第67話 過去の自分を思い出すと…


故郷に帰って孤児院で目覚めた朝、

ノーラさんと、子供組のお姉さんでお手伝い担当のシェラと三人で近くの市場に当面の食糧の買い出しにやって来た。


孤児院を卒業前に何度も見た朝の光景である。


荷物持ちでノーラさんと訪れた朝の市場…ノーラ母さん越しの風景…懐かしさと松葉杖で買い物をしているノーラさんへの有り難さがこみ上げて来る。


泣きそうになりながら買い物を済ませノーラさんが、


「マジックバッグって便利ね!」


と喜んでくれているのに満足しながら孤児院へもどる…

アゼルとメリザも素泊まり宿を引き払い孤児院で寝泊まりしすることにしてもらった。


母屋が出来て、引っ越しする予定の2ヶ月の間に、アゼルとメリザを鍛えて、あの赤いブラッドブルを倒す為に初級ダンジョンに潜らせる予定だ。


しかし、二人の武器がショボいし皮の部分鎧もクタクタの中古品だ…


『こんな装備を何とか整えて、獲物を売り払わずに一部を皆に届けていたんだな…偉いぞ…』


と、実際にいうと本人達が照れてしまうのを知っている俺は、心の中だけで誉めてあげる事にした。


だが、俺が装備を整えて初級ダンジョンを踏破するまで1ヶ月以上がかった上に『燻製』などというあだ名まで付けられる羽目になったが、スキルもろくに使えなかった俺と違い、2ヶ月あればアゼルとメリザなら結構稼げるし装備も整えられるであろう。


孤児院の引っ越し準備は、アゼルとメリザを初級ダンジョンのザナの村に移動して稼げる様にしてからだ。


ノーラさんに


「少し二人と稼ぎに行く」


と告げて子供組には、


「ノーラ母さんのお手伝いを頑張る様に!」


と言って、


「はーい!」


と、いう元気な返事を聞いてから、二人の新米冒険者を連れて、歩いてエマの町の冒険者ギルドを目指した。


先ずは、二人の実力を見てすぐにダンジョンに向かえる様であれば、クマ五郎馬車でザナまで移動する予定だ。



新米の二人とエマの冒険者ギルドに入ると、


「ポルタくん?!」


と、いつも気に掛けてくれたギルド職員のお姉さんがガタリと立ち上がり驚いている。


「お久しぶりです」


と、ニコリと微笑む俺に、


「良かったぁ~、生きてたのね…」


と言われて、


『…まぁ、あの底辺冒険者を急に見なくなったら死んだと思うわなぁ…』


と理解した俺は、職員のお姉さんに、


「近場で何か稼げる魔物…居ます?」


と聞くと、お姉さんは、


「アゼルくんとメリザちゃんのコンビなら大丈夫かも知れないけど…水トカゲが多いのよ今年…でも、ポルタくんは…」


と心配する職員のお姉さんに、Cランクのギルドカードを見せると、驚いた上にカウンター内の何かしらの魔道具で確認していた。


「ほ、本物だ…」


と、呟くお姉さん…


『疑い過ぎじゃない?…少し傷ついちゃう!』


と思う俺だが、しかし、それ程までにしっかり底辺冒険者だったことを痛感した。


職員のお姉さんは、


「水トカゲは町の側の池に居るわよ、尻尾の攻撃と噛みつきに注意してね。

兎に角皮膚が固いから…武器は?」


と心配してくれるので、腰から下げたミスリル製の雷鳴剣を腰をひねり見せると職員のお姉さんは、


「ミスリル?!…ポルタくん…頑張ったのね…」


と泣き出してしまった。


…それほど駄目な子だった事に軽いショックと心配してもらえていた嬉しさで何とも言えない気持ちになりながら、アゼルとメリザと一緒に池に向かった…


道中、アゼルは、


「新人贔屓で有名な〈サラサ〉さんにあれほど心配されていたポルタ兄ぃって…」


と間接的に心配してくるし、メリザは、


「ポルタ兄ぃは、虫すら怖いビビりだよ…誰でも心配だよ…」


と、二人して精神攻撃を仕掛けてくる。


『ちげ~し!虫すらビビるんじゃなくて、虫にビビるんだし!!』


と、心の中でささやかな抵抗をしつつ池に着いた。


水トカゲは魚を主食とする大型のトカゲで、固い皮がそこそこの値段で買い取って貰えるらしい。


しかし、固い皮から倒すのが大変で値段の割には厄介な魔物だが、お姉さん的には、『三人でボコしたらイケる!』と判断したみたいだ。


試しに新米二人に殺らせてみたが、木の弓と鉄の槍では苦戦している様だが、動きは悪くない…むしろFランクの頃の俺とは比べ物にならないくらい良い。


一匹倒した二人に、アイテムボックスからゴング爺さん作の魔鉱鉄の槍と、魔鉱鉄の弓を取り出して、二人に、


「クレストの町まで貸しておいてやるから、使いこなしてみろ」


と渡すと、二人は、


「いいの?こんな凄い武器を借りて…と、驚いていた」


武器を手にした二人は次々と水トカゲをバッタバッタと倒していく…


『ヒノキの棒の頃の俺とは比べ物にならない二人の強さ…初期スキルに、恵まれるとここまで違うのか!…』


と驚く俺に、こっそり虫達にお引き取り頂く為に召喚しているガタ郎が、


〈旦那様、どんだけ弱かったんでやんすか?…〉


と呆れていた。


半年以上カチカチのパンを噛って野宿とは…言えない…言えないよ…

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