第26話 嘘から出たまこと
今日は休みにして宿の部屋でゴロゴロすることに決めた。
強制レイドバトルでキングを撃ち取った肉弾戦パーティー〈鋼の肉体〉と、女性達を無事に保護した魔法使いパーティー〈暁の魔導書〉に挟まれ、特に目立つ働きをした訳でもない俺は肩身の狭い…お疲れ様会の中心に座らされ、
「まぁ、飲め!」…「子供に酒を薦めるな!」
の、ラリーを何度も見せられながら愛想笑いをし続けるという苦行から、やっと!本当に、つい先ほど解放されたばかりなのである。
夜通し飲むとか本当に冒険者はタフだ…
確かに、ジェネラルは1匹倒したが、べつにあんなウスノロは倒しても自慢にならない。
それなのに、
「主役は最後までいろ!」
とあの糞ダサマントに言われていい迷惑だった。
後日ちゃんと今回の働きを査定してポイントが割り振られるらしく、依頼達成報酬は前金の小金貨一枚と合わせて小金貨五枚…
疲れた分には見合うけど後口の悪さを差し引くと当分は遠慮したい案件だった。
保護された女性や助けれなかった男性…
なんか考えてないつもりでもグルグル考えて気分が沈む…
一周回ってもう、何も考えないで体を動かしたい気分がになってきている。
「ダンジョンにでも行くか…?」
と、俺が呟くとガタ郎が
〈おっ、良いでやんすねぇ旦那様、行きやしょう!〉
と乗ってきた。
問題はどこのダンジョンに行くかだが、お肉ダンジョンは正直人気過ぎてしんどい…
魔法ダンジョンも人気ではあるらしいが、敵が魔法を撃つので魔法防御力がないとキツみたいだ。
かたや鉱石ダンジョンは不人気で人が少ない、
理由は敵が硬い事と採掘が大変な事らしい…
どちらも俺には厄介そうだ…
「やっぱり肉ダンジョンかなぁ?…ボス倒してないし…」
なとと俺はギルドの宿屋の中で、積んだり崩したりしていた。
とりあえず、ダンジョンショップに行って、主任さん…いや…今は室長さんかな?
に、高速移動スキルとか滅茶苦茶助かったとお礼を言ってから食糧買ってダンジョンに行こうと決めて出かける事にした。
街をのんびり散策しながらダンジョンショップに到着すると人だかりが出来ていた。
俺は気になって人だかりの近くに行くと、
「うーん、どうせなら何かオマケが欲しいですぅ~」
「困ったなぁ、…今回だけですよ…」
と、安い芝居をしているが大人気のようだ。
『順調そうだな…』
と眺めていると、
「ポルタさん、ようこそおいで下さいました」
と声をかけられたので振り向くと、するとそこにはよく知らない店員さんが立っていた。
?と首を傾げると、店員さんは、
「ひどいなぁ、マジックバッグ購入の時に担当した〈ナッシュ〉と申します。
最近は室長まで出世した〈ニール〉さんばかり贔屓して…私も担当した事有るのに、ポルタさんの福の神パワーを私には分けてくれないんですもの…悲しい…」
と恨み節を聞かされた。
『いや、知らんがな…』
と思う俺は、
「べつに、俺が何かした訳ではなくて、主任…ニールさんでしたっけ?が、頑張った成果ですよ。」
と話していると、予定量の販売が終わったらしく〈ニール〉さんがやって来て、
「ポルタさん、ようこそ、
あれ、ポルタさんはナッシュくんと知り合いでしたか?」
と聞かれたので、
「初めてダンジョンショップで買ったリュック形のマジックバッグの時の担当をね…」
と、俺が応える。
『まぁ、さっきまで忘れてたんだけどね…』
と思っている俺に、ニールさんは、
「ナッシュくん、丁度良かった。
私、色々忙しくなってしまって、お見合い市場の司会を誰かに代わって欲しいと思ってたんだよ。
良かったらやってみない?上手く出来る様ならば、専属で頑張って欲しいんだけど…どう?」
と、提案するとナッシュさんは、
「やります!やらせてください!!」
と、頭を下げたあと俺の手を握り、
「本当に福の神だった!俺、頑張りますから!!」
と、涙を流している。
「そ、そう、頑張ってね」
と、応援しておいた。
そしてナッシュさんはヤル気十分で自分の持ち場に帰って行った。
『何だったんだ…』
と彼を見送った俺は、
「室長さんはニールさんって名前だったんですね」
と、いうとニールさんは、
「あれ、私、自己紹介して…あぁ、してませんでしたね。
えー、ニールと申します。」
と初めて自己紹介してくれたので、俺は、
「少し前にナッシュさんから伺って、存じ上げておりますニール室長さん。」
と、応えておいた。
俺は、そのあと前回売ってもらったスキルのおかげで命拾いしたことを伝えて礼を言った。
ニールさんは喜んでくれて、
「また、サービスしますよ」
と言ってくれた。
通販チャンネル風の即売会は好評らしく、出会い市場と、二枚看板で、商品を買わなくても先ほどの小芝居を観るためにダンジョンショップに足を運ぶのが流行りになっているらしくてニールさんが
「忙しくて、嬉しい悲鳴を上げております」
と、笑っていた。
すると、ニールさんはスッと商売人の顔になり、
「で、本日はどのような?」
と聞いてくるので
「鉱物ダンジョンか魔法ダンジョンに潜ってみようと考えたのですが、鉱石回収の知識も道具もないし、魔法ダンジョンに潜る用の魔法耐性装備もないので、ニールさんの知恵を借りに来ました」
と、俺がいうと、
ニールさんは、「クックック」と笑ったあとで、
「待ってましたその台詞…」
と言って売場の奥からワゴンを押して現れた。
そして、
「はい、本日オススメしますのは、こちら!商品番号1番、鉱物資源鑑定メガネ
あー、採掘したいけど鉱物の種類や名前がわからないよーって時、有りますよね。
そんな時はこれ、〈鉱物資源鑑定メガネ〉です。
ここに取り出した〈魔水晶〉を眼鏡をかけて見ると、あら不思議!名前が…」
と、実演販売をやりはじめるがもうひとつだ。
俺は、
「ニールさん、おしい、おしいよ…もっと、引き付けるやり方があるはず…一度替わって下さい」
とニールさんに言うと、
「そうですかぁ…」
と、少しションボリするニールさんと立ち位置をかわり俺はワゴンの前に立ち、ニールさんに向かい、
「さーぁさ、よってらっしゃい、見てらっしゃい!
ちょいと、そこ行くお兄さん、鉄に金、銀、宝石などなど採掘したいそこの貴方!
採掘したいけど鉱物資源の名前が解らない、名前は知ってるが姿形が解らない…
有りますよねー。
でも、大丈夫…もう、心配することはございません!
この、鉱物資源鑑定メガネ、〈鉱石解る君〉ひとつあれば、採掘中の鉱物の鑑定も、彼氏がくれた指輪の宝石の鑑定までどんと来い…」
と遊んでいると本当にお客さんが集まってきてしまった…
『もう、後に引けない…やりきるしかない』
と覚悟を決めた俺は、
「えっ、嘘だと思う?ならばそこの綺麗な〈元〉お嬢さん、お嫌でなければ此方にどうぞ」
と高齢な貴族風の奥さまに、前に来てもらい、
「では、お嬢様こちらの拳大の塊が一体何なのか、メガネをかけて見て頂きましょう」
と、いうと奥さまはメガネをかけて、
「えっ?!、魔水晶と書いてますわ!」
と驚いてくれた。
『ナイスリアクション!』
と、俺は心の中で喜びながら、
「ありがとうございます。
此方の塊は確かに魔水晶でございます。
あぁ、お嬢様、くれぐれもご自身の手に輝く宝石を鑑定なさらぬ様にお願いいたします。
まずあり得ないかと思いますが、お嬢様のようにお綺麗な方に見栄を張って、水晶をダイヤだと偽った贈り物が有ったとしたら大変です。
どうしてもとおっしゃるのでしたらどうか、1つご購入をお願いいたします。
では皆様、お嬢様に暖かい拍手を…」
と客席に返したのだがニールさんに、
「どうしよう?あのメガネ何個ある?」
と俺が小声で聞くとニールさんは、
「あれを抜いて八個ありまして価格は小金貨二枚です」
と、小声で教えてくれた。
俺は、
「全部持って来て」
とお願いしてワゴンの前に立ち、
「さて皆様、この鉱物資源鑑定メガネ、〈鉱石解る君〉欲しくなったんじゃありませんか?
ダンジョンから出る商品のため、数はご用意出来ませんでしたが、この売場のニール室長に無理を言いまして、小金貨二枚と大銀貨四枚と小銀貨三枚のところを、なんとお値引きさして頂き!バスッっと綺麗サッパリ、小銀貨三枚?
いえいえ、大銀貨四枚もバスッっとやりまして、小金貨二枚!小金貨二枚です。
数に限りがございます…」
と…実演販売ごっこから、マジの販売になり、売れに売れて、9個全部売れてしまった…
『俺も欲しかったのに…』
何故か、売場の他の職員さんからも憧れの目で見られている。
『仲間になりたそうに見ないで下さい…』
そして、またしても店長が見ていたらしくニールさんと打ち合わせしている…
『この後の流れは大体予想がつくが…帰りたい…』
と思っていると、
〈今回のは、旦那様がやり過ぎたからでやんす〉
と影の中のガタ郎に呆れられたのだった。
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