第2話 一筋の光


正直、詰んでいる気がする毎日を送っている。


虫が居ない地域は無いのだろうか?…

虫さえ居なければ、駆け出し冒険者として何とか生活出来る筈だ。


魔物を倒して、少しずつ強くなり装備を整えてダンジョンなんかに潜って、武器や防具にスキルスクロールなんかを手に入れる事が出来るのに…


と、現実逃避気味に薬草を探している自分の空想に、


『ん?…ダンジョン??』


と、手を止めてじっくりと考えてみる。


初級ダンジョンは、全て出てくる魔物が調査済みだから、虫の居ないダンジョンを目指して、スライムや牙ねずみなどの魔物を獲物にすれば、レベルアップも冒険者のランクアップも目指せるのでは?…


と、閃いた俺は薬草採集を止めて冒険者ギルドの二階には資料室があるので虫の居ないダンジョンを調べる為にギルドへと急いだ。


しかし、資料室で初級ダンジョンを調べたのだが、この周辺には無くて一番近くでも一週間程歩いた小さな村に、スライムだらけのダンジョンがあるのだが、Fランク冒険者以上でないと入れないらしい。


ちなみに今の俺は、Gランクであり、これは登録したら割り振られる通称ごみ屑のクラスである。


普通であれば薬草の納品でもFランクに上がれるが、俺のこのペースなら確実に冬になってしまいタイムアップと同時に人生も凍死エンドを向かえる計算になる。


凍え死ぬ前に素泊まり宿を拠点に出来るくらいに、毎日稼げる様にならねば…と、目標は出来たが、しかし、状況は何一つ変わっていない…呪われたスキルにじゃまされて薬草採取ではじり貧 が続くだけなのだ。


かといって、ダメもとでそのダンジョンの村まで一週間の旅が出来る装備も非常食も俺にはなにもない…


お先真っ暗でトボトボと冒険者ギルドの二階から降りてくると一階のカウンターで、


「町の西でスライムが大量発生しました。

我こそはと思う冒険者の方、手続き不要なので向かって下さい。

スライムの魔石や素材を一割増しで買い取りますのでどうか宜しくおねがいします」


と、受付の職員さんが叫んでいるが先輩冒険者達はピクリとも動かない…

中には、


「2~3日放置して、スライムイーターが出てから狩に行くか?」


と冒険者同士で話している始末…


確かにスライムは十匹倒して、やっと屋台で買い食い出来る程度で、かたやスライムイーターという植物系の魔物は、薬の素材にもなりしっかりとした魔石も手に入る。


一匹倒せば余裕で宿屋に泊まれるぐらいらしい…


しかし、ヒノキの棒しか装備していない今の俺には倒せない。


でも、現在大量発生中のスライムならば、ヒノキの棒でも何とかなる…筈…


過去に数匹しか倒した事がないので断言は出来ないが、スライムは核さえ壊せれば石をぶつけても倒せる相手だ…


『殺るしかない!このチャンスをモノにするんだ!!』


と俺は自分を奮い立たせてその足で、町の西側の池に向かった。


スライムは水辺を好むので池の側が目的地なのだが、すでに手前の草原でスライムを見かける程だ。


しかし、草原は虫達のお庭…


バラけたスライムを撃破しやすいが奴らによる邪魔も予想される。


俺は腹をくくり、プルプル、ヌルヌル地獄となっている池のほとりを目指して突き進んだ。


草原から進むことしばらく、


ソコには集合体恐怖症は近づけないほどのスライムがひしめいていた。


「わらび餅のパックかよ…」


と、誰に向けてか解らないが思わずツッコむ俺は、プルプルが敷き詰められた地面を足元から奴から順番にヒノキ棒で叩いたり、突き刺したりしながら討伐を開始した。


ハッと気がつけば進んで来た道もプルプルに塞がれて俺の退路を断たれている。


単細胞みたいな見た目だが案外いやらしい作戦を思い付くようで、俺がぶっ倒れるまでスライムの奴らは物量で取り囲んでじわじわと疲れさせて俺を倒す予定らしい。


たまに背後から食らうスライムアタックにのけ反りながらも、俺は目の前のスライムを一匹、また一匹と倒していく…


そして、有難い事にスライムがミッチリなので、虫がカサカサと歩いて来ない!


『これは千載一遇のチャンスだ!』


と、俺はヒノキの棒を振り続け、徐々に疲労を少し感じるがそれ以上に生まれて初めての『敵を倒してレベルが上がる実感…』というものに震えていた。


倒せば、倒すほどに体が軽く動きだす。


もう、アドレナリンびしゃびしゃ状態でヒノキ棒を振り回す。


昼過ぎから始めたスライム討伐だが月の光に照らされながら今も続いている。


だが、俺は夜の闇のなかでスライムと戦っても大丈夫なくらい、『スライム討伐』から『スライム叩き』ぐらいの感覚になるほどに俺は強くなれたようだ…

しかし、普通の冒険者から見ればまだまだだが少なくとも今朝の最下層の状態では無いと自分の実感として感じられ、


『この俺に差し込んだ一筋の光を掴み取らなければ、俺の人生が終了を迎える…』


と直感した俺は腹ペコでクタクタだが、終盤は草むらの草を掻き分ける様にヒノキの棒を振り回せば、一匹二匹のスライムが倒せるまでになっていた。


そして、東の空が明るくなり始めた頃には俺の周辺のわらび餅は全て売り切れた様に空になっていた。


流石にアホそうなスライムでも、俺の周辺はヤバいと理解して遠巻きに様子を伺っている。


そこで俺は辺りに散らばる屑魔石を初めて拾い集める。


接着剤などの原料のスライムゼリーはとても持てない量なので諦めたが、魔石だけでもろくに物が入っていなかった鞄がふっくらして、ザリザリと音が鳴る程の状態になった。


ボロボロのフラフラで町にもどり、冒険者ギルドの買い取りカウンターでスライムの魔石を提出して、職員さんが確認をしている間にどうやら俺は寝てしまったようだ…


「おい小僧そろそろ起きないと、酔った冒険者に、いやらしいイタズラされるぞ」


と言われて飛び起きる俺…


ギルド職員のお姉さんが、


「ギルマス、可哀想でしょ!?スライムに取り囲まれて夜通し戦ったらしいですからゆっくり寝かせてあげて下さい」


と俺を起こしたオッサンに注意している。


オッサンは


「だって、俺のソファーで寝てるんだぜ俺はどこでくつろげば良いの?」


と抗議をするがお姉さんは、


「ギルマスは、デスクで書類を確認してください…

どれだけ溜め込んで居るんですか?」


と呆れた様に怒るので、オッサンは渋々デスクに向かう。


俺はソファーから立ち上がり辺りをグルリと見回して、


『えっ、ギルドの中で爆睡した!?』


と気がつき慌てて、


「ご迷惑をおかけしました」


と一礼して逃げ出そうとする。


職員のお姉さんが、


「ポルタ君はチョイ待ち!買い取りの精算もランクアップの手続きも未だだから!!」


と呼び止められ、


その日俺はFランクに上がりこの人生での最高額の報酬を受け取ったのだった。


一晩戦い続けてケバケバになったヒノキの棒をまともな装備に変えても、素泊まりの宿屋に何日も泊まれるほどの俺にとっては大金を手に装備を整えて、食糧を買いなんと余ったお金でスライムダンジョンの町までの馬車に乗れてしまった…


『勝てる!勝てるかもしれない…』


やっと、動き始めた俺の冒険者人生に俺は微笑みをこぼしながら馬車に揺られているのだった。

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