第57話 帝都に別れを告げて


クマ五郎の引く馬車に乗りマリー達の待つ果樹園のみの村を目指している。


ゴング爺さん達は酷く残念がっていたが、


「成長し過ぎて鎧がきつくなったら今度はミスリルの鎧を頼みに行くから」


と俺が言うと、


「なら、ワシの死ぬ前に来れる様に、確り食べて早く大きくなれよ…」


と言って涙を流すゴング爺さん達に別れを告げて、帝都から東にあるアルトワ王国方面に旅立ったのが春の終わり、


そこから約1ヶ月荷馬車の旅をしながら進み、あと少しで果樹園に着くのだが、

今までは毎回秋の終わりから冬にかけての馬車移動だったのでそんなに気にならなかったが、暖かい時期の野宿があんなに面倒臭いとは知らなかった…


特に荷物を運ぶ訳ではないので、幌つきの荷馬車をキャンピングカー代わりにして眠るのだが、ガタ郎とミヤ子が交代制で番をしてくれていると、

もう、バッタやダンゴムシは勿論、テントウムシや、カナブン、等が〈是非仲間に〉と集まってくる。


ガタ郞達がさばききれない数現れる事もあり、酷い時には荷馬車をぐるりと囲む程のアリの群れがひしめき、あまりの集合体の恐怖にブレイブハートが漏れでてしまった。


説得に諦める者や、数日にわたり食い下がる者、自主的にガタ郎達の配下に入り馬車旅についてくる者と、黒いカサカサ系の奴以外はガタ郎達に判断は任せているが、ただ旅をしているだけなのに毎日の様に進むだけで非正規の虫が少しずつ増えていく。


ガタ郎やミヤ子は、まだ大丈夫なパーツに視線を合わせれば問題なく接する事が出来るのだが、フランスパンサイズの芋虫等はどこを見ようがキモい…


昼の間は頑張って荷馬車を引くクマ五郎とは一緒に寝れるほど仲良しだが、無駄にカラフルな芋虫君と仲良くなる未来が見えない…


〈おうさま、ぼく、きらい?〉


と可愛い声で聞いてくる芋虫君は、気を遣って荷馬車の隅で小さくなり、あまり視界に入らない様にしてくれているのが尚更心が痛くなる。


それといつから居るかは知らないカナブン君は幌馬車の上にしがみつき、〈ガタ郎の親分!〉と、完璧にガタ郎の子分と化している。


…まぁ、正規の従魔にするにしても、非正規のままにするにしても、広い土地を購入出来れば問題なく俺の従魔牧場で暮らせるだろう。


と、あえて何も言わなかったのだが…

なぜか俺の幌馬車は虫に集られた何とも言えない姿で目的地の果樹園の村に到着することとなったのだ。


早速果樹園の娘さんのポプラさんに挨拶をしようとしたが、彼女も虫だらけの幌馬車にドン引きだった。


少し気持ちを落ち着ける時間を必要としたポプラさんが、


「お帰りなさい早かったのね。マリーちゃんも喜ぶわ。」


と言って、俺に地図を広げて見せてきて、


「えっとね。ウチがここでしょ、この手前の小さな丘は購入済みよ、その裏の森は足りなくて次回かな?最終的には森の奥の山を丸ごと購入予定よ」


と説明してくれた。


俺が驚きながら、


「丘、買えたんですね…」


というと、


「王都クレストから1日程度の場所ではあるけど、何もない未開の地…何と言っても土地が安いのよ。

マリーちゃん達の蜂蜜を春と秋に出荷したら、マリーちゃん達の取り分だけで、大金貨数枚になるのよ。

それだけ有ればこれぐらいの丘ならば十分手に入るわよ。」


ポプラさんは教えてくれた。


「へぇー」


と感心する俺に、ポプラさんは、


「どうして、早めに帰ってきたの?旅が嫌になったの?」


と聞くので、


俺は、


「いや、帝都に行って仲間を呼び出す従魔召喚スキルっていうのを取得したので、

本拠地を整備して、仲間をそこから呼んだり戻したりしたいなと…」


と言ったらポプラさんは。


「なら、マリーちゃんもたまには呼び出して旅に行けるのね。マリーちゃんも喜ぶわ!

じゃあ、丘の上に家を建てて勝手に出入り出来る小屋…そうか、厩舎みたいなのを建てたら良いから、

大工さんに牧場を作ってもらったら良いのね!

でも、予算が…来年以降になるかしら…」


と残念そうなポプラさんに俺は、


「予算なら商業ギルドにありますよ。

ポプラさんからの送金やちょっとした不労所得も有りますので…」


と伝えると、ポプラさんは家の奥から旦那を引っ張ってきて、


「こっちは旦那のパーシーよ」


と簡単に紹介してくれたのちに、


「ポルタ君と一緒にクレストの街に行くわよ」


と旦那に指示をだす。


俺と、旦那が挨拶を交わしているのをよそに、


「マリーちゃ~ん!」


とマリーを呼びに行ったが、マリーはマリーで、ミヤ子やクマ五郎と非正規組から挨拶をされて動けない状態だった。


方々の挨拶も終わり、俺はマリーとの再会を喜ぶ…


最近、非正規組のおかげで虫に耐性がつきつつ有るのと、マリー自体べっこう飴みたいな複眼の目さえ見なければデカめの妖精さんなので平気で撫で撫でもできる。


ミヤ子が羨ましそうにするが、ミヤ子は可愛いとかとは別にヤバい粉が気になり大胆に触れないのもある…


マリーに従魔牧場と従魔召喚の話しをすると、凄く喜んでいた。


やはり、蜂の巣が気になり旅にもついて行きたいが何ヵ月も留守にでない…と、悩んで居たらしい。


マリーもノリノリで牧場の建設を望んでいるのでポプラさん主導でクレストの街の大工さんに依頼に行く事にして非正規組を馬車から降りてもらい、


『蜂蜜に手を出したら即死だから、樹液で我慢するように。』


とだけ注意して非正規達には岡の向こうの森で自由行動をしてもらい、俺達はクマ五郎の荷馬車でポプラさんとパーシーさんと共にクレストの街に向かった。


馬車の中に非正規組の芋虫君がサナギになっているので、一緒に移動することになっていたのは俺は後から気がついたのだった。

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