最終話 仲間になりたそうに見ています
そして、月日は流れた…
「う~寒い…春なのに夜の公園はこんなに寒いんだ…」
僕は、この国ファミリアの第一王子の〈ベルタ〉…のはずだが…現在、家庭の事情と言うか、
「我が家の男子は授かったスキルに関係無く、十歳になれば冒険者登録をして自力でDランクになれ!」
というのが父上の方針らしい…
こんな冒険者仕事を付与師のスキルの僕が、ペア師匠の修行を一年も休んでまですることかな?と疑問に思ってしまう。
父上がいうには、最大一年でDランクにならなければ駄目らしい…さっさと昇格して付与師の修行に戻りたいが…こんな状態じゃ…無理かなぁ?
それと、父上から渡された装備がヒノキの棒って…門番の見習い兵士だってもっと良い武器を与えられているよ…
結局どれが薬草かもよく分からないし、スライムは怖いし、虫は襲われない限り殺してはイケない我が家の習わしだし…
「決まりごとが多いよ!我が家は!!」
父上は、元々孤児だったらしいが一代で王様になったっていう虫の勇者で、知恵の神の使徒らしい…
恵まれたスキルだからサクサクと冒険者のランクも上がったのだろう…
『きっと野宿なんてしたことが無いんだ!』
と…怒った所で腹は減る…今日は我慢して昨日のベンチでまた寝よう…
その頃城では…
「本日、ベルタお坊っちゃまは、中央公園の三番ベンチでお休みになられております。」
と俺は報告を受けていた。
「ありがとう、ガングロ引き続きベルタの監視とフォローを頼む…
アイツは賢いが、機転が利くタイプではない…ギルドマスターにお願いして、やんわりと助言を頼めるようにしてくれるか…
多分、下手に知識が有るから薬草の見分け方も調べて無い可能性がある。
ギルマスには酒を一本届けたら大丈夫だから…」
とガングロに指示をだして、
『頼んますよ、パイセン』
と、俺は心の中で、呑んだくれの夢の狩人のリーダーにお願いしたのだった。
息子のベルタから、
「鑑定スキルが欲しい」
とおねだりされた時に、
『自分の欲しいスキルぐらいは、自分で稼いで買って欲しい』
と考えて送り出したが…親子だねぇ、3日連続野宿とは…
『そんな所は似なくていいのに…』
と何とも言えない気持ちになる。
ベルタはシシリーと俺の子供で長男だが、付与師のスキルを持つ少しビビりなインドア派だ。
一つ下の妹ポポならば、ママ譲りのオーガパワーと既に騎士団ばりの剣術で何の心配も無いのだが…
現在、俺の統治するファミリア王国は王都であるバアルに、
アゼルに国王の弟だからと公爵を押し付けて管理してもらっているヨルド領と、
ミゲールさんを魔族のリーダーとして侯爵になってもらい、魔の森全体を治める魔族領に、
旧ヨーグモス国第一王子に流石に同郷の御先祖の名前を消してしまうのは忍びないとサカシタ伯爵なってもらい代官として治めてもらっているオーツの街がメインである。
列車で結ばれてはいるが、街ごとに人間と魔族の割合が違うのが現状で、代を重ねる毎に混ざり合い、魔族だの人間だのと言わなく成れば良いと願っている。
やはり、オーツの街ではまだ魔族や、俺自身にも『敵国の… 』みたいな感情が有るようだ…
出来る限りの事はしたとしても、時間がかかるのは仕方ない。
あと、拠点迄の路線も開業してファミリー商会も大きくなり、妻のポプラさんの実家の果樹園をも傘下に加えたパーシーさんが頑張っている。
そして、ポプラさんはもっぱら子育てに大忙しだそうだ。
拠点のノーラさんとご近所さん同士だし子供達も仲良しで、そこにオーガの村のママさんも加わって、孤児院時代よりも母屋周辺は子供達が走り回り忙しそうだった。
残念ながら商会のヨルド支店長夫婦のヘンリーさんとライラさんには子供は出来なかった…
(ゴブリンのせいかは解らない…)
が、しかし、夫婦は沢山の孤児を引き取り、有る意味一番の子沢山になっており、商会の見習いや牧場にサファリパークなどヨルドの街で商いをしている者や、一人立ちして他の街に行く者…ヨルドの街以外の街でも深く経済に関わる人員を沢山育てている。
弟の、トムも奥さんをもらい大工として一人立ちしたし、
妹のミミはクレストの街でミミハウスという洋服屋さんを経営している。
末の兄弟ポロと、ダミアだが、
ポロは、アゼルの所で騎士団長をしているし、そして、ダミアもアゼル領地で学校の先生を…
「あれ?ポルタ兄ちゃんは嫌いなの?」
と悲しむ俺に、
「ポル兄ぃよりも、アゼル兄さんに世話になったから…」
と、我が家の下の弟達はいっていた。
それもそうか…と納得はしてみたが、少し寂しいよ…
そして、現在俺は、忙しい毎日を送りながら、孤児院の時ぐらいに歳も性格もバリエーション豊富な沢山の我が子に囲まれながら楽しく気楽な王様稼業をエンジョイしている。
虫が嫌いだった俺が、『好き』とまでは行かないが、楽しく一緒に暮らせる迄にはなれたんだ…
きっと、魔族嫌いの人間も、人間嫌いの魔族もそのうち…と、街の公園の方を眺めながら考えてながら、
「よし、ガタ郎!流石に野宿4日目は可哀想だから、コッソリとベルタのサポートよろしく。
明日辺り、牙ネズミに偶然出会う感じで!」
と、いうと、
〈了解でやんす〉
と元気よく俺の影から飛び出して飛んで行くガタ郎を少し羨ましく見送る俺だった。
そんな俺を見ていたシシリー達から、
「なにしてるの?」
と聞かれて、
「ベルタの様子が気になったからちょっとね…」
という俺にシシリーは、
「ベルタの仲間になりたそうに外を見てたわよ。」
と言われた…
『そうか…冒険に出たい…』
あの時、俺を見つめていたダンゴムシ達もこんな気分だったのかな…
仲間になりたそうに見ないで下さい。 ヒコしろう @hikoshirou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます