第126話 虫の勇者の帰還


え~、戦いは終わりましたが、結局ユックリなど出来る筈も無く現在帝都をパレードしております。


シシリーさんは『囚われていた魔族の姫』として、それと俺は『魔王を倒して姫を助けた虫の勇者』として、オープンカー的な馬車に乗せられて帝都の通りを練り歩いている。


沿道に並ぶ人に手を振り、


「勇者様バンザーイ!」


と言われているのが恥ずかしくて嫌だが、今後の俺の一番のお仕事は、まだ根強い魔族アレルギーのある人々に、


「魔族は怖くないよぉ~、噛まないよぉ~」


と教えて回る事だ。


少しでも魔族の側にいる姿を見せて、魔族との架け橋になる…

直ぐには無理だし、俺の世代だけでは無理だろうが…だからと言って先送りにはしたくない案件だ。


昨日アバドンのゲス魔王は刑場の露と消えた。


罪状が告げられた後に、多数の住民から、


「この魔族が!」


と石を投げられ罵倒されていたが、それは〈魔王〉に対してではなくて〈魔族〉に対しての軽蔑の態度で有った…


刑の後で、皇帝陛下が、


「魔族が悪い訳ではない!魔王が悪いのだ!!」


と国民を叱ってくれたが、国民達は頭でなくてまだ心で〈魔族〉を嫌っている事を見せつけられただけだった…


辛かったのかシシリーさんが俺の隣で俺の袖口をキュっと掴んだのが解った。


それからも、俺たちは皇帝陛下の計らいで宮殿の客室で寝起きして、たまに会議に出たりお茶会やパーティーに出席したりを繰り返しているが…


正直〈うんざり〉している。


『早く帰ってユックリしたい…』


そして、軍関係者など闘える者が皆無になった魔王国は、至宝と呼ばれる歴代魔王様が愛した武器の数々を保管、警備する事すら難しく代わりに帝都の宝物庫にて預かって貰うことになった。


これで、魔王がまた生まれても魔王様用の武器が無いので、脅威は減り安心度は上がるだろう。


これが民衆の魔族アレルギーの治療に役立てばよいのだが…と願う事しかできない。


それから、帝国会議の結果として防衛力の落ちた魔王国は、何故かヨルドの街の傘下に入った…


『いやいや、フェルド王国の傘下じゃないのかよ!』


と思ったが皇帝陛下の、


「お隣だし、妻の国になるのだろ?男なら守ってやれ」


との言葉に、少し頬を赤らめて黙るしかなかった。


そう、パーティーの中には、俺達の婚約披露パーティーも含まれており、皇帝陛下公認の婚約と俺の陞爵が発表されたのだ…


とりあえず伯爵とやらになったが皇帝陛下が、


「何かにつけて陞爵してやる。

嫁さんが女王で、おぬしが伯爵では…あれだろ?

無理やりにでも、王族と養子にして公爵にして領地を増やしてやるから公国とでも名乗ったら良い…

なんなら余の子供になるか?」


と冗談まじりに言っていたが俺は、


「これ以上領地を管理するのが面倒だし、最悪魔王国に婿入りでも構わない」


と伝えておいた。


皇帝陛下はそれでは面白く無さそうであったが、俺は何しろ家名等にサラサラ興味がないから帝国に何の未練もないのだ。


そして、2ヶ月後にようやくそんな生活から解放されたのでヨルドの街に帰ったのだが、勇者と魔族の姫のお話は、国中に広がり魔族アレルギーが少ない方々を中心にヨルドの街は観光地になっていた。


物語の聖地巡礼ツアーの為の宿屋が追加で建ち、ヨルドへの移住者も増えていた。


なのでシシリーさんと帰還したのだが、ヨルドの街でユックリするつもりが、ヨルドの街の観光の為の追加での街の拡張事案に悩まされる事になってしまった。


そして、現在は中央広場に旅芸人が来て、芝居小屋で〈虫の勇者と囚われの姫〉という演目をやっているのだが、何故か俺がデカいカブトムシに変身して魔王を倒す話しになってしまっていた…


訂正するのも馬鹿らしいし、鵜呑みにしたチビッ子の夢は壊したくないので、道端に集まってきたチビッ子の前で〈カブ太〉を召喚と同時に俺はヨルドの入り口に転移して、さも変身したかの様に振る舞う。


カブ太も馴れたモノで、チビッ子と握手をしたあとで空に舞い上がり消えていく演出をしてくれている。


まぁ、舞台で数千の虫を表現はムズいかな…


しかし、カブトムシに変身って…どっちが魔王か解らなくなりそうだな…などと思っていたら、


終いには、『虫の勇者』が一人歩きして子供向けの本には、


〈森で生まれたてカブトムシのポルタくんは…〉


みたいな書き出しで、魔王をやっつけて神様に人間にして貰う話しになっていた…


『もう、流石に止めさせるべきか?』


と、悩むが、〈優しくて美しい魔族のお姫様〉と書かれているシシリーさんは子供達から大人気だ。


この子供達が大人になって、次の世代に引き継ぐ時に魔族にプラスのイメージがつくためには、俺は、あえて『虫出身になろう!』と決心した。


影の中からガタ郎が、


〈旦那様もアッシたちの虫仲間になったでやんすね。〉


と、嬉しそうだから…諦めよう…

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