第93話 ヨルドの町と決意


パーティーの翌日、ヨルドに向かう俺の前後にぞろぞろと列が出来ている。


ヨルドの町を守る侯爵様も討ち死にし兵士も壊滅状態で、町は現在かろうじて無抵抗を貫いた村人が住んでいるらしい。


そこをまた攻めて来るとの情報が先日入ったので、臨時の領主として宰相の〈ドノバン〉様と、王国騎士団の1/3を引き連れたザックさんと一緒にヨルドの町に向かっているのだ。


王都から5日、地図的には一番王都に近い国境線の町だ。


ヨルド先には巨大な木々が生い茂る〈魔の森〉を挟んでワルド王国の領地になる…


次回攻めて来るのが約2ヶ月後の予定…それまでに防衛ラインを構築し町を可能な限り復興させるのが目的らしい。


『戦争が始まる前に逃げれるかな?…俺…』



そして5日かけて着いたヨルドの町は見るも無残な状態だった…


一部の区画以外の建物は魔法か何かで打ち壊され、

残った建物で肩を寄せ合い暮らしている住民達が居る。


畑は荒らされ家畜は敵国占領下で食糧として奪われ…食糧も乏しい状態だった。


住民を守る為の高い壁も崩れ落ち、今年は少ないと云えど、魔の森からの魔物に怯える毎日である。


そんなボロボロの町を生き残った数十人の兵士が何とか守っている極限状態だった。


昨年の秋に停戦して、フェルド王国の建て直しをしたのちにヨルドの復興をする予定だったらしいが、素人目にも


『夏の終わり迄持たないかもしれない…』


と思えた。


俺の持ってきた食糧はフェルド王国が買い取り炊き出しに使われている。


俺はヨルド迄の運搬役なのでもう帰ってもいいのだが…目の前には親を失くし何とか必死に生きる子供達や、子を失くし悲しみを噛み殺しながら懸命に生きる親達…店を、畑を、家畜を失い、途方に暮れる住人達が必死に生きており、そして2ヶ月後に再び地獄を味わうなど可哀想過ぎる…


『何とか助けたい!』


どこの町も戦争で疲弊して、彼らの受け入れを断り、行き先もない状態…町ごと『孤児』みたいなものならば孤児だった俺の身内同然だ!!


『よし!やってやる!!』


と、決めてはみたものの拠点ならばアンリ一族に壁の補修や、畑を耕しジャガイモでも植えるのを頼めるが、従魔召喚で呼べるのはアンリのみで一族は呼び出せない…


『どうしよう?』


と悩んでいると影の中から、


〈旦那様、こっちで集めれば良いんじゃないんでやんすか?壁を直せるヤツ集合~って呼ぶんでやんすよ。〉


と、ガタ郎が提案してくれた。


『よし、やってみるか!?』


となり、ドノバン様と、ザックさんに話を通して、


「虫が集まるかも知れませんが攻撃しないでね」


とお願いした後に助っ人の募集をかける事にした。


半信半疑の二人と住人や騎士達が見守る中で、俺はスーっと息を吸ってから、


「壁の補修が出来る者で、我々に協力する者!しゅうごぉぉぉぉぉ!!」


と、叫ぶ。


「しーん」という静寂が訪れ、『可哀想に…』という視線が痛い…

しかし、遠くからカサカサ、ザワザワと移動してくる音が聞こえる。


そう、数千の魔物の群れが大行進して近づいてくるのだ。


腰を抜かす見張りの兵士や住人に、武器を構える騎士団…凄い迫力の虫の大群に、俺もしっかりブレイブハートを漏らしていた。


数えるのも嫌になる蟻の軍勢に、色々な虫達も集まっている。


虫達は俺の前に集まりビシッと並び頭をさげるのだった。


先頭の蟻が、


「我が王よ、ご尊顔を拝しまして恐悦至極に存じます。

我らは築城蟻の一族、2000余り、お呼びにより馳せ参じましてございます」


と、話した。


後ろで、ザックさんが、


「喋るってことは女王個体か…初めて見た…」


と呟いてる。


俺が、女王蟻に、


「君達、俺の配下になってこの町の修復を手伝ってくれない?」


と頼むと、女王蟻は、


「御意のままに…」


と再度頭を下げる。


俺は女王蟻に手をかざし、


「アリス!!」


と命名した。


すると〈アリス〉の一族が全員光出して、一回り大きく、そして真珠のような白い色に変わる。


腰を抜かす宰相様を横目に、アリス達がビシッっと並び、


「陛下のお力により、築城蟻から城蟻しろアリに進化致しましたこの女王アリスにございます我等一族をあげて陛下の為に働きます」


と忠誠を誓ってくれた。


『そうか、採用前から築城蟻だったもんな…でも城蟻しろアリって…食べて潰す方では?』


と思いつつ俺は、


「よろしく、アリス…アリスの一族もよろしく!」


と挨拶をして次の集団に移る。


先頭の集団には角が三本の金色のマイクロバス程もある外国のカブトムシっぽいのと馬ぐらいあるカマキリにどこかで見たことのある馬鹿デカい百足だ…


カブトムシが、


「陛下、私はこの森の主の一匹です。

陛下にお願いがありこうして私の仲間達を連れてまいりました。

こちらに居るのは我が根城を守る兵士長と旅の強者で根城の防衛に手を貸してくれている者達です。」


と説明してくれた。


デカいカマキリは、


〈陛下、防衛隊長をしております。斬首カマキリでございます〉


と頭をさげると、影の中からガタ郎が、


〈首チョンパ仲間でやんす!〉


と嬉しそうに飛び出した。


『…いいのか?そんなカテゴライズで…』


と心配していると、猿が運転するミニSLぐらいの大きさの百足が、


〈殿!ガタ郎様、お久しぶりでございます。〉


と、頭をさげた。


『あっ、やっぱりウチから武者修行にでた百足だ。!!』


と、気がついた俺が、


「修行は順調?」


と聞くと百足はプルプル震えて、


〈殿が、殿が我の事を覚えてくれておったぁぁぁぁ…〉


と泣き出した。


斬首カマキリさんも


〈良かったなぁ…〉


と、もらい泣きしている。


『…仲良しなんだね…』


とは思うが、ビジュアルは昆虫の戦いみな二人は抱き合って泣いている…


『…キショいが、我慢!…あの~…話を進めたいんだけどなぁ~…』


と、思いつつ後ろを振り返ってみると、何故か住人達が俺を拝んでいる…カオスだ…

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