第12話 ある日森の中


やっと人並みにスキルのある冒険者にな俺だが、早速次なる問題にぶち当たる。


それは『微妙に冬場は依頼が少ない問題』だ。


雪ウサギの様に冬に荒ぶるヤツの方が稀で、獲物が居ない冬場は、普通の冒険者はダンジョンで稼ぐらしい。


あとは、普通の狩りの獲物として森などには冬眠しない跳ね鹿や森狼とスライム系の敵ぐらいしか周辺に居ない。


小型の鳥魔物はチラホラ飛んでいるが、あんなのは羽根の素材を布団に使うぐらいで、あまり高値で売れずに肉も晩飯のおかずになるかどうかぐらいだ。


諦めた先輩冒険者達は朝から雪ウサギの臨時ボーナスで酒を飲んでいて、彼らはあの感じで酒場で春を待つらしい。


無くなれば最悪ダンジョンに行けばいいらしいし…


しかし、俺は財布を潤す為とポイントを稼ぐ為に、今日も雪の降り積もる森に鹿や狼を狙って、ボウガンを片手にうろついているのだ。


少ないとは言え獲物はいる…

森の木の皮を噛って飢えを凌ぐ鹿や、その鹿を狙う狼…寒さに耐性のあるブルースライムはあまり買い取り額が高くないらしいからパスして、雪に残る足跡を探し歩いている。


昼過ぎにようやく跳ね鹿という、この雪でもお構い無しで、ピョンピョンと跳ねて雪の森を駆け回る鹿の群れを見つける。


警戒心の塊の鹿を狩る為に、俺は木影に隠れてボウガンを構えたまま待ち伏せをしている。


こちらに来る保証は無いし、帰ってしまう事もあり得るが、忍び寄る系のスキルの無い俺の取れる手段は待ち伏せくらいしかない…

じっとして待っていると俺の上にも雪が積もりはじめる。


『寒い…』


しかし、クシャミは勿論、今は動く訳にはいかないのだ。


そんな俺の我慢も知らずに、鹿達に襲いかかり明後日の方向に散らす馬鹿が現れた。


…はぐれの森狼だ。


はぐれと言っても、ドロドロでも、経験値が多い訳でもなく、ただ単に群から離れて生活するボッチなだけの爪弾き者である。


俺の獲物を散らした罰として、替わりに奴が獲物になって貰う事に決定した。


鹿よりも警戒心が薄い様でボウガンの射程に入っても、奴は森の奥に逃げた鹿のうちどのルートを辿るか足跡の匂いをクンカクンカと雪に残る跳ね鹿の足のオイニーを嗅いでいる足フェチ狼目掛けてボウガンの引き金を引く。


ヒュッっと静かに飛び出した矢は狼を見事にとらえてギャンっと一鳴きさせる。


そして、森狼は暫く暴れた後に静かになり動かなくなった…

予定は狂ったが、何とか獲物を得る事が出来たのでクレストの街に引き返す…



こんなペースだが、じわじわとポイントを加算していく俺に買い取りカウンターのギルド職員さんが、


「もう少しで、Dランクに上がれそうですよ頑張ってくださいね。」


と声をかけてくれた。


『もう少しかぁ~』


と、やる気になっていたある日…事件は起こった。


その日、俺は鹿が見当たらないくてかなり森の奥まで来てしまっていた。


もう諦めて帰ろうとした時に、獲物を探していた俺自身が獲物になっていた事に気がつく。


…熊だ…灰色の熊に背後をとられていた。


『くそ、盾はリュックだよ…肩掛け鞄型のマジックバッグにしておけばゴソゴソ装備を変えれたのに、普通の肩掛け鞄が有るからとリュックにしたのが今頃響いてくるとは…』


と、思うが、しかし今さら悔やんでも仕方ない、


ボウガンでは致命傷は無理そうだが、目でも射抜ければ逃げる時間を稼げるかもしれない。


ジリジリ近づく熊に狙いを定めてボウガンを放つと、奴の肩口に命中した。


「がるぅおぉぉ!」


と短い叫びを上げたが肩口の矢をかきむしる様にして引き抜く…

やはり浅かったようだ…

ボウガンの二発目の装填も許されぬまま、熊が走って来る。


咄嗟に剣を引き抜構える俺だが、ボウガンはどうする事も叶わず左手に持ったままだ。


熊は近接戦闘の間合いに入ったとたんに立ち上がり、矢が刺さった方の手で襲って来たところを見ると、マジでボウガンは効いてないらしい…


俺はボウガンの本体を盾代わりにして一瞬の隙を作る…


ボウガンはバラバラに粉砕されたがヤツの脇腹に、豪腕と身体強化のスキルの乗った片手剣の一撃を入れる事が出来た…のだが、俺をここまで助けてくれた中古の片手剣ともここで別れる事となってしまったのだった。


そう、相棒は根元近くからポッキリと折れてしまったのだ…


もう、俺に残された武器は、知恵と勇気と解体用のナイフのみだ。


リュックの中のこん棒は盾と同じくすぐに出せないので戦力として省く…

ナイフを逆手に構えて俺は熊を睨んだ。


こんなピンチの瞬間だが落ち着いている自分に驚く。


『平常心のスキルか?!』


と閃くが、だからと言って事態は変わらない…

ヤツの脇腹に深々と刺さったままの剣先から、熊の血が滴る…


『ヤバイよ、ナイフで殺れる訳がない…』


と、危機的状況だが、平気な顔をしてナイフを構える俺に、何か嫌な予感でもしたのか熊は渋々諦めて帰って行った。


『た、助かったぁぁぁぁぁぁぁ!!』


と、全身から全ての汁を放出しそうな俺は、メインとサブの武器を両方失ったが命からがら帰還する事が出来たのだった。


俺はまず冒険者ギルドに行き近くの森で熊に出会った事、脇腹に一撃入れたが死んでいない事を告げた。


『手負いの熊は危険なのだ…』


ギルド職員さんに熊の特徴を伝えると、すぐにクエストボードに、


『キラーベアー出現、脇腹に傷を作ったまま移動、

手負い状態なので緊急討伐受付中』


と、張り紙がされると、さっきまで酒に飲まれた陽気なオッサン達は、キリリとした漢の顔になり、


「よし、血の痕を辿れる今のうちに殺るゾ!」


と気合いを入れてから手続きを済ませギルドに併設された酒場から出て行った。


『任せたぜ、オッサン達…』


と、武器を壊してしまった俺には出来る事も少なく、オッサン達を見送ると財布の中身を確かめた後に武器屋に行こうとしたら、ギルド職員さんに、


「武器を買いに行くなら暫く待った方が良いですよ。

今日は宿でユックリ休んで、明日の朝イチで窓口に来て下さい」


と、不思議な忠告を受けたが、既にクタクタだった事もあり俺はその提案通りにさせてもらった。


宿屋に帰るなり俺は泥の様に寝て、翌朝早くに目覚めた…



早朝の冒険者ギルドに行くと昨日のクエストボードの紙が剥がされ代わりに、


『キラーベアーのメス討伐、小熊の居る可能性あり、注意をしてください』


という、張り紙に変わっていた。


窓口に移動すると、ギルド職員さんと普段は酔っぱらいの先輩達が一人シラフの状態で待っていた。


俺が、


「すみません、何か待たせましたか?」


と聞くと、先輩冒険者のオッサンが、


「いや、さっき帰ってきて報告を済ませたところだ」


と答えてくれた。


ギルド職員さんが、片手剣の刃を取り出して、


「確認です…ポルタさんので間違え在りませんか?」


と質問された。


俺は鞘にしまって腰から下げた折れた剣を提出すると、ギルド職員さんは剣を鞘から抜き、刃と合わせてみると折れ口が合う…


「間違い在りません」


と職員さんが言ったとたんに先輩冒険者が、


「やったな、坊主!」


と、俺の背中をバンっと叩いて笑う。


ギルド職員さんも


「ポルタさん、おめでとうございます」


と、祝ってくれるが何の事か解らない…


すると、職員さんは。


「Eランク冒険者ポルタ様、

キラーベアーの目撃報告と、討伐の一番手柄で、Dランクに昇格となります」


と発表したのだが…


『討伐の一番手柄?…』


と俺が首を傾げて考えていると先輩冒険者のオッサンが、


「いゃぁー、笑った、笑った。

坊主の報告を聞いて、パーティーで追撃依頼に出掛けたんだが、血痕を辿ってヤツのねぐらに着いた時には、ヤッコさん虫の息だったよ。

俺たちは、死体回収程度の労力で討伐依頼を達成しちまった…坊主悪いな…」


と笑っている。


ギルド職員さんが、


「では、報酬です。

危険度C のキラーベアーの目撃報告と討伐の報酬の分け前と素材買い取りの分け前です。

今ならば一部の素材の買い戻しも可能です」


と説明してくれたのだが、俺はまだ状況が把握出来ていない…

先輩冒険者のオッサンが、


「坊主、その金は正当な分け前でお前さんの取り分だ。

次は良い武器を持っておけそしたらその倍以上の金を一人占めできる。

武器が折れてなければ坊主の勝ちだったさ。

Eランクが良くもまぁ、下の方とは言え危険度Cのキラーベアーと渡り会えたもんだ…良い酒の肴の話題が出来たぜ!」


と言ってご機嫌で帰って行った。


俺は渡された報酬の中から大銀貨二枚をギルド職員さんに渡して、


「これで、ギルド酒場でさっきの先輩のパーティーが飲む時に一杯奢れますか?」


と聞いたら職員さんは、


「ポルタさんは、本当に11歳ですか?

粋なことしますねぇ。

大丈夫ですよ。彼ら〈夢の狩人〉のパーティー全員にボトルで奢れますよ」


とギルド酒場に話を通してくれた。


しかし、手元にはまだ大金貨一枚と小金貨三枚が残った…


どうやら熊の素材は高いらしい…

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