキルスクロールがあるけど…


宿で寝る前にダンジョンショップでスクロールの鑑定をして貰おうとトボトボと歩いてきたのだが、このダンジョンショップにはダンジョンアイテムの買い取り窓口があり鑑定だけでも一点につき大銅貨三枚で見てくれるし鑑定してもらった後に買い取りも可能である。


ちなみに買い取りの場合は鑑定は無料になる。


窓口に並び順番を待っていると俺の前に人が居ないのになかなか呼ばれない…

そして同時に空いたカウンターの女性二人が何やら中で揉めて居るようだ…


俺の後ろのオッサンが、


「早くしろよ!」


とイライラしているが、


揉めている二人は


「人生がかかっているのっ!」


と言い返している。


更に空いた三人目の男性職員さんが、


「次の方」


と呼ぶので俺がそちらに行こうとすると、揉めていた二人が男性職員さんに詰めより、


「何抜け駆けしてるのよ!あんたも出世狙い?」


と言っている…


『まさか俺?…』


前では職員が…後ろではお客が、険悪なムードになる。


たまらず列を離れて立ち去る俺の背中に、


「あっ、ちょっと!それはズルい!!」


と女性職員の言葉を受けて…


『ニールさんの出世話が大きくなって広まった弊害か…ダンジョンショップの中だけの局地的な福の神扱いが巻き起こしたイザコザの様だ…もう、帰って寝よう…』


と、俺はしょんぼりしつつも呆れて宿に戻った。



ー翌日ー


何かヤル気が出ないが、宿でゴロゴロするのも嫌ななのでクエストボードを眺める…


魔物が活発に活動する夏を前に沢山の依頼書が張り出されているが、その多くはBランクなどの上位者用のクエストが並んでいる。


その他はCランクがパラパラで、普段ならばDランクぐらいの獲物でも数が増えているらしくCランクの依頼に格上げされて壊滅的な状況である。


『だから皆ダンジョンに集合してたのか…』


納得と、ガッカリが同時に訪れた。


『この街も変わっちまったなぁ、住み難くなった…拠点を移すか…?』


と考えていたら、


〈引っ越しでやんすか?

では、一度マリーに会いに行って欲しいでやんす。

流石に配下に挨拶も無しでは可哀想でやんすよ。〉


とガタ郎に言われて、


『それもそうだな…』


と、マリー達に会いに行くために果樹園の村に向う事にした。


馬車チャーターすると魔法ダンジョンの稼ぎが半分近く飛んでしまうので勿体ないからと渋々歩いてだが…


道中久々の野宿をガタ郎としながらのんびりと数日かけて果樹園に着くと前回より人が増えて居るようだ、


感じの良い女性が、


「何かご用意ですか?」


と聞いてくる。


俺が応えようとした時、


〈王様ぁ~〉〈パパぁ~〉〈しゃちょサーン〉等と四方から、虫感が薄れたとは言え蜂と人間を合体させた様な虫魔物に抱きつかれた…


思わずブレイブハートが発動したのは許して欲しい、


『なんか身内相手に恐怖を覚えて、ブレイブハートを漏らした事が恥ずかしい…』


しかし、俺が〈漏れイブハート〉したのは気付かれて無いようなので、俺は涼しい顔で、


「皆久しぶり、マリーは居るかい?」


というと、


〈呼んでくるぅ~〉


と、皆飛んで行った。


感じの良さそうな女性は驚きながらも、


「もしかして、マリーちゃんがよく話している、王様ですか?」


と聞いてきたので、俺は、


「インセクトテイマーってスキル持ちの冒険者、ポルタです。」


と名乗ると女性は、


「あら、失礼しました私はこの果樹園の娘〈ポプラ〉です」


と丁寧な挨拶をしてくれたポプラさんとやらには、


「父を呼んで来ますね…」


と、いわれたが…


『オーナーには特に用事はないんだけど…』


と思いながらもしばらく待っていると、マリーが物凄いスピードで現れた。


「王よ、ご帰還を心からお喜びいたします」


と丁寧な口調だが、俺の胸に飛び込みグリグリしてくる。


『腕が四本の妖精…そう、虫っぽいビジュアルの妖精だ…』


と、自分に言い聞かせて胸にすがり付くマリーに、


「元気だったかい?」


と、声をかけると、


マリーは、


「はい、家族も増えて賑やかに…分家も出来て我が一族も安泰です」


とにこやかに話すが口元は人間っぽいが、目はべっこう飴みたいに一色…髪の毛の間から伸びた触覚がアホ毛みたい…


ある意味上出来で、ある意味残念な、所々に虫感を残した姿に俺にはよく解らない感情が芽生える。


そうこうしているとオーナーが、杖をついて現れて、


「久しぶりですお待ちしていました」


といってドサッっとお金の入った袋を渡してきたのだ。


『…なんですか?コレ…』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る