第32話 到着したのだけれど


クレストの街から旅立って約1ヶ月…少し雪がちらつく年の瀬に何台か馬車を乗り継いでやっとガイナッツ王国のモンドールの町に到着した。


入り口で門兵さんに身分証の提示をお願いされたのでギルドカードを見せると、

子供で冒険者はまだ解るが、ついでに商人のカードも有るのは怪しいと疑われ別室へ…

咄嗟に紹介状の事を思い出して、追加で提出すると更に疑われてしまったらしく、


「誰から盗んだ?」


と詰め寄られ現在絶賛取り調べ中です。


感じの悪い兵士さんが、


「いい加減楽になれ…田舎の母ちゃんも泣いているぞ…」


と肩に手を置き圧力をかける。


いい加減ムカムカはしているがどう頑張っても楽にはなれそうにない…


「他に報告する事も有りませんし、孤児院育ちで親の顔すら知りませんが?」


と言ったら感じの悪い兵士から俺は


「親の愛も知らない孤児だから、物を盗んでも心が痛まないんだな…」


と、何とも失礼な事を言われた…


そして、遂に俺の意見は何一つ聞いて貰えず前世も合わせて、初となる牢屋に入る事となってしまった。


影の中でガタ郎が


〈あんにゃろめ、旦那様に失礼過ぎるでやんす!

今から飛んで行って首チョンパしてやるでやんすっ!!〉


と興奮している。


俺は、


『ガタ郎さん、ありがとう…

でも、これ以上問題を大きくしたくないから我慢してくれ…』


と心の中でガタ郎に語りかけた。


ガタ郎は渋々了解してくれたが、どうせ首チョンパするなら俺が直接したいくらいだった。


寒い牢屋の中で硬い板のベッドに腰掛けながらアイテムボックスに入れていたパンを取り出して噛っている。


来る途中の町で買ったパンがこんなところで役に立つとは…

しかし、マジックバッグになら肉料理など色々入っているが、装備と合わせて没収された…


以前に気まぐれでアイテムボックスを使ってみたくて放り込んだパンが二つ有るだけだ…


『それにしても、捕まえたやつに飯も出さないつもりかなこの国は…』


と思っていたら牢屋の外が騒がしい、


「兵士長、流石に酷すぎます食事を与えないなんて…」


と、誰かが怒っているようだ。


すると、今朝の腹の立つ兵士の声で、


「あんな孤児院出の小悪党は、腹が減ったらペラペラと白状するんだよ!

兵士長の俺様に意見するのか?良い度胸だな!」


と、聞こえる。


『最悪だな…アイツ…』


と俺が思っていると、ガタ郎も影の中で半分呆れながら


〈今からでも遅くないでやんすよ。

あの、ムカく奴だけでも首チョンパするべきでやんすよ〉


と、言っている…


騒がしい外の会話を聞いて、もう真面目に捕まっているのもアホ臭くなってきた俺は、


『ガタ郎、頼みがあるんだけど…』


というと、


〈首チョンパでやんすか?〉


とワクワクしだすガタ郞さんに、


『いやいや、そこのテーブルのマジックバッグを取ってきて』


と頼みマジックバッグから食糧をアイテムボックスに移し替えて、


再びガタ郎さんにマジックバッグを元の位置に返してもらい、俺は知らぬ顔で牢屋生活をエンジョイすることにした。


多分アイツはご飯をくれそうにないし、俺の身元確認なんてクレストまで片道1ヶ月の距離…最悪2ヶ月かかるかもしれない。


『正直マジックバッグの中の食糧で2ヶ月はキツいが行けるところまで我慢してやる…』


と思っていた5日後にドタドタと人が雪崩れ込んできた。


「クレストのエイムズのギルドから来た冒険者はどいつだ?」


と言いながらムッキムキのオッサンが怒鳴っている…


『クレストから来たけど…エイムズって誰だっけ?…』


と、思いながらも俺は少し自信無く手を上げて、


「はい、クレストから来ましたがエイムズさんって名前は聞いたような…聞いて無いような…」


というと、


ムキムキのオッサンは、


「えっ、知らないのか?ギルマスだぞ!」


と、驚く。


俺は、


「あぁ、たしかそんな名前だったな、あのマントのオッサン…」


と、思い出すとムキムキのオッサンは、


「ガッハッハ」と笑い、


「そうそう、ダサいマントのオッサンだ!間違いない、すぐに出して貰おうか?」


と、感じの悪い兵士に言うと、感じの悪い兵士は、


「まだ、取り調べが…」


と騒いでいるが、ムキムキのオッサンは、


「うっせぇ、汚い口を閉じろ!

てめぇが、ろくに調べもせずに罪もない冒険者を監禁してるのは知っている。

これまでの罪人も食事を与えずに飢えさせて、食事と引き換えに罪を認めさせ有りもしない手柄を立てて来たことは調べがついている!恥を知れ!!」


と、怒鳴る。


ムキムキのオッサンの合図で、


感じの悪い兵士は揃いの鎧の騎士に取り押さえられて、続け様にムキムキのオッサンは一緒に入って来た身なりの良いオッサンに、


「てめぇも、てめぇだ!モンドール伯爵さんよぉ?!

他国とは言え、同じ帝国の伯爵婦人からの紹介状が有りながら、なぜ直ぐに自ら確かめに来なかった!」


と、ガチおこだ。


『あのアホそうなオッサンが、モンドール伯爵かぁ…』


と眺めているとアホそうなオッサンは、


「いゃぁ~、父上が亡くなってしまって、エルトワ王国に嫁いだローゼッタおば様の紋章も文字も本物か判断できなかったのだ…」


と言い訳している。


カッコ悪いアホのオッサンに向けて、


「てめぇみてーに、昔から人のせいにばかりして…

手紙を読んで自分で何とかしようと何故しない?!

てめぇに、昔のダチが目をかけている有望な新人を任せる訳にはいかねぇ!

この件はガイナッツ王国第一騎士団が預かる!いいな!!

てめぇは、おば様とやらに詫び状でも書いておけ!

正式なルートで抗議されたら外交問題だぞ?!

伯爵名義で紹介状を書いたのに投獄されたとあれば先方の伯爵様を馬鹿にしたも同然…てめぇ自身も処分が有るから覚悟しておけ!

あーあ、てめぇの親父さんは出来るお方だったのに…」


と捲し立てる様に言ってから、ため息をつくムキムキのオッサンに連れられて馬車に乗せられドナドナされる俺だが、ムキムキのオッサンは馬車の中で具の無いスープを渡してきて、


「よく頑張った坊主…モンドールの所の兵士が1人、俺の騎士団に報告してくれてな…

クレストの街の冒険者ギルドに王都の冒険者ギルドから通信魔道具で確認したら身元はすぐにわかったのに、奴らは…

坊主ユックリ飲めよ5日も飲まず食わずでよく耐えた。

急に飲んだら胃が受け付け無くて吐いちまうからな…」


と心配してくれるのだが、


『ワザワザ、スープを用意してまで迎えに来てくれたのか…』


と、思うと


「結構食べてました」


とは言い難い…俺は気まずくて黙ったまま馬車に揺られるのだった。


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