第40話 採掘現場での出会い


やっと着いた竜の釜戸という採掘も出来るポイントは、湯けむり漂う温泉地帯だった。


既に先客の冒険者が数名いて、ガッチン、ガッチンとツルハシを振り採掘をしている。


到着したばかりの俺は、ゴング爺さん特製の魔鉱鉄のスコップをアイテムボックスから取り出して、小川の側でザックザックと穴を掘っている。


…掘れば、掘るほど湧き出る温泉…小川の水も引き込み調節をする。


アイテムボックスにハリネズミの時の岩がまだ入れっぱなしなのを思い出して俺はそれを取り出して並べていく…

ということで結局到着初日は岩風呂作りにかけてしまった。


風呂の側にテントを張り、夕方近くから景色を眺めながら入る風呂は格別だった。


調子に乗って少しはデカい風呂を作ってしまったのが少し体力の無駄遣いだったかもしれない…

そして、採掘を終えた先輩方が小川にで泥を落としに来たところ、風呂に浸かる俺と目が合う…


たまらず先輩冒険者は、


「凄いの作ったな!」


と声を上げ俺は、


「どうです?先輩方も入りますか?」


と誘ってみた。


三人の先輩冒険者は、


「えっ…いいのか?」


と口を揃えて聞いて来たので、


「温泉が湧くのが楽しくて、デカい岩風呂つくりましたからどうぞ」


と答えると、先輩達は少し暖かいだけの小川からポカポカの岩風呂に移動して、装備を脱ぎ捨てから、


「お邪魔します」


と声をかけて三人は


チャプンと湯船につかるのだった。


先輩冒険者は、


「凄いな…採掘せずに何をしてるのか?と思ったが、これは最高だ…貴族にでもなった気分だよ。

お湯に浸かるとは贅沢な事を思い付いたな坊主…」


と言ったので、


「初めまして、Dランク冒険者のポルタです」


と自己紹介する俺に、先輩方は、


「おっと、すまないCランクのトニーだ。」


と、背の高い冒険者が応え、


「俺もCランクのマイルズ、宜しく」


とガッチリ体型の冒険者が返し、


「こんな格好で自己紹介も何だが、Cランクのチャックだ。」


と背の低い冒険者が少し照れながら挨拶してくれた。


四人で湯船に浸かっていると、トニーさんが、


「Dランクでここまで来たヤツを初めて見たよ。

ポルタは何歳だ?」


と聞くので、


「12です」


と答えると、マイルズさんは、


「スゲーな、俺なんか12っていったら、まだFランクだったよ…」


と驚き、チャックさんは、


「俺なんか、12なら鍛治師の見習いしてたけど、モノにならなくて逃げ出したばかりのGランクだな…」


としみじみ答える…


俺は、


「先輩達は、Cランクなのに冬の狩りとか行かないんですか?」


と、俺が聞くとトニーさんは笑いながら、


「あんなふざけた内容の依頼は一流冒険者様に任せりゃ良いの!」


とグ~ンと伸びをして、マイルズさんも、


「うん、うん」


と、同意する。


チャックさんが、


「ギリギリ行けそうなオーク狩りも、あんなの最低だ…ゴブリンよりタチが悪い…

アイツらオスもメスも居るのに、苗床の女も玩具扱いの男も巣に居る可能性がある…気苦労が倍だ…」


と、顔を洗いながら遠い目をして語る…


『ひぇー、行かなくて良かった』


と俺は思うと同時に、


『以前何か有ったんだろうな…』


チャックさんを眺めていた。


トニーさんは、


「ポルタくんは冬越しクランに入らなかったのかい?」


と聞くので、俺は、


「その文化を知らなかったんですよ…

昨年は雪ウサギ狩りとか、なんやかんやで何とかなりましたし…まぁ、知った所で多分行きませんけどね」


と、俺がいうとマイルズさんが、


「こんな気持ち良いのはダンジョン労働者には味わえないから、ポルタ君は正解だよ」


と笑い、チャックさんも頷いている。


結局そのあとも、焚き火を囲んでご飯をたべて、樹液タイムから帰ってきたガタ郎を紹介すると、三人とも固まるという、お約束のくだりが有ったものの和やかな夜は更けていった。



ー 翌朝 ー


寝ずの番をしてくれたガタ郎にリンゴをあげると、


〈冬場は樹液の出が悪いでやんすし、ここら辺は地面がポカポカと暖かいけど木があまり無くて困ってやしたから、リンゴが一番有難いでやんす〉


と言っていた。


俺は、


「ごめんね、お腹空いてたんじゃない?」


と、アイテムボックスからミカンも取り出して、ガタ郎に渡すと、


〈嬉しいでやんす〉


と喜んでいた。


俺は、支度を整えて竜の釜戸での、初採掘に挑む、


鉱物資源感知を使うと、あちこちから反応があり、ゴング爺さん特製の魔鉱鉄のツルハシや、スコップが唸る!


カチ割った岩等をアイテムボックスに放り込むと自動で仕分けてくれて、岩や土は採掘場の端にまとめて捨てて、次から次へと採掘ポイントを渡り歩く。


先輩達も泥だらけで土を掘り返しては、メガネをかけて確認したりしている…


『あれは、鉱石解る君では!…』


と懐かしのダンジョンアイテムを駆使して採掘を行う先輩を見て、


『自分は何と楽が出来ているのか!…』


と改めて知ることが出来た。


1日土にまみれ、泥んこでテントに戻り風呂に入る…勿論、先輩方も一緒に…

ワイワイと食事をし、また翌朝から採掘を始める。


たまに現れる鳥魔物はガタ郎さんが首チョンバしてくれて片付けてくれるし、よく分からない毛むくじゃらの軽自動車程のカピバラみたいなのは、手出ししない限りは襲ってこない、彼らは暖かい地面を探し昼寝して帰るだけだ。


平和な採掘現場で1ヶ月近く頑張り、


「もう少し頑張るよ」


と言った先輩方を残して下山する事にした。


…効率が良すぎて、罪悪感を覚えてしまったからだ。


先輩方に、


「温泉は自由に使って下さいね」


と、声をかけて、手を振りミルトの街を目指して歩きだした。


しかし、やはりまだ帰りも滅茶苦茶寒かった。

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