第8話 ボスには勝ったが…


何とかボスを撃破した…

ドロップアイテムを鞄に押し込み出口に向かうと噂通りに、初回ボス討伐のご褒美の宝箱が出口前に現れていた。


9階層を駆けずり回ったが、宝箱は見つけられず木槌以来数日ぶり二度目の宝箱である。


ドキドキしながら中を確認すると7つ集めると願いが叶いそうなサイズの水晶玉がひとつ入っていた。


「なんだコリャ?」


と呟きながら俺は確認する為にソレを手に取ると、玉はピカッと光りを放ちフッと消えた…


『えっ、何か解らないまま消えた?!要らない物なら売れただろうに…』


と、消えた戦利品にショックを隠せない俺は、すごく残念な気分で転移陣の部屋に入り、その部屋の真ん中に有る魔法陣に乗る。


あとはコレに魔力を流すらしいのだが…そもそも俺は魔法など使った事がない…


とりあえず、『動け!』と、念じてみると魔法陣が青白く光りだした。


『セーフ、魔力は有ったみたいだ…』


と安心した俺だったが、一瞬、魔力無しだった場合は歩いて地上まで帰る事も覚悟していた。


しかし、金なし、使えるスキルなし、魔力なしでは、俺が可哀想過ぎる…


何とか魔力は有った事に感謝する暇もなく、フワッと落ちる感覚が有り、次の瞬間辺りを見るとダンジョンの入り口の受付横だった。


受付嬢が、


「転移陣はどうでした、タマヒュンでしたでしょう?」


と、にこやかな笑顔で「タマヒュン」と言ってくる。


「えぇ、まぁ…」


と少し頬を染めながら答える俺に、


「では、ボスの討伐確認をします。

ドロップアイテムの提示とランクの確認が出来る書類の提出を…」


と受付嬢に言われて、俺はボスの角と魔石、それとEランクの昇格証明書を提出した。


受付嬢はそれらを確認すると何かの道具をごそごそして、


「はい、おめでとう!

ポルタ君は今日からギルドカード持ちの正会員になりました。

この冒険者ギルドカードを提示するとサービスを受けられる場合や帝都のギルド図書館などが無料で利用できます…やったね!!」


と言って彼女はカードを渡してくれた。


確かに今までは判子のついてある書類だけだったが、初級ダンジョン踏破でようやく冒険者のスタートラインなんだな…と、冒険者としての先の長さに絶望しかけていると受付嬢が、


「んで、ポルタ君、初回踏破の宝箱は何だった?

ナイフかな?…槍なら鞄からはみ出でるし…」


と聞いて来たので、俺は、


「良く解らないタマがヒュンと無くなりました…」


と残念そうに答えると受付嬢は、


「えっ、そっちのタマヒュンはラッキーじゃん」


といっているのだが…


『お嬢さんが、あんまりタマヒュン、タマヒュン言っちゃダメっ!』


と、思いながらも、


「ラッキー…ですか?」


と質問する俺に受付嬢は、


「だって、スキル昇格の球だよ、素手で触った瞬間に発動するから余り持ち帰れる冒険者はいないけど、ウチのダンジョンの激レア報酬だよ」


と説明してくれたが…


俺のスキル〈インセクトテイマー〉か〈虫の王〉がレベルアップ…


『要らない…マジで失敗した…触るべきでは無かった…』


と、更に凹む俺…しかし、悔やんでも後の祭りである。


余りの落胆に受付嬢が、


「どうしたの?」


と聞くが、


「大丈夫です。もう、現実を飲み込みました…」


と答えると彼女は、


「若いのに大変そうね…とりあえずガンバっ!」


と、俺を送り出してくれた。


暗い気分のまま買い取りカウンターでダンジョン踏破の成果を売り払うと小金貨一枚と大銀貨五枚になった。


『ヨシ、気を取り直してマジックバッグを購入して他の町に行くぞ!』


と意気込んでアイテムショップに行くと既にマジックバッグは売れた後だった…

おやじに聞けば、若い三人組が昨夜買って行ったらしい。


『あの、礼儀正しい子達かぁ~…ならば仕方ない…』


と俺がガッカリしているとおやじさんは、


「坊主、帝都に行ってみな常にあれくらいのマジックバッグなら売ってるし、魔導具師が沢山いるからお洒落なマジックバッグを制作もしてるよ…少し値がはるけど。

でも、ダンジョン産のモッサいマジックバッグは少し安いらしいから…」


などと有力情報をくれた。


『マジックバッグを目指して拠点を移すのも有りか?…図書館も無料らしいし、この世界の知識を得るのに良いかもしれない…』


と次の目標が見えてきた事に喜ぶ俺だった。


それもこれも孤児院の爺さんが文字を教えてくれたからこそだ!

沢山稼いで孤児院に寄付でもしてやりたいが…まだ先の話だな…まずは、マジックバッグだな…今回の大木槌みたいな重い物やデカイ獲物も持ち帰れる様になりたい…でなければ今後の冒険者生命に係わる。


只でさえ俺には邪魔が多いというのにダラダラと森や草原をうろつけば仲間になりたい奴らに出会ってしまう。


『すっと行って、バッと狩って、すっと帰るスタイルで営業するには是非モノなんです…マジックバッグは!』


あと、あえて考えないようにしていたが俺のスキルが例の玉の効果でレベルアップもしてしまったらしい…


『悪い予感しかしない…』


インセクトテイマースキルが育って、扱える虫が増えるとかなら使わなければ良いだけだが、

虫の王スキルがレベルアップしたらどうなるのだろう…好かれるのを通り越して愛されるの?


『…キモい…』


あぁ、どうなるんだろう…

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