第68話 引っ越しとトラウマと王の力
そして月日は流れ俺達は現在アルトワの国を目指し、クマ五郎馬車に揺られている…
結果から言うと、アゼルとメリザは、あっという間に強くなり、何の問題も無くDランクに昇格した。
『認めたくないが、コレが普通のペースらしい…』
二人が頑張って倒した水トカゲの買い取り金で少しましな防具を揃えた二人を連れて初級ダンジョンの村まで移動してダンジョンに一緒に潜ってみると、スキルと武器が少し良いだけでサクサク敵を倒していく二人…危なくなったら手助けをしようと同行したが、結局俺はアイテムボックスを使った荷物持ちと化していた。
暇をもて余した俺は、前回倒せなかった走りキノコを倒すのだけが楽しみになってしまっていたのだった。
二人はその日の内に10階層のボス部屋前のセーフティーエリアに到達して、一週間のレベル上げ兼素材集めをやってのけたのだ。
その後二人は10階層を拠点に狩りを続けて、あの時の俺が倒せなかった走りキノコすらも二人で協力してパッシュンと倒して傘の部分のみと極小の魔石をドロップさせていた。
一旦戻るのも面倒なのでそのままブラッドブルを倒すと気合い十分で俺に言ってきた二人を『うん大丈夫だろう!』と信じながらも少しだけ心配しつつボス部屋へと送り出す。
『こればかりは俺が居ると初回踏破のご褒美が無くなるので心配だけと仕方ない…』
と自分に言い聞かせ、ガチャンと鍵が閉まる扉を睨み、
『頼む、扉まで開け…』
と祈る俺の心配をよそに十分程で扉が開いて、部屋の中でガッツポーズを見せる二卵性の双子が見え…
『良かったぁ~』という安堵感と、『いや、早すぎない?』というツッコミが同時にやってきた。
ご褒美宝箱からはナイフが出てきたので、
「解体用に売らずに持っときな」
と、告げて転移陣で地上に戻ったのだった。
俺はもう慣れたが、転移陣の独特の感覚に二人は固まっている…すると、アゼルとメリザの表情を確認した転移陣担当のギルド職員のお姉さんが、
「どうだった?マタヒュンだったでしょ!?」
と…ニコニコと聞いてくる。
『変わらないな…あのお姉さん…』
と久々の再会となるタマヒュンお姉さんを眺めながら二人の手続きを待つ…
移動で片道一週間、踏破に一週間程と、結局往復する分移動の方に時間を取られたぐらいですんなり二人はDランク冒険者になったのだった。
二人は口をそろえて、
「いい武器を貸してもらったからだ…」
と言っているが、やはりそれだけでは無い気がする…スキルって大事だと…
ちなみに、走りキノコは精力剤として一つ大銀貨三枚で買い取りしてもらった…買い取り金額よりも、自分で使う用でみんな狙っていたことをつい先程知って、あの時の兼業冒険者の先輩の、
「走りキノコも狩れたし、奥さんが待ってるからお先…」
みたいなセリフが急にエロく思えた。
アゼルとメリザは稼いだお金で何か買いたそうにしていたが、
「クレストの街でスキルを買った方が良いから貯めときなさい。」
と忠告してエマの町まで戻りその後は孤児院を拠点に二人で狩りをしていた。
俺は爺さんの墓参りやら引っ越し準備に明け暮れ定期召喚で伝言役になったマリーから、
「大工の親方が頑張ってくれて、あと1~2週間で母屋が完成します。
家具は全く無いので、何処かで購入してきてくださいね…」
というポプラさんからの伝言を受けて、
「移動にも二週間くらいかかるので、そろそろ出発しましょう!」
と提案し、翌日から借金をしていた商会の会長さんに今まで住まわせてもらった礼を述べてから、最後にもう一度爺さんの墓に出発の報告をして俺のアイテムボックスに一切合切詰め込み寂しくなった孤児院に別れをつげてクマ五郎の幌馬車に家族全員乗り込んで出発となったのだった。
驚いたのは、商会などに住み込み職員や職人の弟子になった孤児院出身のお兄ちゃんやお姉ちゃん達が見送りに来てくれた事だ。
数は少ないが皆ノーラ母さんを心配していて何とかしたかったが毎月のお給料ではあまり力になれずに悔しかったらしい…
「偉いぞポルタ頑張ったんだな…ノーラさんを頼んだぞ!」
と、頭をワシワシしながら誉めてくれた。
町に残る家族にも、新しい家の場所を告げてからクマ五郎の引っ張る幌馬車はユックリと新天地となる牧場風の場所を目指す。
田舎で虫は多いが…子供組は大丈夫だろうか…?
見た目キモいが、悪い奴らではない…変なトラウマを心に刻まなければいいのだが…
俺みたいに、トラウマ持ちになると生まれ変わっても苦しむことになるかもしれない…
『それだけは避けなければ!』
馬車の運転台で固い決意をする俺の後ろの荷台には守るべき家族がいる。
しかし…どうしても俺は、すんなり目的地に着けない呪いにかかってしまっているようだ…
あと1日でアルトワの国に入る山道で運悪く盗賊に囲まれる羽目になってしまった…
『最悪だ、兄弟に要らぬトラウマを植え付けるかも知れない…』
と心配する俺…
そして、俺の大事なノーラ母さんは幼い頃に盗賊に両親と片足を奪われた過去のトラウマで盗賊と言うだけで既に怯えて震えている…
恐怖して震える気持ちが良く解る俺は、ノーラ母さんの恐怖に歪む顔を見て、
『…許さない!…俺らの大事な母さんを怖がらせる奴は許せない!!…』
と、今までに感じたことの無い怒りが足裏から頭の先まで駆け上がる様な感覚を覚えた。
俺は、前世で潔癖症でだいぶアレな母親と仕事バカな父親との間に生まれた。
ある日虫を捕まえて母に見せたところ、頬を打たれた…
「汚い、汚らわしい!」と散々罵られ幼稚園の俺は、『虫』と、『悲しい思い出』が繋がったトラウマ持ちになってしまった。
小学生の時に両親が離婚し父方の爺さんの家で育った…
虫を悪と洗脳されて育った俺に爺さんは、
「虫が怖いのは、武志を怖がらせるためじゃないよ、たまたまそんな形や色に生まれたてだけだ。
虫が居ないと種は出来ないし、実も成らない…鳥さんもお腹が空くし、皆困ってしまう…
だから、武志に悪さする虫は仕方ないが悪さするつもりじゃない虫を殺したりしては駄目だよ…」
と…諭してくれた。
辺り構わず母の教えで殺虫剤を振り撒いていた俺を心配しての言葉だったんだろうが…あの時、何故かその言葉で気持ちが楽になり血を吸う奴を除き虫を無差別に殺さなくなった俺だが…
…しかし、今、目の前に下衆な笑顔を浮かべ、
「金目の物を置いてけや!」
「頭ぁ、ガキばかりですぜ!」
「全員売っぱらうか?」
等と勝手な事を言っている『ゴミ虫ども』は、ノーラ母さんを怖がらせる、この敵意ある『悪さをする虫』は殺すしかない…
俺は煮えたぎる様な怒りと氷の様に冷静な思考が一緒い同居している様に馬車の中の家族に、
「アゼルとメリザは皆をまもれ!皆は耳を塞いで、目をつむろうか…」
と、指示をだして馬車を降りる。
そして心の中でクマ五郎に、
『始まったら先に行け』
とだけ指示を出して馬車の中のミヤ子と影の中のガタ郎に怒りのままに、
「殺れ!」
と命令を出す。
十人ばかりの盗賊団に向かい飛び出す二人…
「ガキがやる気かよ!」
そんな事など知らない盗賊達は俺というガキがイキって飛び出したのかと侮りヘラヘラしていたのだった。
俺の中で言葉に出来ない怒りが明確な殺意になり腰の雷鳴剣に手をかけると、盗賊達は、
「おうおう、ガキは数も数えられないのか?」
と笑い、盗賊達が剣を振り上げた瞬間に戦闘…いや殺戮が開始されたのだ。
しかし、それはミヤ子でもガタ郎でもない虫達により目の前のゴミ虫達は噛み千切られ、引き裂かれ、そして食われ始めたのだ。
指示通りに走り出したクマ五郎の荷馬車を横目で見送り、俺は理解が追い付かない風景を眺めている。
ただ周囲に生きながらに食われ始めた盗賊の叫び声がこだましたが、それも、ものの数秒で直ぐに静かになった…いや…なってしまったのだ。
風の音が聞こえる程に静かなにった空に馬鹿デカいトンボの群れや目の前の道端には羊サイズのキリギリスが並び、
〈王命により馳せ参じました…〉
と平伏している…
俺は、少し驚きながらも
「…うむ、ご苦労各々の暮らしに戻るが良い…礼を云う…」
と、状況がしっかりと飲み込めていないが、
『とりあえず皆帰って下さい!』
と願いつつそれっぽいセリフを言ってみると、彼らは俺に一礼した後に方々へと散らばっていく…
そして現場には少し不完全燃焼気味に一仕事終えたガタ郎とミヤ子と、呆然とする俺に戦闘が有ったであろう血の海が地面に残るだけだった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます