仲間になりたそうに見ないで下さい。

第1話 厳しい世界

「はいよ。」

と、やっと 見つけた薬草の買い取りで、小銭を手に入れたのだか、これでは飯を食ったら無くなる金額しかない。

でも、仕方がない…そもそも、お手頃なポーションの原材料を２本分程度集めて、パンと干し肉一枚が買えるだけでも上出来だ。

親の顔もしらない俺〈ポルタ〉は孤児である。

別に珍しくもない孤児院出身の十歳は、冒険者に成れる歳になり孤児院を卒業することになった。

…それと、俺には前世の記憶がある…完璧では無いが、住んでいた町や、仲間との会話、大好きな漫画に好物の白ご飯…

記憶が有る分、ここでの生活がキツイ。

そして、前世から徹底した〈虫嫌い〉なのだが、

教会で発表された俺のスキルは、〈インセクトテイマー〉という、虫を従える能力と、

〈虫の王〉という、虫から好かれる能力…

多分、俺は前世で〈とんでもない大罪〉を犯したのだろう。

で、なければ、こんな嫌がらせの様な能力を授かる訳がない…

虫を見ただけで蕁麻疹が出るのに、奴らの方から集まってくる。

冒険者の基本中の基本、〈薬草類の採取〉ですら、草むらから現れる〈虫〉に阻まれる…

しかも、異世界の虫は、タダの〈虫〉ではない、

〈虫型魔物〉だ。

デカイしグロい…動きも早いし、良いとこ無しだ。

そして、奴らは勝手に集まって来る。

普通なら薬草だけでも食べて行けるらしいが、

それすら俺には厳しい…

いくら嫌いな虫でも、敵意なく集まり、

〈兄貴！仲間にして。〉みたいに訴えかけるバッタやダンゴムシを殺す訳にもいかない、

唯一の武器、ヒノキの棒で突っついて追い返すのが関の山…

〈薬草を探す〉〈虫に見つかる〉〈追い返す〉〈採取〉

と手間だけ増えて効率的ではないし、

倒してないから経験値もない…

金も無いから武器も手に入らないし、

使えるスキルすらない。

個性ゼロならまだしも、虫に悩まされる分マイナスである。

丸腰のスッピン冒険者は効率の悪い薬草採取しか出来ない。

日当が少し良い〈草刈り〉クエストも虫の遭遇で効率が悪いし、〈ノルマ〉がある分厄介だ。

目標以下なら少ない報酬でも容赦なく削られてしまう。

どうも、今夜もパンをかじり干し肉と広場の水で晩御飯を済ませて、広場の隅で丸くなって眠るしかない。

出口の見えない、〈底辺その日暮らし〉から抜け出す手段など見つける事も出来ずに、硬い地面の敷き布団に保温効果ゼロの夜風の掛け布団で眠る…

あと数ヶ月でやってくる冬までには何とかしなければ、余裕で凍死する自信がある。

翌朝、早くから目が覚めて活動する…

目が覚めるというか、グッスリ休める筈がない。

前世の様に、段ボールや、ビニールシートがそこら辺に有ればもう少し快適なのだろうが…

…段ボールハウスが快適って、末期症状だな…

昨晩わざと残したパンを味がしなくなるまで噛みしめ、

薬草採取に出かける為に町の門から草原に向かう。

お気づきだろうが、昼飯などない。

幸先よく岩の影に生えていた薬草と、その岩影在住のダンゴムシが俺にすり寄ってくる。

俺は、痒くなる首回りを気にしながら、

〈ハイハイ、帰って！〉

と棒で突っついくが、

〈そこを何とか、兄貴、お願いしますよ。〉

みたいに近づくダンゴムシに諦めて貰う作業が続く。

ダルいが、この分で行くと今夜も昨晩の再放送みたいな夜になりそうだ…