第136話 ヨーグモス軍との激突
偵察に出た隠密騎士団からの敵軍進行の一報をきいてから、暫くして俺は魔王国の一番外の大壁の上に立ち軍勢が来る予定の北西の方角を警戒している。
そして、隠密騎士団から、
「敵、約三千、三時間後にはコチラまで到達します」
と新しい報告が有った。
地味にミヤ子一家が既に今朝のオーガ村襲撃騒動で鱗粉を使いきったのが痛い…広範囲攻撃手段が一つ潰されてる。
あと数時間で到着する敵を何処かに集めて、一気に数を減らしたい…と考えた俺は、アリスと魔法騎士団に街の壁の外の森の中にアースウォールを緩やかなVの字に配置してアリス達にその壁の延長と強化を時間いっぱい迄頑張ってもらう。
街の門付近には騎馬隊を配置して入り口固めて、ワイバーン部隊は街の壁の上で待機してもらう。
魔法騎士団がマジックポーションをガバガバ飲みながら、ヘロヘロになるまで立てた土の壁に、三千を超える城蟻が補強と延長を行い、時間内に高さ2メートル、幅200メートルほどの第一次防衛ラインが完成した。
第一次防衛ラインの守備は城蟻に任せて、近づく敵には蟻酸を浴びせる様に指示を出し、タンバには虫の軍勢を使い防衛ラインのV字中に敵を追い込む仕事を頼んだ。
だが、今までの様に準備に時間が掛ける事が出来なかったので、捕虜を取る為の罠等は配置出来なかったのもあり俺は心を鬼にして、
「捕虜などは考えるな、敵に慈悲など要らぬ、全てを切り裂き、噛み千切り、喰らい尽くせ!!」
と指示を出すと姿は見えないが森のあちらこちらから、
「ギチギチギチ…」
と顎を打ち鳴らす様な音が聞こえて、将軍ムカデタンバの
「出陣!」
の掛け声と共に戦争という名前の追い込み猟が始まった。
程なく森の奥から戦闘の始まった音が聞こえる…
怒号に爆発音に悲鳴…
ありとあらゆる音がユックリと近づき、防衛ラインのV字の中に追い込まれて集められはじめる。
300年近隣諸国との小競り合いか、無策で突っ込んでくる魔物スタンピードぐらいしか相手にしていなかったであろう敵兵は、統率のとれた虫の大群に側面や背後を取られて、じわじわとその数を減らしながら中心へと進むしかなくなり、俺のいる第一次防衛ラインに到達した。
俺の立つ大壁の上からでも解る歩道、敵の先頭集団の中に仮装パーティーの様な馬鹿を見つけた…
馬鹿は拡声魔法を使い、
「我こそは、リチャード・サカシタ・ヨーグモス六世なりっ!
今代の勇者よ目を覚ませ!我も先代勇者の血を引く者…そなたに直接危害を…」
と無意味な演説を長々と喋っている。
至宝を全て身に纏った馬鹿の口上など聞く耳も持たずに俺は、アベル騎士団長に、
「イケ!」
とだけ指示を出すと、ワイバーン騎士団とアゼルとメリザが飛び立ち、集められた敵陣営に石のゲリラ豪雨が降り始める。
『本当に敵の総大将が馬鹿で助かった。』
至宝を部下に分けて装備させて居れば個別の対処が必要に成るが…馬鹿が欲張ったお陰で辺りの配下が死ぬ度に、道連れのマントが自動でダメージを馬鹿に加え、魅惑の鎧はほぼ男性のワイバーン騎士団の石の雨の威力を軽減出来ず、カスリ判定の攻撃にも過剰に反応し、辺り構わずに魔神の斧を振り回して馬鹿は勝手に命をすり減らしているのだった。
『頭が悪すぎる…』
相手はどうせ弱体化した魔王軍と、俺を小領の領主と侮り、一国の力でゴリ押しをすれば勝てると踏んでいたのだろうが…
同時に複数の場所を攻めるアイデアや、至宝をおさえるまでは良かったが、
『詰めが甘すぎる…』
と、呆れてしまう俺だったがしかし攻撃の手を緩める事はなかった。
そして、降り続く石の雨が弱まり、土煙がおさまると数を減らしたとはいえ、二千人以上居た敵は岩山に押し潰されて壊滅的な状態だった。
『何かやり過ぎたかな…』
と、少し罪悪感を覚えたが直ぐにそんな気持ちは何処かに飛んで行く事になる。
至宝を身に纏った馬鹿が、サーベルを地面に突き立て片ひざを着いた状態で耐えていたのだ。
そして、
「ファーハッハッハ!」
と、高笑いをすると徐々にボロボロの馬鹿の肉体が回復していき、そして先ほどとは違う声色で、
「良くやったぞ、魔王軍よ…我はサタン…魔王サタンなるぞ!
この者の魂を喰らい、辺りの魂も食らったが復活にはまだ足らぬ…二万の命を差し出せ!!」
と騒いでいるので俺はアリスに
「固めろ!」
と指示を出すと城蟻達は自称サタンに泥をペッと飛ばして接着と硬化のスキルで顔以外を全て泥パックで固めたのだ。
アリス達のスキルにより泥は岩の強度に変わり自称サタンを封じ込めた。
「何をする無礼者!」
と騒ぐリチャードなんちゃら六世改め『自称魔王サタン』に、
「五月蝿い!」
と、言いながら俺はグーパンをお見舞いしてやるが、
「フッハッハッ!いくら攻撃を受けようとも痛くも痒くも無いわ!」
とドヤる自称サタン…
『やっぱり、魂を食われたらしいリチャードなんちゃら六世は、もうただの器として何者かに操られているのかもしれない…』
と考えた俺は、ぐるりと辺りを見回すが本体らしき魔王は見当たらない…
などと言ってみたかっただけで、とっくに本体の心当たりがある俺は、
『やれやれ…サーベルが本体だな…』
と、と確信して腰の雷鳴剣を抜き器の方の自称サタンに近付くと、そちらの自称サタンさんは、
「コイツの体をいくら傷つけても、我は倒せぬぞ…」
と余裕だがサンダーの魔法をを雷鳴剣に纏わせ、
そっと地面に刺さったままで半分泥パックされているサタンサーベルに雷鳴剣をゆっくり近づけると、
「おい、何をしている?!止めぬか!わゎ、ちょっと!」
と急に慌てだす…自称サタン…
『なんと解りやすい性格なのだろうか…』
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