第37話 案外大変な冒険に行かない日々


やっと解放された…

しかし、お茶会では王様達は馬車の話で持ちきりだった。


お貴族様方も馬車での長旅が苦痛だったらしくて、春先迄に国の鍛冶師や木工職人などに指示を出して、ガイナッツ王国内の貴族や騎士団の馬車を板バネ式の馬車にする計画らしい。


『見回しただけでも十人以上いる…という事は俺の取り分としては小金貨一枚は確定か…まいどありぃ~』


みたいな事を考えて現実逃避していると、


「如何にしてあの様な閃きを?」


と、遂に一番聞かれたくない質問がきた。


「前世です」


とは言えないし言ったところで信じては貰えないだろう。


なので俺は苦し紛れに、


「生まれ育った田舎の町から帝都を目指して旅をしている最中に馬車の揺れからくる、あまりの腰やお尻、背中の痛みに悩み毎日の様に何とかして欲しいと願っておりましたら、夢の中で、とある男性に、どうしてもなら、こんな感じの馬車を作りなさいと…」


と、いった感じの嘘を言った。


『神様ごめんなさい…』


すると、お貴族様の1人が興奮し、


「どの様な方でした…そのとある男性は?!」


と俺に質問し、俺は、


「えーっと、結構普通の格好で少し頭の毛が薄めの優しそうなおじさんでしたよ」


と…


『いや、神様!ギリ嘘は言ってません。

あまり服装に頓着しない車大好きなM字ハゲをこじらせ過ぎてチョンマゲみたいな頭の技術の谷口先生から教わりましたので…ねっ…大丈夫でしょ?』


と、神に懺悔しながら切り抜けると、


「おぉ、知恵の神の姿そのままではないか!」


と皆さんがザワザワしだす。


『えっ…谷口先生…異世界で神様っぽいと言われてますよ…』


とアホみたいな事を考えていると、他のお貴族様も、


「あの馬車の腰に響かない椅子は?」


と聞かれて、


「それも別の日に…」


と、俺が答えると、


「何度も、夢の中で知恵を…本当に使徒様かも…」


と、誰かが言い出してからはもう…教会の人が呼ばれたり、何か話をしたと思えば、王様が、


「過去に夢の中で神からの言葉を聞いた者がいると教会の者も申しておった。

ポルタ君は、本当に使徒様かも…我が国は使徒様を牢屋に…」


とブツブツ言い出して、お貴族様達まで、


『どうしよう?どうしよう?』


と慌て出し、もう大変だった。


ただ解っていただきたいのはあの場で一番


『ど、どど、どうしよう…』


となっていたのは俺である。


たから解放された今はどっと老け込んだ気分だ…


俺がムスッとしながら馬車の窓から外を見ていると、ボルトさんが、


「だから、ゴメンって本当ならモンドールの奴の報告だけだったけど数日前の馬車の試乗会が有ったから、ほら、皆ポルタ君に会いたいと…」


と俺のご機嫌を取ろうと必死だ。


俺は、ムスッとしたまま、


「王様に会うなら会うで先に言って欲しいです。

騙し討ちみたいに…寄せ集めのいつもの装備じゃなくて、もう少しマシな格好とか…何より心の準備が…」


と文句を言ってやった。


すると、ボルトさんは、


「怒らないでくれよ、俺も王様からの命令で、仕方なくだよ。

ポルタの驚く顔を少し楽しみにはしてたけど…

絶対俺のアイデアでは無いから…機嫌を直してくれよ使徒様」


と、半笑いで言っている。


『絶対ボルトさんもノリノリだったんだろう…』


と確信して俺は呆れながら


「もう良いですよ…次回からは、ちゃんと言ってくださいね。

俺なんか、王様を見た瞬間にブレイブハートが発動したんだから。

命の危機的状態とスキルが判断したんだからね…あと、使徒様って呼ばないで!」


と抗議したがボルトさんは、


「ふふっ、ポルタ君は、謁見の間にビビッてブレイブハートが発動したのかい?!」


とこれが漏れイブハートした事を笑われた…


「えぇ、もう、ビビり散らかしましたよ!」


と、俺はプイっと膨れたまま宿まで送られたのだった。


もう、その日は晩御飯も食べずに布団にくるまって寝た…

数日ウダウダしながら過ごし、たまにゴング爺さんの工房に顔を出す生活を続ける。


ギルマスのクレモンズさんに会うたびに、


「ポルタくん?依頼は…」


と言われて心配される。


『確かに、冒険者が働かないのはギルマスとしても心配だよね…』


と考えた俺は、


「来週ぐらいから頑張ります」


と、働きたくない奴の言い訳みたいなセリフで返事をして、逆にギルマスを不安にさせた様で、


「やっぱり、あれだよね…牢屋に入れられて怖いかったから、当分冒険は…」


と、暗い顔でブツブツ言いながらギルドマスタールームに帰って行った。


『いやいや、防具が出来たら頑張りますから…』


などと、日々を過ごしているとようやく装備が出来上がった。


ゴング爺さんの工房に行くと、


爺さんは何故かまたギンギンの目で俺を待っていた。


俺が到着するなり、


「待っとったぞポルタ、見てくれ中々の出来映えじゃぞ!」


と自慢してくる。


それは鉄と魔水晶を混ぜて鍛えた魔鉱鉄と、アーマーリザードの皮で調節可能で動き易くて頑丈な見た目シンプルな軽めの全身鎧だった。


ゴング爺さんは、


「魔鉱鉄は魔力を纏わせると魔法を軽減したり、少し頑丈になったりするから、いざという時は魔力を流せ」


と言いながら装備を着せてくれ、俺に装備し終わるとゴング爺さんはうんうんと満足そうに頷く…


そして、ゴング爺さんは、


材料が余ったからと盾や 槍や斧に弓は解るが、ナタやツルハシ、スコップまで…黒っぽい魔鉱鉄の装備を身に纏う俺に


〈アッシとお揃いでやんす〉


とガタ郎が嬉しそうだ。


別にお揃いでは無いと思うが…嬉しそうだから、そういう事にしておくか…

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