第99話 オーガの里の殲滅依頼

草原地帯の購入も無事に終わり、牧場と農地の区画や水路の整備を既にアンリに頼んである。


牧場拡大に伴い、ポプラさんに乳製品加工工房のアイデアを話したら、ヘンリーさんと相談して商会に来てくれる人材も各地に行った時には探してくれる事になり、ポプラさんが、


「新しいチーズ料理が作れる!?」


と、俺に聞くので、


「ヨーグルトやクリームチーズやバターが出来たら〈チーズケーキ〉とか、モッツァレラチーズがつくれたら〈ピザ〉なんかも作れるかな…」


と、答えると


「〈チーズケーキ〉…〈ピザ〉…何だか分からないけど、私食べたいから頑張る!」


と、やる気になってくれていたので大丈夫だろう。


俺は、幾つか冒険者ギルドの依頼をこなしてから、アゼルとメリザと合流して、大きな依頼を受けようかと考えている。


しかしまずは、冬の難易度の高い依頼をソロで受けて冒険者としての自信と誇りを取り戻すのだ!


と、やって来た冒険者ギルドだが、


この季節デフォルトで酒場で飲んでいる夢の狩人のメンバーに、


「ポルタぁ、冬に働くなんてご苦労なこった」


と軽くからまれた後にクエストボードを眺める。


〈スノードラグーンの討伐〉


〈オーガの里の殲滅〉


…冬の度に飛んでくる季節もののスノードラグーンは仕方ないにしても、毎年の様に殲滅依頼を出されているオーガさんって少し気の毒だな…


たしか、オーガって〈鬼〉だよな…


と、記録と検索のスキルで帝都の図書館で仕入れたオーガの情報を脳内で調べる。


原始的な家を建て生活を営む亜人種の魔物、力が強く、狂暴で上位種は人語を使い、鍛治の技術も…


『って、魔物で良いのか?』


家を建てて鍛治仕事が出来て…魔物でなくて人だよね?

見たことないけと魔族も居るらしいし、近場にっ越してきただけの優しい人間好きの〈泣いた赤鬼〉みたいな鬼かもしれない…


『村の近くに住み着いたオーガの里の殲滅、または追い出して下さい…』


って、別に『娘が拐われた』とかではないのか…


『一応、窓口で詳しい話を聞いてから決めるか…』


と、窓口の職員さんに詳しい話を聞くと冬前まではご近所でも我慢出来たが、獲物が少なくなり村人と狩り場で逢うことが増えて少ない獲物を取り合っていざこざが起こり、『追い出してくれ…』という依頼なのだそうだ。


『って、勝手な!悪く無いじゃんオーガさん達…』


と感じてしまう。


なんか、他の種族を下に見る『人間様』の悪い部分を見た様で嫌な気分になったが、俺はオーガが気になったので依頼を受ける事にした。


『最悪ウチの裏山の上半分に引っ越してもらっても構わないし…』


などと考えていると、窓口の職員さんは、


「全滅させなくても、里の殲滅ですので、長に戦いを挑み、勝てば指示に従いますから…」


と、言っていたが、


『ますます、決闘のルールを守る律儀ないい鬼じゃねぇかよ…』


獲物の取り合いでご近所トラブルを起こしたら有無も言わせず討伐対象って…可哀想すぎるだろ!?


俺は、人間が少し嫌いになりながらクレストの町から馬車で3日程の小さな村に移動して依頼主の村長を訪ねた。


林業と狩りで成り立っている数十人の村の近くに、

数十のオーガがやって来て、単純計算で倍の鹿や猪を消費していく…簡単に言えば口減らし的な討伐らしい。


村長も、オーガ達と狩り場件でイザコザをおこした村の若い衆にゴリ押しされて依頼を出したが、オーガの集落自体はかなり気を遣って村の周辺まで狩りに来ることは避けていたそうだし村長はかなり話が解る鬼らしく、


「出来れば殺さないでやって欲しい…」


と言っていた。


『村長も何とかしろよ、そんな話の解る鬼となら話し合いで何とかなっただろうに…』


と、俺が呆れていたのに気がついた村長は、


「はぁー」と、ため息をついて、


「数少ない若者に、〈アイツらが居なくならないのなら、俺らが村を出る!〉と言われて…」


と申し訳なさそうに答えていた。


やっぱり気乗りしないが、俺は村の側の林を抜けて半日ほど歩いた距離のオーガの里に着いた。


資料には


脳内の資料では〈原始的な…〉と書いて有ったが、

実際は、石と丸太に狩った獲物の皮を加工した屋根の遊牧民のテントみたいな建物が並び、赤色っぽい肌の背の高い人影が見える。


裁縫の技術も多少有るのか狩った獲物の皮で作ったパンツや、声が実体化する〈はじめ人間〉の母ちゃんみたいな皮の服等を着ているのが確認できた。


なおも集落を目指して進むと、


「キサマ、何者だ!」

「ウガ、ウガ!」


と目の前に体のデカイ金棒を持った鬼を引き連れた少し背は高く、赤みがかったくらいの肌の弓を持った普通の見た目の女性が現れた。


『えっ?オーガの集落と聞いてましたが?』


と驚く俺は勝手に人間が大好きな〈泣いた赤鬼〉をイメージしてきたが、現在目の前には、泣いた赤鬼タイプの子分を連れた青少年から好かれそうな〈ヌける赤鬼〉が野生的なラムちゃんみたいな格好で出てきた。


『ますます、この世界が解らなくなってきた…』


俺は、2人のオーガ族に


「すみません、村長とお話がしたいのですが…」


と、お願いすると、


オーガ族の革のタンクトップにホットパンツの女性が、俺を品定めするように見てから


「こっちだ!父に合わせる」


と言う、


『長の娘さんか…』


と理解する俺に向かい、隣のザ・赤鬼も、


「ガウ、ガウガっ!」


と…〈大人しくしてろ!〉と言わんばかりに、軽く睨んだあと歩きだす。


とりあえず、長と話しは出来そうだな…

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