第39話 冬山の夜に…


あぁ~、クレスト程ではないがやはり冬場は依頼の量は減り依頼の難易度は上がる。


よってDランクの出る幕はほとんど無い。


…何だよ〈オーガの巣の殲滅〉って、何処の軍隊に依頼するつもりだよ…


ダンジョンもミルトの街から馬車で5日の場所にあるが、どうせクレストの街で味わった通り、冬場の稼ぎ場所になっているので人口密度が高く仕事にはならないのだろう…


『さぁー困ったぞ…』


採掘場のアーマーリザードも冬眠中だし、猪や鹿の魔物は猟師さんに近場の狩場は抑えられているので、変ないざこざは起こしたくないし、かといってオーガやアイスワイバーンなんて相手にするほど馬鹿ではない。


消去法で残ったのは〈オークの集落の殲滅〉…


『ふざけるな!ソロで出来るか!!』


という訳で完全に積んだ…


不労所得と少しの蓄えで何とか春まで過ごせるが、じり貧なのは変わらない。


あと、Dランク冒険者の俺でも行けるのは、盗賊関係の依頼のみ…秋に収穫が少なかった農民が盗賊になるから冬場は盗賊が増える。


『しかし、対人戦闘かぁ?…』


不作で難儀して盗賊に堕ちた元農民をシバくのは趣味ではないし、

生粋の盗賊は切り殺す必要が有るかもしれないからパスしたいなぁ…


俺がクエストボード前で、うーん、うーん唸っているとギルマスのクレモンズさんが、


「ポルタ君、お仕事少なくて困ってるようだね。」


と、声をかけてくれた。


俺が、


「猛者用の依頼しか有りません…この時期Dランクの皆さんはどうしてるのでしょう?」


と聞くとクレモンズさんは、


「冬前から〈冬越しクラン〉を組んで、ダンジョンのフロアを占拠して狩りをして二時間休憩を繰り返し、ある程度で次のチームと場所交代してを繰り返してるかな…でもソロは厳しいでしょ?」


と教えてくれた。


『なるほど、あの組織はそういうなり立ちなんだ』


と、納得はするが同時に今からではどうともならないのが解った。


「はぁー」


とため息をついてガッカリする俺にクレモンズさんは、


「ポルタ君、〈竜の釜戸〉っていう良い狩場があるよ。

片道1日ほどかかるから寒くて大変だけど、現地に着いたら地熱で暖かいし、ヤバい敵はそんなにこの時期は居ない筈だからオススメだよ。

金や銀、ごく稀にミスリルなんかも採掘出来るし、

運が良ければ宝石なんかも出てくる場所もあるエリアだよ。

絶対春までには帰らなきゃ強いのが出てくるけど…どうだい?」


と言われて、


「ギルマス、場所を教えて下さい」


と、頭を下げる俺に、待ってましたとばかりにギルマスは、ポケットから地図の写しを渡してくれた。


俺は、


「ありがとうございます。早速行ってきます!」


と冒険者ギルドを飛び出し、食糧の買い出しをしてからゴング爺さんの工房に寄って、


しばらく留守にする挨拶をする。


ゴング爺さんは、


「気を付けていけよポルタ。

帰ってくる頃には手押しポンプ試作品と、ポルタ専用の荷馬車が出来てるころだから楽しみにしとけ。

あぁ、あとミスリルと金や銀は売らずに持って来い!良いモン作ってやるからなぁ~」


と、作業をじゃながら見送ってくれた。


ゴング爺さんは今から向かう竜の釜戸という採掘場所を知ってる様だな…

まぁ、鍛冶師のゴング爺さんが採掘場所を知っているは当たり前か…

ミスリルが取れるって知ってるみたいだし…実績も有るようで楽しみだぜ!



などと気楽に考えておりました…すみません…冬の登山を舐めに舐めてました!!


『し、死ぬやもしらん…』


と、俺は不安になりながらも、影の中からガタ郎が、


〈頑張るでやんす、寝るなぁ!寝ると死ぬでやんす。〉


と、叫んで俺を鼓舞してくれる。


俺は、


「あぁ、あの時のフレアウルフの毛皮で、ポカポカの防寒着を作ってもらったら良かった…

少し温暖な地域だから要らないかな?と全部の素材売るんじゃなかった…

で…ガタ郎は寒くないの?」


と、凍えて震える俺は相棒を心配して聞くと、


〈影に入っている限り寒くも暑くもないでやんすよ…旦那様の影はいつも快適でやんす〉


とガタ郎が告白する。


「ずっこい、ずっこい!」


と俺はいじけながら、


「ガタ郎…出てこいよ…お喋りしようぜ…」


と提案すると相棒は、


〈虫には冬山はキツいでやんすよ…〉


と拒否しやがる…


『まぁ、それもそうだが…』


でも俺にも十分キツいよ…夜の冬山はマジでキツい…


俺は、


「もう駄目だ!」


と、諦めて休める場所を探して夜を明かす事にした。


近くに小さい洞窟?を見つけて、


「よし、あそこにしよう」


と、呟き近寄るが、


『あれ?なんかの巣穴じゃね?』


と思い、索敵スキルをかけると穴の奥に赤い点が見える…


『マジかよ…巣穴かぁ…』


と、ガッカリする俺だったが、しかし、もう寒さでギリギリな俺は、


「お邪魔しまぁーす」


と、巣穴に入ってライトの生活魔法を取得して以来久々に使ってみる。


すると、俺の出した魔法の明かりに照らされてグッスリ眠る、熊ぐらいデカいハリネズミがいた…


『あぶねぇなぁ…何だよ寝ててもほぼ無敵じゃねぇ~か!

トゲが一本一本〈槍〉の様だし丸く成ってるし…』


と悪態をつきながらハリネズミさんのお部屋を拝見すると、周りは枯れ葉や枯れ草で暖かそうだが、流石に添い寝するには少し相手がトゲトゲしい。


しかし他の穴を探すには外は寒過ぎる…


考えた末、俺はハリネズミさん家を勝手に二世帯住宅にリホームする事にした。


巣穴の周りで岩を沢山アイテムボックスにし回収し巣穴にもどり、奥にいるハリネズミの手前を岩を出して塞ぎ手前だけ浅い洞窟にリホームした。


勿論奥には大家さんハリネズミがお休み中だ。


そして俺は暖をとるために巣穴の中で焚き火をたく…生活魔法の着火は本当に便利だ。


無事に冬場で乾燥した枝に火がついてくれて焚き火の熱で少しは暖かなくったが、外からの風が寒い。


岩で入り口も埋めたかったが、岩が足りないので、風避けを作るのがやっとだったが、それでも有るのと無いのとでは大違いで、風避けに隠れる様にしゃがみこみ、何とか焚き火のおかげで俺の指先の感覚も戻ってきた。


しかし、外の寒さに負けそうな焚き火では芯から暖まらない…


ヤケクソで薪を追加してキャンプファイアーほどの焚き火を巣穴で燃やしてようやくポカポカしてきたが、凄い煙が出てしまい煙たくて巣穴には居れなくなってしまった。


まぁ、一旦暖かくなったので暫く我慢は出来るし、入り口側にいるだけでもキャンプファイアーはまだボーボーと燃えているので暖かいので入り口付近ならばギリギリ外のでも大丈夫そうだ。


すると、巣穴の奥から〈ゴン、ゴン〉と暴れる音が聞こえる…


『まずい、大家ハリネズミが起きたか…』


と俺は武器をアイテムボックスから出して構える。


しかし、音はすれど、出てくる気配がない…

一時間程俺は警戒しながら武器を持って立っていたが、アホ臭くなり念のために索敵スキルをかけると赤い点が消えていた…


入り口側で夜を明して、巣穴の奥を塞いでいた岩をアイテムボックスにしまい見に大家さんの部屋を見に行くと、勝手に住み着いた俺のキャンプファイアの火が床の枯れ葉に燃え移って広がった様で、可哀想にデカいハリネズミは焼かれたか?一酸化炭素中毒か?理由は解らないが天に召されていた。


俺は無言でハリネズミをアイテムボックスにしまい、また山を上り始める。


ガタ郎が影の中から、


〈寝てただけなのに…哀れでやんすね…〉


と呟いていた。

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