第6話 煙たい奴と言われても


俺がダンジョンの村であるザナに来てから一月以上が経った…

現在俺はここの冒険者から煙たがられている。


直接嫌われている訳ではなくて、虫除けのお香の匂いが染み付いているから物理的に煙たいらしい。


別に悪い匂いではないが独特な香りがする。


セーフティーエリアにも毎日の様に俺が居るから、残り香的な煙の香りがあり好評でも不評でも無いが冒険者達は俺の事を『燻製』と呼んでいる。


もう、いっその事本当に全身燻して体臭が虫除けのお香に成れば虫が来ないかもしれない。


茶化されるのも暫くの我慢と思っていたが装備を揃える為に繰り返しダンジョンに潜っていたら、初めて宝箱がドロップした。


大木槌というドでかい木製ハンマーだ。


デカイ宝箱が猪を倒したらドロップして喜んでいたのだが…コイツは重い…ひたすらに重い。


重みで杭などが打ち込めて大工さん等には好評かも知れないが、俺には重すぎる…

しかし、折角のドロップアイテムを使わないにしても売り払いたいというのが人情である。


重たいのを我慢しながら必死に地上まで運搬して武器屋で買い取ってもらうと、〈インパクト〉というスキルが付与された逸品だったらしく小金貨一枚と大銀貨二枚になった。


『あれ、もう少しでマジックバッグが買えるのでは?』


となり、本来であれば最下層の10階層のボスを倒して他の町に行く予定だったが追加でもう数日狩りをすることにしたのだ。


地上にいる間は新鮮な野菜を食べたいので、冒険者ギルドが運営している料理も食べれる酒場に入ると、時期的に畑をしない冬のせいか兼業冒険者の先輩方が畑も冒険もせずに昼間から飲んでいる。


「おっ、Eランク冒険者の燻製クンだ…今日も元気に燻して来たのかい?」


などと茶化されるのを俺は軽く愛想笑いで返しているのだが、すると、あの時のGを真っ二つにしてくれたベテラン兼業冒険者さんが、


「おい、坊主をからかうのはヤメてやれ!

あのジャイアントコックローチの毒反応は一咬みで全身に発疹が出て、顔から精気が感じられなくなる病気と毒の複合症状みたいだった。

コイツが咄嗟に高い万能薬を飲まなければヤバい状況をこんな坊主が味わったんだ、用心して虫除けのお香ぐらい焚いて夜営するのは普通だろ?!」


と俺を庇ってくれた。


『まぁ、娯楽の少ない田舎で珍しい行動していたら茶化されるのは仕方ないと理解しているのだが…ベテランさんは優しいな…』


と、少し嬉しく思いながら彼にペコリとお辞儀をして、この日少し気まずいのもあり俺は酒場で料理を食べるのは止めて酒場特性の野菜サンドだけを購入してソソクサと再びダンジョンに潜る。


『やはりタダの虫嫌いとは言えないよなぁ…今更…』


と、一人で後ろ暗い気持ちになりながらダンジョンの下層を目指す。


だいたい一潜り5日程度…

必要な食い物やアイテムを差し引いても一回で大銀貨六枚程度手に入る。


片手剣と丸盾、鉄の帽子に鉄の胸当てに革の籠手と鉄のすね当て…

潜る度に、稼ぐ度に少しずつ買いそろえて何とか格好がついてきた冒険者だが全部が中古品なのがいかにも俺らしい。


あとマジックバッグが買えれば、このザナでの目的はダンジョンボスの討伐のみだ。


別に倒してからマジックバッグでも良いかな…


中間のセーフティーエリアも過ぎてロックスライムのゴロタ場をガード体制のまま小走りで急いで次の階層に進む…

7階層は森のエリアで、〈グリーンスライム〉という触手が武器の緑のスライムだが何故かドロップが魔石と毒消しポーションである。

そしてこの階層では〈走りキノコ〉という走り回るキノコがいるのだが、すばしっこくてこれがなかなか倒せないしそもそもあまり出て来ない。


経験値が良いのか、はたまたレアドロップアイテム狙いなのか…何かしらの旨味があるようで、大概この初級ダンジョンで潜り続けているベテランはヤツを探し回っている様である。


続く8階層も森だが生えている木が違う。


ドングリ等の森に、〈アタックボア〉という猪魔物がメインでうろついている。


ここにも走りキノコは出るらしいが、そんなキノコなど探しどころではない…

なにしろ猪の体当たりを警戒しなければならないからである。


もしも、猪に遭遇した場合運良く背後が取れたのなら、こちらから攻撃しないと次の瞬間には奴から体当たりを仕掛けられる可能性が高くなる。


ヤられる前に殺らなければ怪我をするエリアだが慣れた様子の普段は農家の兼業ベテラン冒険者達はここでもキノコ狩りに挑んでいる。


『よっぽどあの走りキノコとやらは何かしらの旨味があるのだろう…』


と、必死に探しまわる先輩を眺めながら改めて思うが、俺としてはそれどころでは無いので猪だけに集中している。


ここでの猪のノーマルドロップはキバや毛皮だが正直毛皮はかさばるから牙が有難い。


毛皮はロープで丸めて背中に背負うのだが五枚も背負えば移動が遅くなる。


安い防寒着の材料で捨てて行く冒険者もいるくらいなハズレアイテムである。


レアドロップが肉でありこれも『当たり』か?と言われると出た場合は地上に腐る前に戻る手間が増えるので帰り道ならそのまま売る為に回収するが、ダンジョンに潜ってすぐならば自分で焼いて食べたりする以外には地上までの移動の事を考えて回収を躊躇する場合がある。


そして、この猪の激レアドロップが大木槌か、力が少し上がる〈猪の腕輪〉らしい。


武器屋のおやじが、


「腕輪なら小金貨三枚だったのに…」


と言っていたから腕輪狙いでダメで元々で猪を狩ろうかと悩んだが毛皮で身動きが取れなくなる未来しか見えないし、前回手に入れた大木槌か出たのもかなり幸運だったらしいので今回俺は普通に通過する為に数頭狩っただけで次の階層を目指す。


そして俺は現在ボス部屋前のセーフティーエリアを拠点にしている。


つまり10階層に寝泊まりしているのだ。


この初級ダンジョンでも案外そのような冒険者は多く、部屋のボスを倒したらリポップに6時間ほど掛かるのでボスの順番待ちに四組も待機していたらボス部屋前で1日以上待たなければ自分の順番は回って来ない計算になる。


まぁ、俺はボスの順番待ちはせずにここで寝泊まりしては9階層の遺跡エリアで狩りをしている。


なんと、この遺跡エリアではランダムで宝箱が配置されるらしく、上のアイテムショップに有ったマジックバッグも9階層産の物らしい。


そして、9階層のメイン魔物が、〈ファイアスライム〉という、炎属性攻撃をする赤いスライムで魔石もちょっと大きくて炎の属性まで付いている為に冒険者に重宝されている魔石コンロや魔導点火道具というライター代わりの小さな杖に使われ一般のご家庭でも生活に欠かせない為に、他のスライムの魔石よりもほんの少し高値で取引されるので稼ぎたい俺にはもってこいの獲物だ。


それにここは最下層近くであり、しかも動くモノに襲いかかるスライムさんの中でも、索敵能力に長けたグリーンスライムさんと、スピードと攻撃力に長けたファイアスライムさんにかかれば、外部から侵入してきたGなど生きてはいけないはずだ!


このダンジョンの中でも一番手強いファイアスライムの住み処だが、俺としてはある意味一番安全な場所かもしれない…

そして、そのファイアスライムでさえも俺は獲物と出来る程には強くなったのだ!!


『ファイアスライムを二~三日狩ったらボスに挑むか?…大丈夫だろう…うん、そうしよう』


と、軽い脳内会議の後で、


「ヨシ!」


と気合いを入れ直す俺だった。

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