第10話 ウサギ追いし


クレストの周りの森に入りウサギの足跡をたどるのだが、雪ウサギなどという可愛い名前に反して、デカイ足跡が雪の上に続いている。


冒険者ギルドにオススメしてもらった武器屋で弓とボウガンのどちらを購入するかで迷った俺だったが、店主に「狙いを定めやすいよ…」とオススメされた小ぶりなボウガンにしたのだが、俺は今、雪の上に残る足跡を眺めながら


『このサイズのボウガンで倒せるか?…』


と、どうしようもない不安と戦っている。


しかし、残り少ない元手を掛けてしまっているので、もう後には引けない!と足跡を追ってきた森の奥に30程の雪ウサギの群れを見つけたのだった。


こんな群れがあちこいにいて、森の食糧や生き物を食い散らかす…

雪ウサギさんは冬眠不要な雑食性の子沢山であり、放っておいたら食害を起こす厄介魔物だが、毛皮の保温性は抜群で肉も結構美味しいヤツらしい。


俺は雪に埋もれながら、ゆっくりとほふく前進して雪ウサギ達に近づきボウガンを構える。


眉間に一発が理想だが大型犬サイズのウサギがボウガンの一撃で仕留められるか不安もある。


『しかし、俺は殺るしかないのだ!』


ビュンと冬の乾いた空気を切って飛び出した矢は雪ウサギの横をかすめる…


『あちゃー、外したよ…』


と思ったとたん、攻撃された方向に走って集まるウサギ達は俺を見つけて怒りの表情で睨む。


『えっ、結局ボウガン要らなかった?

しくじったなぁ…弓なら連射出来たかもしれないが…』


と思いながらも剣に持ち替えて構えをとる俺…

敵の数は多いが、ブラッドブルより威圧感はく感じるのは少しダンジョンで強くなったからだろうか…


「さぁ、うさちゃん、出来れば順番守って一匹ずつでお願いね」


と、多分無理とは知りながら彼らにお願いしてみたが…やはり無理な相談だった様で、数匹単位で飛びかかってくるウサギを一匹ずつ切り飛ばしていく事になってしまった。


しかし、噛みつき攻撃さえ注意すれば、うさぎの体当たりはロックスライムよりも痛くない…

質量はあるがモフモフなので何とか我慢出来る痛さだ。


暫く取り囲まれ虐められっ子の様にどちらを向いても背後から攻撃されて、嫌な記憶がよみがえりそうになる俺は、過去のトラウマとも戦いながら雪ウサギを五匹ほど仕留めた時に虐めっ子ウサギ達は逃げ出してしまった。


『…よかたぁー!』


と、実はモフモフ体当たりを何発も浴びて、フラフラな俺はウサギ達が逃げてくれた事にホッっとしていた。


ウサギに軽く足を噛られてしまいスネ当てに歯形がついているのを確認した俺は、


「生足の部分じゃなくて良かった…」


と独り言を呟きながら当たりを確認する。


今ところ問題は五匹仕留めたウサギをどうやって運ぶかだが、10匹以上ならば魔物避けを焚いて獲物を一旦残してギルドに連絡に向かい駆け出し君にお駄賃はずんで運んでもらう手もあるが…


『五匹では…うーん?…仕方ない、2往復するか…』


との結論に至り、冒険者ギルドで


『遭難した時の狼煙がわりにもなるから…』


と言われて購入した魔物避けのお香も値段的に馬鹿にならないので、二匹のウサギはロープで木に吊るして血抜きしながら放置して、徒歩で十五分程の距離を麻袋に一匹ずつウサギを詰めた袋を3つ、エッチラ、オッチラと運搬して冒険者ギルドまで移動する。


『一刻も早くマジックバッグを、購入せねば…』


と心に誓いながら俺は雪道を白い息を吐きながら歩いた。


やっと到着した冒険者ギルドの買い取りカウンターに三匹のウサギを渡して、


「まだ現地に二匹置いてきたので取りに戻ります…

全部買い取りでお願いします」


と、伝えて軽い手続きをした後に再び雪道をトボトボ歩いて吊り下げてある二匹の元に向かう…

帰りの雪道は獲物が無い分早く戻れた筈なのだが、吊り下げて有った二匹は…既に俺より先に戻って来た雪ウサギの群れのおやつになっていた。


『うげっ、マジかアイツら…』


冬場は食い物が少なく、何でも食べなきゃ生きていけないらしいが、流石に引くよ…共食いは…


しかし、二匹食われたから二匹は殺らないと俺の計算合わない。


『今度こそ!』


とボウガンで木の影から狙いを定めてウサギを射抜く…

ストンとウサギに刺さるボウガンの矢


「やった、当たった!」


と喜ぶのもつかの間、やはり俺が気にくわないのか辺りを取り囲むウサギさん達、


「ウサギさん達、見た目は可愛いのに諸々残念なんだよ…特に共食いは、引くわぁ…」


と悪態をつきながらこちらも剣と盾を構える。


さっきは、とっさの事で盾を取り出し損ねたが今回は万全…


「完全体の俺に敵うかな?」


と、それっぽい感じを醸し出しながら相手の出方を待つ…しかし、やはり何とかの一つ覚え、攻撃パターンは同じだった。


虐めっ子達は俺を取り囲まみ背後を狙ってくる。


俺は呪文の様に、


「噛みつきのみ注意、体当たりは我慢、剣撃と盾パンチで応戦!」


とブツブツ言いながら余計なトラウマを思い出さない様に集中する。


1度目と違い盾が加わった事で応戦のパターンが増えて先ほどよりは楽に対応できる。


八匹倒したところでウサギ達の動きが止まり、悩んだ挙げ句一匹のウサギが逃げ出すと残りも後を追うように走り去った。


「ふぅー、終わった…」


と安心した俺だったが今度は足元に転がる八匹を眺めて


『どーするべぇーかな?』


と考え込むこと数分、


「とりあえず、血抜きだな」


との結論にたどり着き八匹を木からぶら下げる。


もうこうなったら勿体ない事もあり意地でも魔物避けは使わずに、血抜きをしたあと麻袋に入れて数匹ずつ、二十メートル程進んでは一旦置いて、残りのウサギを取りに戻るという作業を繰り返してクタクタになりながら冒険者ギルドまでウサギを運んだのだった。


『本当に疲れた、マジでマジックバッグを購入せねば…』


ウサギは、肉、毛皮、前歯、魔石と、使える素材が多くて、買い取り価格もなかなか良い上に、なんと現在は大量発生により買い取りアップキャンペーン中であり、解体手数料を抜いても一匹あたり大銀貨三枚となった。


十一匹全て売り払い小金貨三枚と大銀貨三枚、


約33万円の臨時収入だ。


『やっふぅー!マジックバッグが買える』


と小躍りしそうな俺は買い取り金を受け取りその足でダンジョンショップに向かったのだった。


ダンジョンショップの店員さんに俺の全財産を告げてマジックバッグを見せてもらうと、店員さんは、


「そうですねぇ、ご予算内なら…」


と、三種類の鞄をオススメしてくれた。


一つ目は、今の鞄と同じ肩掛け鞄で容量は荷車程度、


二つ目は、リュックタイプで容量は同じく荷車程度、


三つ目は、ウエストポーチで時間停止ありで、容量はトランク1つ分 で、ただし中古で少し古いが頑丈な商品である。


正直全部でも欲しいが、うーん、まずはウサギ入れとして購入しなければならないから…


「うん、リュックにします」


と伝えて、店員さんに代金を払う。


『ヨシ、これでウサギ狩りが楽になるが…本当にボウガンは要らなかったかもしれないな…』


と改めて感じてしまう。


ボウガンの投資分は十分取り返したけど、結局ボウガンで仕留めたの一匹だけだ…練習しないと的を外すし…まぁ、ボウガン君の今後の活躍に期待かな?…


などと、新しく俺の装備に加わったマジックバッグを背負いながらルンルンで宿に戻ったのだった。


冒険者…夢あるよ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る