第91話 目的地に辿り着けない呪い


フェルド王国の王都の手前の森の中で俺は盗賊に囲まれてしまった。


しかし、おかしい事にその盗賊団は同じような装備を身につけた百人程度の一団だった…


『面倒臭い…』


と思う俺は、馬車の屋根で見張りをしていたミヤ子からの報告で後ろからつけられていたのは知っていたが、


『厄介なヤツにからまれた…』


と、ウンザリしながらとりあえずミヤ子に、


『麻痺らせれる?』


と心の中で聞くと、ミヤ子は、


〈お安いご用ですわ、王様〉


と言ってフワリと飛び立った。


道を塞ぐ一団に気づかないフリをして近づき、俺は注意を引くために、


「なんですか、貴方達は?!」


と、わざとらしく騒ぐと、


「商人だろ?!

食糧を大人しく差し出せ!そうしたら、苦しまずに殺してやる!!」


先頭の馬に乗った一団のリーダーっぽいムキムキのオッサンが、俺にハイリスク・ノンリターンの提案をしてきた。


俺は、


「盗賊にしては揃いの鎧で…本当に盗賊ですか?」


と、恐る恐る聞く…フリすると、


「ふっふっふ、勘のいいガキは嫌いだ…我々の存在を見たものは生きて返すわけには行かない…」


と言っているが、


『勝手に出て来て、勝手に見せたのはソッチなのに…』


と呆れてしまう俺だったのだが、引き続き俺は、


「貴方方は何処かの騎士さんですね?」


と、怯えてるっぽく聞いてみた。


するとムキムキのリーダーは自分に酔いしれながら、


「おっと少年、お前さんのボディーガードの白い熊も今、弓兵が狙っているから変な真似をするなよ。

我らは〈ワルド王国〉の騎士団だ。

逆らっても少年一人でどうこう出来るモノではない…」


と…情報を垂れ流している。


『アホだ、自分からペラペラと…』


少し呆れたその瞬間、


「敵襲!」


「告死蝶だぁ!!」


と騒ぐ声が周りから聞こえる。


そしてミヤ子から、


〈リーダー以外に痺れ鱗粉の散布完了しましたわ。〉


と、報告が有った。


パタパタと倒れていく味方を見て動揺しだすムキムキのオッサンに俺は馬車の御者台から跳躍スキルで飛びかかり、雷鳴剣の峰に雷撃を集めて首筋に叩き込んだ。



しかし、それからが大変だった…


クマ五郎とガタ郎も召喚して、道の端に〈ピットホール〉で深さ5メートルどの大穴を空けて装備をひん剥いたワルド王国騎士をポイポイとクマ五郎とクマ美に頼んで放り込む。


ガタ郎は既にパンイチで後ろ手にロープでくくられたリーダーのオッサンの肩に乗っかって首を甘噛みしている。


ガタ郎は、


〈ほれほれ、動くと首チョンパでやんすよ。〉


と楽しそうにたまに顎に力を入れたり緩めたりしているので、ワルド王国の騎士団長はビビり散らかしている。


全ての騎士をひんむいて穴に放り込みが完了するのに数時間かかった。


騎士団長と副騎士団長だと言う二人と、流石に男だらけの穴に放り込むには気が引けたので、武器と鎧のみ没収した女性騎士三名を卵鳥の時以来使っていなかったサスペンション無しの荷車を取り出して乗せる。


『拠点用に置いてこようと思ったが、古いし揺れるので商会でも使わないと言われてアイテムボックスの肥やしになっていたのだがこんな所で役に立つとは…』


と思いながら連れていく捕虜の方々を馬車に縛り付けて、残される穴のパンイチ団体に、


「良い子で待ってろ!

変な真似したらウチの告死蝶ミヤ子のお肉ドロドロ鱗粉の餌食になるからね。

餌になって食われるのが嫌なら穴から出ようとしない様に穴の中なら自由にしてて良いから!」


と忠告してミヤ子に見張りをお願いした。


そして鳥小屋の時の木材の残りをアイテムボックスからとりだして、


『コイツらワルドの兵士です。

悪さをしてました餌を与えないで下さい。

個人的な恨みを晴らさないようにお願いします』


と看板を立てて、フェルド王国の王都を目指して、クマ美のキャンピング馬車と、クマ五郎の旧式荷馬車は移動している。


『本当に俺は、目的地にすんなり行けない呪いにかかっているかもしれない…

駄目で元々で、教会の偉い神父さんにクリアをかけてもらおうかな?』


などと思いながらも、頭の中の地図を記録と検索のスキルで呼び出して確認しながら、夜の間ずっと移動して、朝一番にようやくフェルド王国の王都〈フェルドナ〉に到着して門兵さんに、


「ワルド王国の騎士団を半日ほど先のの森で捕まえました。」


と報告すると門兵のオッサンが、


「でかしたぞ!五人か?」


と言うので、門の横に全員分の装備を放り出して説明した。


あまりの量に驚いた兵士は、


「騎士団を呼んでくるから待ってろ!」


と城に走って行った。


待つこと一時間、檻馬車三台と暑苦しいオッサン率いる騎士団が現れ、


「青年が捕まえたワルドの騎士団とはどいつだ?」


と聞くので、荷馬車のパンイチオヤジを指差すと暑苦しいオッサンは満面の笑顔になり、


「これは、これは、ワルド王国の英雄、銀狼騎士団の〈バーンズ〉騎士団長と懐刀の知将〈タムル〉副団長ではないですか!

我が国の領土を踏み荒らしてくれたのを追い返して以来ですな…オイ、牢獄にご案内しろ!!」


と配下に指示を出して俺には、


「青年、あとはヤツの手下を捕縛に向かう、案内をたのむ。

今宵は良い酒が飲めそうだ!」


と、ご機嫌な暑苦しいオッサンの率いる騎士団の列を連れて俺は再び森へと向かうのだった。

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