第41話 亀の行進


男だらけのお風呂回を終わらせた俺は現在クレモンズさんの指揮の元でミルトの街恒例の春先の大量発生イベントに参加している。


〈岩亀〉という、兎に角硬い亀の魔物が多分温泉が湧いて暖かいミルトの街の近くの池で過ごしてるのだが春先の暖かい日に一斉に池から自分達の住み処に戻る習性がある。


その時に畑でも果樹園でもお構い無しで踏み荒らしながら移動するのだ。


しかも、歳をとった大型の岩亀はトラック並みにデカくて家すらもなぎ倒す。


速度が遅く、歩くのが嫌いな岩亀は一直線に住み処に向かうので、迂回や方向転換はあまり望めない、


つまり、突っ込んできた岩亀は倒さないと街に被害が出てしまうのだ。


そんか亀さん達は、スーパーの買い物カートサイズから、トラックサイズまで大小入り乱れて街に近づいてくる。


俺達近接武器系の冒険者が等間隔で横一列になり待ち構え、魔法系は後方から支援する形で弓使いの冒険者は今回偵察役である。


そう、岩亀に弓矢はまず通らないからである。


弓使いの、


「小型多数、中型8、大型3来ます!」


の報告で等間隔で横一列に並ぶ冒険者達に緊張が走る。


『小型でお願います。大型は許して…』


と心の中で祈る俺…

それもそのはずで、俺の扱う片手剣ではどう考え方ても火力不足の気がする…

しかし、俺が相棒の魔鉱鉄の片手剣を両手で握り待ち構えていると、どう観ても俺の前に小型が三匹とランドクルーザーみたいな中型が並んで行進して来る。


クレモンズさんの


「では、皆、行くぞぉ~!」


の掛け声に、皆一斉に走り出す。


『馬鹿野郎ぉぉぉぉぉ!』


と心の中で叫びながら、誰に対してか解らない怒りをぶつけるべく俺はスーパーのカートサイズを先ずは狙い、横に回り込み首を狙うが、甲羅だけでなく皮まで硬い…


魔力を纏わせてギリギリ切れるが、ダンジョン産のアイテムと言えど、硬い物を切れば刃こぼれもする…


俺の相棒は三匹倒せばもう…ボロボロだった。


しかし、俺の担当区画には中型がまだいる。


駄目で元々で中型に駆け寄り渾身の飛爪の一撃を首筋目掛けて打ち込む。


ガチンと見えない刃は相手の首筋に辺り止まり、リーチが延びるスキルのだが切れ味が良くなる訳ではない事を解らされる結果になってしまった。


ましてや、刃が既にボロボロな片手剣には荷が重い様である。


心の中で、


〈ガタ郎イケる?〉


と、一応聞いてみると影の中から、


〈無理でやんすよぉ、小さいのでも首チョンパは無理でやんす!〉


との返事…


『でしょうね…』


と、解っていた結果に落ち込むが、幸い岩亀は防御力に絶対の自信が有り、甲羅にすら体を隠さないし、反撃も鈍いので攻撃を受ける心配は薄い…薄いが、こちらの攻撃手段も効果が薄い…


刃こぼれしている片手剣を、アイテムボックスにしまい、替わりに魔鉱鉄の槍を取り出して魔力を纏わせて肩口の比較的柔らかそうな関節部分に突き刺す!


見事にチクりと突き刺せたが…どうする?

ミシン目の様な切り取り線でも作るには、何発突き刺せばいいのか?…そんなのは現実的では無い…


俺はこの作戦を諦めて、アイテムボックスに槍を片付け、次は替わりに魔鉱鉄の斧を取り出して魔力を纏わせて首筋に振りおろす。


ザクっとイッったのは表面の皮のみ…

万策尽きた…


『岩石みたいなモン、近接武器で壊せるかよ!?

魔法系の冒険者は大型に向かったし…どうするよ…岩なんか…岩…』


と俺は文句を言いながらもあるアイデアを閃き、アイテムボックスに斧をしまい、替わりにゴング爺さんが気まぐれで作った魔鉱鉄のツルハシを握りしめて、甲羅の側面をブッ叩く。


魔力を纏ったツルハシが甲羅を砕き、少しずつ装甲をひっぺがしていく。


『イケるかも!』


と手応えを感じた俺の必死な採掘作業により亀の甲羅の側面に小窓が開いて中の真っ赤なお肉が見える。


俺は再びダンジョン産の魔鉱鉄の片手剣を取り出して、飛爪でリーチを伸ばした切っ先を小窓から突き刺す。


中身の防御力は高く無いようで、飛爪の効果で距離が離れるごとに半分ずつ弱くなる切っ先も、ヤツの心臓に十分届いたらしい。


吹き出す返り血を頭から浴びながら、


『良かったと』


思う安堵感と、


『二度とするか!』


という怒りが込み上げていた。


魔力不足気味でフラフラと歩く真っ赤な俺を見つけた回復担当の冒険者が、


『怪我をしている!?』


と思い必死に俺に駆け寄るのを掌を見せて止めて、クリーンの魔法を使ってから、感謝の一礼を回復担当の冒険者に送る。


マジックポーションを一本飲み干して、


「もう、返りたい…」


と呟く俺だった。


そして、多分山の上で会った先輩冒険者はこの事を知っていたから、


「えっ!?帰るの?」


みたいな反応だったんだ…と今になって理解し、


『言ってよぉ~…この街に来て初めての年だから知らないよぉ~』


とふてくされているのであった。


強制参加の岩亀レイドも終わり、現在、冒険者ギルドで亀の運搬や解体等で大忙しの中でオッサン達が酒盛りをはじめている。


俺は、お駄賃目当ての運搬をアイテムボックスを使い行っている。


中型はギリギリ無理だが小型ならかなりの量を運べる。


移動も街の近くなので、三往復程度で粗方の小型の運搬は終わった。


解体職員のおっさんが現場で解体した中型も小分けにすれば運べたし、運搬クエストだけで中々美味しい稼ぎになってくれた。


しかし、運搬のみのレイド参加は無い様なので多分これが最初で最後だろう…


『もう、あんな硬いのは懲り懲りだ…』

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