第124話 イナゴとゲス野郎


イナゴの軍勢と、多種多様な虫の軍勢がにらみ合うなかで青白い顔のオッサンは余裕の表情で、


「これはこれは、特使殿…魔の森の奴らとだけ仲良くしておけば、わざわざ殺されに来る事もなかったのに…」


と馬上で杖を構えて俺を睨んでいる。


俺は、


「シシリー嬢とデートの約束をしていましたが、なかなか戻られないので迎えに参上した次第です」


と軽くあしらいながらイナゴに集中するが、イナゴ達はナニかを話しているが何を言っているのか解らない…まるでダンジョンの虫魔物の様な気配がする。


ガタ郎も


〈アイツら話しが通じないでやんす〉


と言っている。


一瞬『相手が虫ならば何とかなるか?』と思ったが…『こちらに引き込めないならどうする?』と並列思考で考えを巡らせながら俺は戦の前の舌戦にのぞんでいる。


顔色の悪いオッサンは、


「我が名は、ダーム。

ダーム・ファン・アバドン…偉大なる魔王アバドンの末裔にして、魔王城の宝物庫の至宝(アバドンの杖)に認められた者であり、真に魔族を導く正統な魔王だ!」


と叫んでいる。


俺は、


「魔王さんでしたか…

てっきり人質とって無理やりシシリーさんに求婚した、オツムの痛い奴かと思っていました」


と煽ると、奴は怒る訳でもなくむしろ勝ち誇ったように、


「クーックククッ。

魔王に、覚醒しただけの運のいい女だがあの女には利用価値があったから優しくしてやったが、お前に一目惚れをして国を出ようとしていたからな…」


と顎に手を当てて目を瞑るオッサンに、俺は、


「だから、人質とって監禁か?余り良い趣味とは言えないなぁ…」


と更に煽るが、奴は余裕な態度は崩さずに、更に目尻をイヤらしく下げたオッサンはゲスい表情で、


「あぁ、閉じ込めておくのも面倒になったので、奪ってヤったのだよ…

魔王の力の一部をな…知ってるかな?魔王の寵愛を受けた者は、己の祖たる者の力をより強く呼び覚ます…

まぁ、簡単いうと、つまり俺様が魔王陛下を女にして差し上げたのさ!

人質をちらつかせたら簡単に体を差し出したぜぇ…

おかげで〈アバドンの杖〉を使い魔界のイナゴを呼び寄せ使役出来る様になったのだ!!」


と、高笑いするゲスに、怒りを越えた憎悪しか起こらなかった…


「………もう喋るな………」


オッサンは、ゲスな笑みをこちらに向けて俺に、


「どうした?何か言ったか?!惚れた女が他のヤツにヤられて怒ったか?残念だったな!あの女はベッ…」


と、何かを喋りかけたオッサンに俺は、並列思考で複数回、集束をかけて圧縮したファイアランスを放つ…

圧縮され速度が上がった炎の槍は、真っ赤な弾丸になって奴の眉間に飛んでゆく…


しかし、魔法はヤツの手前で掻き消えた。


顔色の悪いオッサンは更に満面の笑顔になり、


「やれやれ、戦場で煽られて手を出すとは恥ずかしいヤツだ、使い捨ての秘宝とは言え魔法完全防御の腕輪が役に立ちましたね…

さて、完全に覚醒した魔王ならば一度で万のイナゴの軍勢を出したそうですが…残念ながら私は半分の五千程ですが、まぁ、十分でしょう…

イナゴ達よあの若造を食い殺せ!」


とオッサンは杖を振る。


すると空中に待機していた黒い塊が一斉に動き出した。


俺は、並列思考で戦いながら、


『タンバ、自軍の虫全てを指揮下に置いて、イナゴを着実に倒せ!

一人一匹目安で倒せば数は有利だ!!

ミヤ子初手は任せた、俺をターゲットにしているイナゴごと粉を撒け!!

大丈夫だ俺には即死無効と毒無効がある!』


と指示を出して戦場の真ん中に俺は降り立ちマサヒロを送喚してイナゴの群れの前に一人立ち、盾と雷鳴剣を構える。


龍鱗魔銀装備に魔力を流し、防御力を一時的に上げ、飛爪を使いイナゴを薙ぎ払い、襲い来る第一陣を叩き落とすが、しかしすぐに数に勝るイナゴの群れが俺の周囲を包み込む。


だが、その時上空からキラキラと舞い落ちる粒子が体に触れる度に紫色の煙を上げて、一匹、また一匹とイナゴが墜落していく…


鱗粉を撒き終えたミヤ子が丘を目指して退避するのを確認して、辺りに目をやると、戦場には、数百というイナゴが地面に落ちて、紫色の煙を上げている…


俺は、自身に念のためのクリーンとクリアをかけながら、


「こっちも行くぞ!タンバ」


と声をかけて粉から逃れたイナゴ狩りを開始した。


クマ五郎とクマ美にマサヒロ、セミ千代にコブンを戦いながら召喚し、


「クマ五郎はタンバの補佐!クマ美はフルアーマークマ美になって撹乱攻撃!」


と指示をだす。


イナゴの魔物はデカイが、噛みつきさえ注意すれば魔法も放たないし、毒なども無いただデカイのだけのバッタである。


しかし、既に全員で千匹は倒しているがまだまだ佃煮にする程いる…


倒しても倒しても数は減らない様に見えて心が折れそうになる…

そんな弱気な俺に一匹のイナゴが背中に張り付き、俺を噛ろうとする…すると、


『背中はアッシに任せるでやんすぅぅぅ!』


と一番古い相棒が俺の背中を守ってくれる。


なんとも、心強い…仲間の存在を再確認した俺は、気持ちを立て直し、冷静に戦いはじめた俺の中に、もう一人烈火の如く怒りつつ、またシシリーさんの気持ちを思い涙を流す俺がいた。


暴れる感情を、並列思考で何とか保っている状態だ…、


何とも云えない感情のジェットコースターの中で俺は雷鳴剣を振りイナゴを倒していくのだった。

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