第3話 聞いてないよぉ


馬車に揺られること3日ようやく初級ダンジョンの町…いや、村だな…に到着した。


しかし、よく揺れる荷馬車の荷台に無理やりくくりつけたベンチの様な座席では腰のダメージたけでもポーションを飲みたくなる勢いだ。


『まぁ、そんな贅沢は絶対しないが…』


素泊まりの宿屋に、数件の露店が並ぶ小さいながらも活気のある〈ザナ〉の村に入り、俺は真っ直ぐにダンジョンに向かう。


ダンジョンの入り口の冒険者ギルドの窓口で登録を済ませてからダンジョンに入ろうてするのだが、この手続きは、誰がダンジョンで死んだか解る様にする〈マーキング〉という手続きである。


マーキングを終えた俺はダンジョンへの門をくぐり人生初となる異世界の様な空間に足を踏み入れる…


と言っても、既にここが異世界でありダンジョンの一階層は普通の洞窟で単純な迷路だった。


事前に調べた情報では、一階層の敵は例のわらび餅君と外からたまに入ってくるらしいので、俺は急いで二階層に向かう事にした。


この初級ダンジョンは全10階層で構成されている。


冒険者ギルドの資料室で見た情報だけだが5階層までは、


〈スライム〉

〈アシッドスライム〉

〈ポイズンスライム〉

〈牙ネズミ〉

〈角ウサギ〉


と、後は希に三種類のスライムの中型個体が出るらしい。


『出来ればまだ中型個体には出会たくない…』


そして、ダンジョンには〈セーフティーエリア〉という魔物が湧かないし侵入したがらない安全地帯がある。


大概ダンジョンは10階層一区切りで、5階層から6階層の間に小さめのセーフティーエリアと、ボス部屋前などにはキャンプも出来る大きめのセーフティーエリアがあるらしい。


この初級ダンジョンは10階層までなのでボスを倒せば転移陣とやらで地上に戻れる仕組みのようだ。


見たことないからよく分からないが、階層が多いダンジョンでは、中間の階層ボスを倒すとメダルが貰えて、そのメダルを使えばダンジョンの地上にある転移陣から、メダルを獲得した階層の転移陣まで行けるシステムらしいのだが、


全部で10階層のこのダンジョンては使えないシステムらしい…なので、最下級のダンジョンでボス周回する奴はほとんど居ない…


たまに、兼業冒険者が農作業の少ない冬場に稼ぎに入り、一日に2度3度ボスを倒す場合くらいらしいが、


『俺は違う!』


虫が居ない世界を目指してセーフティーエリアを挟んだ6階層から下の方に行きたいのだ。


セーフティーエリアを挟めば、外からの虫魔物も激減するはず。


『俺の理想郷は地下にあり!』


と、意気込み出会ったスライム達をバッタバッタと凪払い、外の世界と違い魔石や希に素材を残してパシュンと煙の様に消える討伐魔物は解体の手間もなく楽チンである。


ネズミやウサギの魔物も恐れていた程ではない。


ノリノリで進んでいくが4階層辺りで、


『あれ?おかしい…中古とはいえ新調した片手剣の切れ味があからさまに悪くなっている…』


と異変に気がつき恐る恐る片手剣の刃を指でなぞるとザリザリしている。


『まじか!…砥石がいるタイプの世界か…聞いてないよぉ~…』


と、頭を抱えるが、まぁ、考えて見れば当たり前の事…前世でもキッチンの包丁はたまに研ぐ。

アシッドスライムの酸で脆く成ってしまったのもあるだろうか?…

ゲームの様に、『買いっぱなしで壊れない』とは行かないらしい…

ヤバい、一旦戻らなければ丸腰でボス戦はあり得ない。


まだ、保存食があるし武器を新調したからと調子に乗ったのがダメだった…

と、俺はなまくら片手剣を握りしめてダッシュで来た道を引き返す。


3階層の草原を上り階段目指して駆け抜けて、二階層の広い洞窟から一階層の狭い迷路洞窟と焦りながら地上を目指す俺を見て兼業冒険者風のオッサン冒険者が、


「坊主、急いでどうした?

糞ならその辺でしておけよ…しばらくしたらダンジョンが消してくれるから」


と心配してくれた。


しかし、俺はお腹がゆるくてトイレを目指しているのではない!


そして、『ウンコ消えるんだ…』と勉強になった俺はオッサンに、


「武器が切れなくなたので出直すだけです。

ありがとーございまーす。」


と速度を緩めずに走り去り地上へと帰還した。


ソッコーで素材と魔石を売ると小銀貨6枚程度になった。


大体の目安として、


小銅貨 = 十円程度


大銅貨 = 百円程度


小銀貨 = 千円程度


大銀貨 = 一万円程度


十万円の小金貨や百万円の大金貨は見ないまま終わるかもしれない…


しかし、命を削って潜った日当が六千円…微妙だ。


片手剣は砥石が有ればまた切れる様になるが、どんどん細くなりやがて使い物にならなくなる。


アシッドスライムは武器の天敵だな…相手に応じて武器を代える必要がありそうだぞ…

と思いつつも素泊まり宿は体拭きのお湯も合わせて小銀貨二枚、残ったお金で砥石とこん棒と食糧を購入して、1泊して次の日を待った。


継ぎこそは、6階層手前のセーフティーエリアを拠点に強くなる予定だ。


なんかの間違いでダンジョンの宝箱がドロップして運良くスキルが手に入れば一気に生活が安定する。


こんな呪われた様なスキルでは無くて使えるスキルとやらに早く出会いたいものだ。


虫など一撃で燃やせる魔法とは言わないが、せめて中型魔物と渡り合える様にならなければ冒険者としてお話にならない。


ボスは後回しにしたとしても、少し貯金して装備を整えるのを目標に頑張るゾイ!

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