第9話 やっぱりやめた。
ザナのから乗り合い馬車に揺られながら次の大きな町に移動して、そこでまた乗り合い馬車を乗り換えて移動する…
正直、『帝都まで!』と意気込んで出発したが、
今はザナから約二週間移動した〈アルトワ王国〉という国の王都に来ている…来ているというか…いや…俺はもうここを暫くの拠点とする事にしたのだ。
『帝都はどうした?』
と思うだろうが、これには理由が幾つかある。
何よりまず、
「帝都が遠い!」
二週間ガタガタと馬車に揺られて頑張った俺の腰が悲鳴を上げているのだ。
しかも、ここから帝都まで1ヶ月程掛かるらしい…
『もうポッキリと心が折れました』
そして二つ目…これが一番の問題であり、
「金が掛かり過ぎる」
という事である。
『仕事もせずに1ヶ月以上旅しているほど余裕はない!』
別に帝都に行かなければならない状態では無いので、手前の国々の中でも比較的大きなこのアルトワ王国でのんびり金を稼いで時間停止付きのマジックバッグを手に入れる予定だ。
それさえ手に入れば依頼とは別にマジックバッグを使った貿易等で稼げるかもしれない。
帝都で無くてもマジックバッグは売っているだろうし、何より今は冬移動するには大変だが、虫が殆ど居ないから仕事をするには絶好の季節だし春までここで働く事にしたのだが…
問題はこの時期に野宿すれば凍死する…宿に泊まると金が掛かるという現実である。
マジックバッグの為に稼いだ金がガンガン減っていくが仕方ない…アルトワ王国の王都〈クレスト〉の冒険者ギルド経営の宿屋に空き部屋が無いかギルドの窓口で問い合わせる。
ギルドの宿屋というが週単位や月単位で借りれる冒険者専用のウィークリーマンションの様なものだ。
食事は冒険者ギルド経営の酒場で取れるし節約の為に共同キッチンで自炊しても構わないらしく、そして、一番の魅力は共同の釜戸でお湯を沸かして体が洗えるのは最高の設備だと思う。
町の素泊まり宿屋なら1泊小銀貨一枚前後だが、ギルドの宿は一週間分6泊7日で、大銀貨一枚と小銀貨二枚と、巷の素泊まり宿よりお高い金額だ。
しかし素泊まり宿屋はベッドのみのカプセルホテルみたいなモノなのに対して、ギルドの宿はベッドと机が有り、ワンルームマンションみたいは広さがあるのでお値段以上に快適な宿なのである。
1ヶ月借りると大銀貨四枚と更にお得になるので、大概の冒険者はみんな1ヶ月単位で借りるのでなかなか部屋の空きがない人気の宿なのだが、この日は運良く空きがあり、1ヶ月分の支払いを済ませて、まずはこのクレストの街をぶらついてあちこち見てまわる事にしたのだ。
アルトワ王国は帝国の中でも比較的裕福な国で、主要産業の一つがこの国に五つもあるダンジョンで手に入る、アイテムやスキルスクロールの買い取りと販売にかかる手数料である。
ダンジョンショップという国営の店でのみダンジョンアイテムやスキルスクロールの買い取りを行い、買い取り手数料と販売手数料という追加料金で潤っているらしいのだ。
ダンジョン内で手に入れた素材や魔石は普通に冒険者ギルドの窓口で買い取ってもらえるが、ダンジョン産の武器や防具もダンジョンショップ扱いとなり普通の武器屋などでは買い取りしてくれないらしい。
ということはダンジョンショップに行って金さえ有ればダンジョン産のマジックバッグどころか、もしかしたらナイスなスキルが手に入るかもしれない!
などと閃いた俺は早速ウキウキしながらダンジョンショップに来たのだが…微妙に高いのは、手数料が乗っかっているからなのか?はたまた物価の差か?…
時間停止なしの荷車程度入るマジックバッグが小金貨二枚と大銀貨五枚…
時間停止ありの荷車程度のマジックバッグが大金貨一枚と小金貨五枚と、時間停止付はさっきの商品の6倍程…まぁ、それもそうか…便利だもんな…
などと自分を納得させて次はスキルが身に付くスキルスクロールの売場にある『コモンスキル』という一般的なスキルの〈身体強化スキル〉は、便利だけど比較的良く手に入るスキルスクロールと噂で聞いていたので見に来てみたのだが、その価格は小金貨六枚…一般的なスキルスクロールでこの値段…
「はぁー、俺には縁遠い商品だな…」
と、スキルスクール売場のスキル達をトランペットに憧れる少年の様に暫く眺めていたのだが、
『仕方ない…』
と諦めて、お目当てのマジックバッグも移動と家賃で減ってしまったので手がでない現実を噛みしめながら、金を稼ぐべく冒険者ギルドに行ってこの国にある五つのダンジョンと近隣の情報を入手することにした。
今の俺はEランク冒険者なので、初級ダンジョンしかまだ入れない、ひとつ上Dランクになれば中級ダンジョンに入れてスキルスクロールの入手確率がグンと上がるのだが、調べた結果、残念ながらアルトワ王国の初級ダンジョンは虫ダンジョンらしく俺は一生行かないであろう。
中級は3つあり、お肉ダンジョンと、鉱物資源ダンジョンと、魔法ダンジョンの三種類と資料に有った。
お肉ダンジョンは一番人気で、豚、牛、鳥系統の魔物のみで倒すと高確率で肉をドロップする、時間停止付きのマジックバッグさえ有れば安定して稼げるらしい。
鉱物資源ダンジョンは硬い系統の魔物と、採掘ポイントが多く中層以下では希少金属や宝石も手に入るエリアがある。
魔法ダンジョンは魔法攻撃が主体な魔物が多く、遠距離から攻撃してくるので、魔法防御手段がないと厳しいが魔法スキルスクロールやマジックバッグに魔法武器など『魔法』と名の付くアイテムなどの入手がしやすい。
と、魅力的だが使えるスキル無しの素っぴん冒険者の俺には厳しい…
たとえ、冒険者ギルドポイントが貯まってDランクに昇格したとしても、安心して潜れるダンジョンは今のところ無い状態である。
なので当面はクレストの街の周辺の森や平原などで稼ぐしかない事が判明しただけだった。
周辺の地図や大体の出現魔物の情報を仕入れてからギルドのクエストボードを見ると、そこには、
『緊急、王都周辺に雪ウサギの大量発生あり、依頼申請なしで参加可能、取れたウサギの素材を高価買い取り中 』
と書いて有った。
『おっ、これだ!』
片手剣ではウサギ狩りはキツいからボウガンか弓でも購入して冬の間はウサギ中心の生活にしよう!
スライムに続いて俺は大量発生に恵まれているかも知れない…あぁ…神様…チャンスをありがとうございます…
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