第30話 旅立ちの決意と来訪者


マリー達のおかげで、不労所得が入る事になって商業ギルドに登録して口座も開いた。


俺は今Dランク冒険者とFランク商人の蜂蜜農家の二足のワラジを履いているが片足は完全自動歩行ワラジである。


そして、商業ギルドの通帳もギルドカード方式で、帝国全土で出入金が可能だった。


これで、どこに行っても大丈夫なのだが別に行く宛もない…


一度くらいは、この沢山の国々をまとめている帝国の都に行ってはみたいが、ここから馬車で約1ヶ月腰の痛みに耐えながら過ごす自信がない…


しかし、ダンジョンが盛んであっても組織化され過ぎてまともにダンジョンにソロが潜れないうえに、ダンジョンショップがまともに使えなくなったアルトワ王国からは出るつもりだ。


『だけど…馬車旅がねぇ…』


『サスペンションが入った馬車は無いもんかね?』


『ん?…無かったら作ればいいのか!?』


『うーん…でも、馬車を作って貰うのにもお金がかかるし、何より、そんなワガママな注文を聞いてくれる鍛治師さんにも心当たりが無い…』


と、冒険者ギルドの宿屋の中で一人積んでは崩しを繰り返しながら考えて、結局、


『鍛治が盛んな国に行くのが良いのかな?…』


という事で脳内会議がまとまった。


正直、馬車よりも冒険で少しくたびれてきた装備を新調する目的がメインになりそうであるが…


ヨシ、鍛治の盛んな国に拠点を移して、成長に合わせた装備を作って貰うのが第一目標で仲良くなった鍛治さんがいたら馬車の相談でもするかな…?

何しろ、サスペンションの理屈は解るが、この世界の技術で作れるかは解らない。


まぁ…こんな防具とか作れるから大丈夫とは思うが

ガタ郎さんが樹液タイムから帰って来たらクレストの街の図書館にでも行って近隣の情報を調べるか!ギルドの資料室より詳しい情報が有るだろうからね。


と、今後の予定も決まりガタ郎の帰りを待ちながらギルドの宿屋でのんびりしていると、コンコンコンと俺の部屋の扉がノックされた。


『ん…ガタ郎ならば空いている窓から入ってくるし…誰だろう?』


と思いながら、


「はい」


と返事をすると、


「ポルタ様、先日のお詫びに参りました…」


と元気の無いダンジョンショップ店員のニールさんの声が聞こえた。


俺が入り口のドアを開けると、ほぼ二つ折れのニールさんの背中が見えている。


俺が、


「どうしたんですか?…

とりあえず、話し難いので顔を上げてくれませんか?」


とお願いしたら、


ニールさんは、ソーッと顔を上げて俺の顔を見ると、


「大変申し訳ありませんでした。」


と再び折り畳まれた…


『体、柔らかいな…』


と感心してしまう俺だがこれでは話が進まない…


俺は


「だから、ニールさん…話し難いから頭を上げてください」


と呆れながらお願いするとようやくニールさんはお話モードになってくれたようで部屋に招いてテーブルに案内する。


すると、椅子に腰かけるなりニールさんは


「この度は、私共の買い取り窓口職員が大変失礼を致しました。」


とテーブルに頭を擦り付けている…


『もう、注意するのも面倒臭い…そのままでいくか…』


と、ここは一旦放置してみる事にしたのだが、ニールさんはテーブルにおでこを擦り付けたまま、


「ポルタ様を見かけた職員が興奮し、担当を巡り争った事を後から聞かされ、大変恥ずかしく、また涙の出る思いでございました。

日頃の恩を仇で返してしまいどうお詫びをすれば良いかと…

窓口の職員は、ポルタさまのお気の済むように、退職でも何でもさせる準備が店長と出来ております…」


と言っている。


俺は慌てて、


「おいおい、ニールさん、穏やかじゃないよ…退職とか止めてあげてよ」


というのだが、相変わらずニールさんは椅子に座りながらも体を折り畳み、


「如何様な処分でも!」


と相変わらずテーブルにおでこを擦り付けている…


『もう、そういう趣味なんじゃないかな?…』


と、思うくらい顔を上げない…


「じゃあ、窓口女性職員さんには向こう1ヶ月ダンジョンショップ内のトイレ掃除業務追加と、

今回あの職員さん達を現場で止めなかった上司や他の窓口の職員さんも合わせて、ダンジョンショップ周りの道の清掃作業などの奉仕活動一回!

以上です」


と処分をお願いした。


俺が処分を申し渡したからかニールさんはようやく顔を上げて、


「それだけで…?」


と聞いている。


俺はニールさんの真っ赤になったオデコを見ながら、


「鑑定して欲しかったのが駄目になったくらいで、退職とかは変でしょ?

でも、次からは無いように指導はして下さい!

はい、おしまい。」


と、俺が言うと、


ニールさんはやっとホッとした様で表情が和らいだ。


「寛大な処分ありがとうございます」


とまたオデコをテーブルに擦り付けそうだったので、


「オデコ、真っ赤ですからもう擦り付けないでください。」


と俺が先に注意すると、ニールさんはテーブルにあと1センチの所で止まりユックリと起き上がった。


気まずそうに笑うニールさんと目が合うと、何だか変な感じがして、俺もプッっと吹き出してしまったのだった。


それから二人で笑い合っていたら、いつの間にか帰って来ていたガタ郎が影の中から、


〈二人してヤバいキノコでも食べたでやんすか?〉


と心配していた。






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