第123話 ヨルド軍〈北へ!〉


春の足音が聞こえる様な麗らかな日に、馬車に乗り込んだ騎士団と兵士団が北の戦地を目指して旅立つ…


街の警備は、緊急事態には頼りになる夢の狩人・鋼の肉体・暁の魔導書の先輩冒険者達が、


「指命依頼でやってやる!」


と申し出てくれた。


数日中にはフェルドナから騎士団も到着し、来月には到着する予定の帝国軍もいるので、街で暴れるアホもいないだろう。


ヨルド軍は、俺の他は騎士団二十名に兵士団三十名に弓を手にした鬼娘〈ルル〉に御者としてオーガの〈ドテ〉と、兵士団の武術師範としてパパチンの〈ドド〉さんのみだが、


城蟻のアリス軍団約三千と将軍ムカデのタンバ率いるヨルドの地下の非正規従魔軍約三千余り…

と、もうほぼ虫の大群である。


アリス達の速度に合わせる為に馬車での進軍だが、

あれだけ恐ろしかった虫の群れが少し頼もしく感じる…俺も成長しているのかもしれない…


そんか事を考えながらも来る日も来る日も、ヨルド軍は北へ北へと進んで行く。


そしてまだ寒い北の大地を突き進むこと一ヶ月…

ようやく魔王城が見える丘の裏に陣取りアリス達が総出で丘の地下に大空間を掘り固め、


一夜城とはいかなかったが、3日で丘を改造し〈秘密の砦〉を完成させ、塹壕や落とし穴も丘の前方に配置してくれた。


掘り出した土を固めた壁を夜のうちに築き相手の出方を見る。


朝になり、流石に壁が建った事に気づいた魔王軍が城から出てきた。


…偵察部隊であろう数十人の魔族達はデカイのや、小さいの、馬に乗ったのや顔だけ馬のヤツとバリエーション豊富なヤツらだが魔王城から良く見える位置で、第二ワイバーン騎士団による上空からの岩のシャワーですり潰し敵にプレッシャーをかける。


するとワラワラと、武器を持ち陣を整え始める魔王軍は〈拡声〉の魔法で、


「魔の森の軍勢か!?

こちらには人質もいる…宰相の敵討ちなら諦めて、さっさと森へ帰り我らが食糧を作っておけ!!」


と叫ぶ…


ヨルド軍、騎士団長アベルさんも拡声魔法で、


「馬鹿か、我ら帝国軍だ。

人質など無意味、大人しく武器を捨てて投降するなら命だけは取らないでやる!!」


と返す。


約500の敵軍を城の外にあぶり出したのを確認した時点で、隠密騎士団とタンバと闇の一族達約千匹に指示を出し魔王城に潜入し人質の解放に向かわせる。


すると魔王軍から、


「帝国は我らと交わした平和協定を反故にするのか?それが、帝国のやり方か!」


と騒ぐ、しかしアベル団長は、


「馬鹿も休み休みにしろ、

協定はルキフグス宰相閣下と結ばれた約束である魔王陛下とも、ましてやお前達のようなテロリストと交わした覚えはさらさらない!!」


と言い返す。


すると、一人一人が強い魔族の軍勢500は50程のヨルド軍を侮り進軍してくる。


魔法騎士団に合図を出して目隠し用の〈アースウォール〉を展開し、平原に土壁の森をつくり退避させ、隠し砦からの長距離攻撃の用意をしてもらう。


第二ワイバーン騎士団がアイテムボックスに岩などを充填させて戻ると、第一ワイバーン騎士団と合流し、空を飛ぶ敵兵と、後方で長距離攻撃を狙うヤツらに〈岩〉の雨を降らせるように準備する。


ワイバーン騎士団が飛び立ち丘の上には俺と兵士団三十名…


ますます舐めきった魔王軍が、勝利を確信し、


「「うぉぉぉぉ!」」


と雄叫びを上げて突っ込んでくる…


土壁の森をくぐり抜けるが、突撃しか知らないアホ軍師しかいない様で魔王軍は、土壁の森の向こうで自軍の兵士が次々と穴に落ちたり、塹壕から現れた虫の軍勢に切り裂かれ、噛み千切られていることを知らないままだ。


しかし、アホ軍師と言えども居ないよりはマシだが、既に後方でワイバーン騎士団の餌食になりミンチにでもなった様子で、右往左往する魔族達は丘に誰一人たどり着けないまま、屍や捕虜になった。


丘の上に陣を構えた俺達よりも自分達には城があると侮っていたのだろうし戦力も完全に見誤っていたのだろうが、あっけないと言えばあっけない…


しかし、次の瞬間


ドン!という破壊音がして、魔王城から黒い靄が立ち上る…

そして、崩れる魔王城から同じく黒い波がこちらに向かってくる…


俺は、


ガタ郎を偵察に出してマサヒロとミヤ子を召喚してから、マサヒロとドッキングして、


「あの黒いのに向かって飛ぶよ!」


と指示をだして空に舞い上がる…


土壁の森を飛び越え岩が散乱する戦場も過ぎた時に、


〈ヤバイでやんす!人質を助けだしたけど、イナゴの群れに追われているでやんす〉


とガタ郎が報告してくれた。


地面でうねる黒い波は、闇の一族と、それに担がれた人質のメイドやシシリーさんと隠密騎士団だが、


手足の無い隠密騎士団が居る!!


そしてゆっくりと余裕の雰囲気でこちらに飛んでくるイナゴの群れの先頭には、馬に乗ったあの青白い顔のオッサンがいた。


『アイツらに襲われたのか…』


と理解した俺は怖さも忘れてカサカサと走る闇の一族に担がれたメイドやシシリーさんはに目をこらして確認するとどうやら彼女達は無傷のようだ…


『騎士団もタンバも闇の一族も良くやった!』


と心の中で労い、


『あとは任せろ!!』


と、俺は顔色の悪いオッサンとの戦いに向かう。


奴の周りのイナゴの大群に対抗するかの様に、俺の後ろにも数千の虫が付き従う。


既に、普通の戦争の風景で無くなった戦場に俺の背後まで逃げ切ったシシリーさんが、


「ポルタさまぁぁぁぁぁ…」


と泣きそうな声で俺の名を呼ぶ…


色んな意味が混じった切ない声を聞き俺は、


「我が姫を守り闘え!!」


と虫達に指示を出して決戦に向かった。

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