第110話 謁見の間での出来事
ルキフグス宰相閣下に急かされて、俺達は急ぎ足で謁見の間に案内された。
そこは、既に魔族の貴族と思われる十数名と、様々な種族の騎士達と空の玉座が有る場所だった。
促されるままに進むと方々から好意的な視線や、懐疑的な視線に、〈殺す!〉と言っている様な敵意の視線に射ぬかれながら、玉座が見える最前列まで通された。
『あの、顔色の悪そうな青白いオッサン達は露骨な殺意を向けてきたな…怖いわぁ~、魔族の貴族…』
と、痛い様な視線を背中に感じていると近衛兵士の
「魔王陛下のおなぁ~りぃぃぃ!」
との声が聞こえる。
黒いマントの真ん中分けの紳士を勝手に想像しながら玉座の方を眺めていると、美しいブルーのワンピースを着た、アホ毛がチャームポイントの2つお団子ヘアーの少女が現れた。
少女はチョコチョコ歩き玉座にピョコンと座り、
「みんな、楽にして。それで、あなたがポルタ殿だね」
と、聞くので、
俺は、『魔王陛下だよね!?』…と、驚きながらも…顔には出さずに、引き締まった顔つきのまま
「はい、ポルタに御座います」
と答える。
すると、少女は、
「皇帝陛下からの手紙を読んだんだけど、話し合いで合意が出来たら、魔の森に再び戻るのを協力してくれるって本当?」
とキラキラした期待の眼差しで見てくる。
そして、部屋の魔族達がザワザワしだす。
俺は、
「現在、魔の森の半分ほどは私の配下のアリスという城蟻の女王が管理しており話し合いで合意が出来れば、魔王国にお返しする事も考えております。
それには、まず、皆様と仲良くなり解り合うところからだと、皇帝陛下に頼み食糧支援物資をお持ちいたしました」
と俺は頭を下げる。
「おぉ!」と貴族達がざわめく声が聞こえ、2つお団子ヘアーの少女は、
「おぉ、城蟻の女王とな…ポルタ殿は既に魔族と手を取り合って居るのだな!素晴らしい!!」
と、言って魔王陛下は玉座からピョンと飛び降りて、俺に近づき、俺の顔を覗きこみ、
「我々も仲良くいたそう、ポルタ殿!」
と、俺の手をガシッと両手でにぎる。
周囲の魔族達からは拍手や歓声が上がり、
…そして、
アホ毛の2つお団子ヘアーの少女は、俺を見つめたまま、
「して、ぽ、ポルタ殿は年は幾つになるのだ?」
と、急に緊張しながら聞いてくる。
あまりの急角度の質問に戸惑いながらも俺が、
「16に御座います」
と答えると、
魔王陛下はハァハァしながら、
「なんと、同い年ではないか!…これはもう運命じゃな!!」
と、興奮しながら魔王陛下は握った手をブンブンと振る。
そして、何かを決心した目をして急に、
「宰相!私、ボルタの嫁になる!」
と、宣言をする魔王陛下…
『なんでだ?何がどうなっている?』
と、焦り散らかす俺は、再び背中に感じる殺意を気にしながらも、
「魔王陛下…お戯れは…」
というと、お団子ヘアーの少女はアホ毛を揺らしながら首を横に振り、
「戯れでは無い!ポルタの目を見て確信した。
私はポルタの嫁になる為に生まれてきたの!
私の中の全部がポルタに反応してるの!!」
と…
『魔王陛下…魔族の皆さんが驚いているし、数名に殺意を向けられております…』
と俺はへんな汗を滴らせて焦りながら、
「魔王陛下…!?」
と声をかけると頬を膨らませた少女が、
「嫌っ!魔王陛下なんて呼ばないで!」
と拗ねる。
『いやいや、名前とか知らないから…魔王陛下が、女性と、数分前まで知らなかったのに…他の呼び方なんて知るわけがないよぉ~。
出会って即、結婚宣言って…企画物のAのVかよ!!』
などと俺は並列思考スキルを使うのだが、この状況でプチパニックを起こした俺が二人になったところで上手く立ち回れる訳がない…
「陛下のお名前をまだ存じません…私は何と、お呼びすれば?」
と苦し紛れに魔王陛下に質問すると、アホ毛のお団子頭の少女は、ニッコリ笑い、
「シシリー・バアル・ゼブブよ。
シシリーと呼んで下さいまし、私のポルタ様!」
と…
『タリウスさんの言っていたシシリー様は家名では無くて、個人名なのね…
!!あぁ~、解っちゃった。バアル・ゼブブ…
つまり、ベルゼブブさんの末裔で、先祖の力を濃く引き継いで覚醒したのね…シシリーさんは…
つまり、元々どこぞの神様だったけど、なんやかんやで悪魔になった
とここに至って並列思考スキルが仕事をして、おれの記憶を検索してこの状況の答えを導き出したのだが…
『どうしよう?…』
生暖かい視線や、冷ややかな視線は我慢できますが、殺意の視線が数名の貴族さんからと妹からも注がれて居りますので…
『心が持たない…』
俺は、懇願する様に、
「シシリー様、とりあえずお手を離してから落ち着いて話しませんか?」
と提案すると彼女は満面の笑顔で、
「このままで!」
と、却下された…
助けてください!視線が痛い!!
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