第31話 クレストの街からの旅立ち
あのあと、ニールさんに魔法ダンジョンでゲットした二つのスキルスクロールを鑑定してもらった。
一つは、生活魔法の〈ライト〉で、冒険者に人気の生活魔法であり、その名の通り光の珠を出す。
杖を等の武器に付与すると松明のように使える優れものだ。
そして、もう一つは〈跳躍〉というジャンプが高くなるスキル…
『地味だ…』
しかし、地味だが冒険には役に立ちそうではある。
俺は心の中で、
『魔法系スキルスクロールの確率が良いダンジョンだから、炎魔法とか覚えて、ボカァーン!と出来るかな?』
と、少し期待していたが…ざんねん…と少しガッカリする鑑定結果に不満を漏らしていたのだった。
『まぁ、両方取得したんだけどね…』
スキルを取得したあとでニールさんに、
「クレストの街を出ます」
と、告げると、何故かニールさんはまたテーブルに頭を擦り付け始めた…
『いやいや、ニールさんのせいではないから…』
と焦る俺だが、そのあと、
「私が至らないばっかりに…」
と、涙ながらに謝罪するニールさんをなだめるのが大変だった。
俺が、
「他の国も見て回りたいしそろそろ防具も新調したいから…」
と言ったらニールさんは、何かを思いついたようで、
「3日…3日私に時間を下さい!」
と、言い残して急いで帰って行ってしまったのだった。
『まぁ、3日ぐらい構わないけど…』
と思いながら俺は彼の背中を見送るのだった。
ー 3日後 ー
ニールさんがまた宿の部屋にやって来て、
「ポルタさんの力になりたくて方々駆け回ってきました」
と告げて、
鍛治の盛んな〈ガイナッツの国〉という小さな国と、その国の〈モンドール〉伯爵領にいる腕の良い鍛治師の情報を地図で説明してくれた。
しかも、そのモンドール伯爵様に宛た紹介状まで…
「これは?」
と俺が聞くとニールさんは、
「鉱石解る君の実演販売の時のご婦人…覚えておられますか?…実はあの方はこのアルトワの伯爵婦人でして…
ポルタくんのファンになったが、あの日以来現れない、あの職員さんは何処にいるの?
と店に問い合わせがありまして事情を話しましたら、ガイナッツの国なら少々顔が利きますのでこれをと…」
と、紹介状の出所を教えてくれたのだった。
『やっぱり、お貴族様だったか…不敬な事はしてないよね…俺?…』
と少し焦ったが、ファンになってくれたらしいからセーフだったのかな?…
しかし、お貴族様との接点など無かったから、後から聞けて良かったよ。
先に知ってたら、緊張で固まってたと思う…
などと俺はあの時のご婦人を思いだしながら、
「ニールさん、くれぐれもあのご婦人に宜しくとお伝え下さい。」
とお願いした。
すると、ニールさんは続けて、
「こちらは、店長と私からです」
と言って二つのスキルスクロールを渡してくれた。
ニールさんは、
「こちらは〈鉱物資源感知〉というスキルと〈アイテムボックス〉のスキルです。」
と、教えてくれたが…
『えっ、アイテムボックスって滅茶苦茶お高いスキルだよね?』
と驚く俺は、
「こんな、高いスキル…良いんですか?」
と言ったらニールさんは、
「ポルタさんにして頂いた恩に比べたら安いものです。
また、ダンジョンでスキルスクロールを手に入れたらアイテムボックスに入れてみて下さい。
それだけで名前だけならば判別出来る筈です。
この度は私共の職員が大変失礼をしましたと店長から言付かっておりますので…」
と話してくれた。
そして、
「鉱物資源感知スキルで示された場所を掘って土をまるごとアイテムボックスに入れれば自動で、土と鉱物資源に分けてくれますので…」
などと、アイテムボックスの活用法を教えてくれた。
『なんと便利なスキルを…』
と俺が、驚きながらも恐縮しているとニールさんは、
「これで、良い装備を作って早めに戻って来て下さいね」
と涙をながしてくれた。
…泣いてくれるのか…嬉しいな…
あとは、ギルマスや夢の狩人の皆さんに挨拶まわりをしてから出発するのだが、ギルマスは
「装備が整えばすぐ帰って来るんだろ?」
と残念そうだったが夢の狩人の皆さんは、
「そうか、それでこそ冒険者だ。
世の中は広いぞ、綺麗な景色に、強い奴、可愛いネェチャンに、新しい出会い…旅は良いぞぉ~!
よし、ポルタの新しい門出に乾杯だ!」
と俺を笑顔で送り出してくれたが…
お酒が進むにつれて、ポロリと涙をながして、
「体に気を付けろよ…」
と、俺の背中をとんと叩いたあと無言でしばらく飲んでいた。
冒険者ギルドの宿も引き払い、ガイナッツ方面の乗り合い馬車に乗りクレストの街を出る事になった。
こちらに生まれて初めて、誰かに見送られての旅立ちかも知れないな…
などと思いながら、見送りに来てくれたニールさんや夢の狩人の皆さんに手を振りながら、馬車に揺られて街を出ていく…
役一年お世話になった街に別れを告げて旅立つさみしさと、新たな場所を目指す期待にも馬車以上に揺れ動く気持のまま馬車から小さくなるクレストの街をいつまでも眺めている俺だった。
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