第19話 蜂の女王とお願い
俺の切ない心の叫びはガタ郎さんには届かったようだ…
一対数百の構図のまま多分俺だけ緊張感の漂う対話が始まった。
しかしスズメバチよりデカいテレビリモコン程の大きさの蜂が、100匹以上集まると怖いと同時に、
『草刈り機みたいな爆音がするんだなぁ…』
と、感心してしまう。
一際大きな蜂が、ストンと地面に舞い降りると他の蜂達も地面に降り頭を下げる。
先頭の大きいのが、
〈我らがシビレ蜂の一族の仇を討って頂き有り難うございます〉
と言って深々と俺に頭を下げるのだが、俺としては前傾姿勢で攻撃体制に入る蜂のように見えて凄く怖い…
しかし、一際デカい蜂はお構い無しに、
〈私は、この一族の女王で御座います。
我々は、あの黄色熊に幾度となく巣を破壊され、仲間を食われてきました。
住み処を変えようが、何をしようが、奴らは繰り返し…繰り返し…数千居た我が子達も今は百余り…
とても仇を討てる数はおりません…泣き寝入りするしかない我々に、あなた様が現れ、憎っき熊に天誅を加えていただたと報告を受け飛んで参りました〉
と嬉しそうにリズミカルに羽根を「ブブッ」と羽ばたかせるのだが、
『だから怖いって…泣くぞ!!』
と、蜂の急な行動1つにドキリとしてしまう。
なのに、シビレ蜂の女王様は、
〈感謝を述べようとあなた様に近づくに連れて、なんと、我らが虫魔物の王の香りがするではありませんか!
これが運命と言わずして何というのでしょう?…あぁ、なんとお礼を申したら良いのか…〉
と、うるうるとしたべっこう飴みたいな瞳をこちらに向けてくる。
『視線すら…怖い…』
と、俺は内心ビクビクしながら、
「そうかぁ、良かっね。いっぱい仲間をふやしてね…」
と当たり障りない言葉をかけてこの場を去ろうと試みる。
そして俺は、
『さて、報告してとっとと帰ろう…でも俺って、王様臭いの?あとで、ガタ郎に聞いてみよう…』
などと考えていると女王蜂は、
〈王よ、我らが王に差し上げれる物は何もありませんが、せめて我ら一族の忠誠をあなた様に…〉
と言って俺の足にピトリとすり寄る。
「ひっ!」
と俺は思わず声を上げてしまった。
『ボディータッチはダメだって…』
と心の中で泣き言をいいながらも、あまり傷つけて蜂達からヤケクソ気味に攻撃されるのは勘弁して欲しいので、
「いや、要らないからこの山で元気に繁殖してよ。あぁ、あまりご近所の人間は襲わないであげてね。
忠誠とかはアレだからどうしてもなら…そうだハチミツとかある?黄色熊が狙ったりするくらいだから…」
と当たり障りなく他のお礼で済む様に提案するのだが、シビレ蜂の女王さんは、
〈申し訳ありません王よ…我らは蜜を貯める習性は有りませんので…ハチミツは…差し出せません…
お時間を頂けましたらビックハニービーの巣を襲いまして…〉
と悔しそうに項垂れている上に、略奪の決意まで固めそうだったので俺は焦りながら、
「いやいや、ごめん、君達の習性とか良く知らなかったから…熊が襲うっていうからてっきり…」
と撤回する俺に蜂達は
〈我らはの毒は、あの黄色熊には殆ど効かずに、少し酔っぱらうだけですので…〉
と、教えてくれた。
『この世界のプーさんはハチミツより蜂本体が大好きなようだ…しかも酔っぱらうから好って、
熊の…ではなく人のプータローに近い習性でお酒が、大好きなダメな感じの生物なのかもな…』
と俺が少し呆れていると遠くから「ぶうぅぅぅん」っと羽音が近づいてきて、
〈待つでやんす!…うぷ…
旦那様への謁見は、この一番の子分、ガタ郎様を通してからに…げふぅ…うっ…してもらいたいでやんすぅ…〉
と、ガタ郎さんが腹一杯状態で帰ってきて俺に、
〈で、旦那様、これはどういった状況で…?〉
と聞いてくる。
俺が、
「熊に苦しめられて、困ってたけどやっつけてくれて有り難う…だってよ」
と俺が教えるとガタ郎は、
〈良い心がけでやんす〉
となぜか自慢気に、
〈蜂の一族よ、旦那様は偉大でやんすから末代まで語り継ぐでやんすよ!〉
と胸を張るとガタ郎君は胃が圧迫されたのか、ダッシュで木陰にカサカサと走り込み、樹液をエレエレしている。
『きちゃないよ…ガタ郎さん…』
と、呆れる俺だが、ガタ郎は木陰で
〈アッシの、樹液達…サヨナラでやんす…〉
と呟いたあと寂しそうに木陰から出て来て、そして、
〈蜂達よ、用が済んだら帰るでやんすよ!旦那様は忙しいんでやんすっ!!〉
と、なぜか蜂達に八つ当たりしている。
『ガタ郎さん、器の小ささが目立つから静かにしようか?』
と残念そうにガタ郎を見ていると、女王蜂が、
〈王よ、お願いが御座います。
我らに何卒、お力を…この山一帯で安心して暮らせる力をお与え下さい…〉
と頭を下げている。
『まぁ、あの熊にボコボコにされるのならば、黄色熊は他にも要るだろうし、もっと強い魔物も要るだろう…安心して暮らせないのは、可哀想と言えば可哀想だよなぁ…』
と考え、
「ガタ郞さん、はどう思う?」
と意見を求めると、ガタ郎は、
〈良いと思いやすよ。
別に連れ歩かなくても魂のつながりが有れば、蜂が倒した魔物の経験値がちょっとだけ旦那様にも入りやすし、女王の力を共有して旦那様がすこし強くもなりやすよ〉
と答えた。
なので俺は、
「うーん…じゃあ、現地担当と言うことで仲間に採用するけど、お約束として人間を自分側から襲わないこと…これが守れるならば、名前をあげる」
と提案すると女王蜂が、
〈畏まりました我らが身も心も王に捧げます〉
と頭を下げたので俺は手をかざして、女王蜂に向かい
「マリー!」
と呼ぶとすべての蜂が光りだす。
そして、光りが和らぐと、ただデカいだけの女王蜂は、大きさそのままでだいぶ人間に近い見た目になり、妖精のようは雰囲気になったが、べっこう飴みたいな複眼の瞳は変わらず、
『別の意味でキモい…』
という感想のフォルムに変化したのだった。
『恐怖、蜂女!』みたいな見た目の妖精さんと、若干虫感が弱まったその他の蜂達が俺の前に並び、妖精風の女王が、
「シビレ蜂改め、〈トラップハニービー〉のマリー、陛下の為に忠誠を捧げますわ!」
と言っている。
『ハニートラップじゃないよね?』
と考えているとマリーが、
「ビックハニービーを使役し、蜜を狙う魔物を返り討ちにするトラップ・ハニービーですわ」
と教えてくれた。
そうなのね…
「ボンキュッボンな体に成ったからつい…色気で惑わして…かと思ったよ」
と、俺がいうとマリーは、
「それも出来ますわよ。」
と、言い出すが…驚いたのは内容ではなくて、
「…いや、マリーさん?」
と俺がとある異変に気がつくと、
「はい?」
と不思議そうなマリーさんに俺は、
「普通にしゃべってなません?」
と質問するのだが、マリーは
「オッホッホ、陛下、それは口が有りますもの喋りますわよ…」
と、『なにを当たり前な事を…』みたいな感じで答えるのだった。
ガタ郎さんも〈うんうん〉と頷き、
〈うらやましいでやんす…〉
と言いながら近くの木にしがみつき、吐いて隙間の空いた胃袋へと樹液を舐めて補充しているのだった。
『また、飲み過ぎて吐いちゃダメだよ…』
と心配しながらも俺は
この山一帯で帝国を作ると張り切っている喋る蜂のマリー率いるトラップハニービー達を眺めていた。
マリーをテイムしただけで他の蜂まで進化したのは、もれなく彼女の娘だったかららしいが、娘達は口元が蜂さん寄りで喋れないようである。
しかし彼女達は念話で俺に向かい、
〈王さまぁ〉とか〈パパぁ〉と呼んでくる為に、なんか夜を感じる集団になってしまった様である。
そしてマリーの娘達と別れ際には、
〈パパぁ…絶対、絶対、また来てね…〉
と、すがりつかれたのだが、先ほどより虫感が少なくなったからギリギリセーフで、平常心スキル君のおかげで短い悲鳴を漏らさずに済んでいるが、
ある意味全体的にお水感が増した魔物になったので良い子に見せるにはギリギリアウトなのかも知れない…
『まぁ、ビックハニービーとやらを配下にする能力があるらしいので、ハチミツをそのうちくれるらしいから秋にでも見に来るかな?』
と、熊退治より大変なイベントを済ませて果樹園のオーナーに黄色熊の討伐確認と樹液のお礼と、マリー達の話をして、
「あの蜂達は、悪さをしないのでいじめないで下さいね」
と、お願いをしてからクレストの街に徒歩で向かった。
依頼達成の報告をギルドにするまでがお仕事だけど、歩いて帰るには流石に遠いな…
と、馬車をチャーターして来た道を俺は徒歩にて帰るのだった。
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