第84話 温泉を探して


さて、裏山が我が家の敷地になったのだが先ずは温泉の確認だ。


ガタ郎とクマ五郎と一緒に道も何もない裏山を少ない情報を頼りに草木をかき分けながら登る。


話では、ふもとの林を抜けた辺りにの谷合の小川辺りらしいが小川自体が見当たらない…


ガタ郎が、


〈ひとっ飛びして見てくるでやんす〉


と飛び立ち、俺達は暫く待機となったのだがクマ五郎は、


〈王さまぁ、栗を見つけたんだなぁ〉


と嬉しそうに栗を拾っている。


『…ふもとの辺りを開墾して栗林を作ってやろうかな?』


などと考えながら偵察に行ったガタ郎の帰りを待つ間に沢山栗を抱えたクマ五郎が帰ってきた。


『こういう時の四本の腕は便利そうだな…』


と感心しながら家まで栗を抱えたままだと歩き難いだろうと、その栗をアイテムボックスにしまいながらクマ五郎に、


「栗の苗木って有った?」


と聞くと、


〈小さい栗の木、あちこちに有ったんだなぁ〉


と報告してくれたクマ五郎は、


〈小さい木は、まだ栗はならないんだなぁ〉


と、何故そんな実のならない木に興味が有るの?

みたいな顔をしている。


俺が、


「家の近くに小さい木を引っ越しさせて、お水や栄養をあげて大きな木にして栗をいっぱい取れる様にするんだよ」


というとクマ五郎は、


〈いっぱい、お手伝いするんだなぁ〉


とやる気十分だ。


そうこうしていると、ガタ郎が戻ってきた。


ガタ郎はぶぅーんと飛んできて近くの木にとまると、


〈旦那様、もっと下でやんしたよ…登り過ぎでやんす。〉


と報告してくれた。


商業ギルドが調査した時より林の生え際が山頂の岩場に向かって前進したようだ。


時間が経って生え際が、前進したなんて…禿げる一方だった前世の俺が、血の涙を流して羨ましがっている…


それからガタ郎の案内でそんなに高くない裏山の中程の谷合に小川が流れている場所に向かった。


その小川の河原の地面の一ヶ所から湯気が立ち上っているのが確認できて、


「有った!」


と、思わず声をあげたが、これでは床暖房程度の威力しかない…


試しに暖かい地面をピットホールの魔法で直径1メートル深さ1メートルほどの穴を空けてみると熱いお湯が湧き出して穴を満たしていく…


しかし、そのお湯は滅茶苦茶熱くて入れたものではない…


『どうしよう…』


と考えながらまだまだ涌き続けるお湯を何とかする為に、一旦スコップで溢れたお湯を小川に流す溝を堀り、


『これからどうすれば?』


と悩む…


ガタ郎は辺りの警戒を樹液を舐めながら行ってくれていて、クマ五郎が熱々のお湯をボーッと眺めている。


『これはこのメンバーでは解決出来ないな…お風呂を作れる用意をしてからまた来るか…』


と諦めた俺は、何もせずに帰るのも負けた気がするので、熱すぎるお湯の中にアイテムボックスから栗を取り出して放り込む。


クマ五郎は不思議そうに俺を見て、


〈栗を捨てちゃうのかなぁ?〉


と寂しげに聞くので俺は、


「お湯で茹でているんだよ…暫くしたらホクホクになるからね」


と言ってアイテムボックスから鉈をとりだして、近くの枝を払い木の棒をクマ五郎に渡すと楽しそうに、


〈まだかなぁ、まだかなぁ?〉


と栗を突っついたりしながらたまに味見もしている。



『しかし困った…どうやってお湯を冷まそう…小川の水は季節や天気で水位が変わるし…お湯を段々畑みたいに流して冷ますか?』


などと考えていたらガタ郎が、


〈旦那様、面会希望でやんす。〉


と報告してきた。


『ん?山の奥で面会?』


と考えたが、お湯を冷ますアイデアも出ないので、


「いいよ、呼んで」


と答えると、


〈陛下、お目通りが叶いました事、感謝いたします。〉


と柴犬サイズの蟻がズラリと頭を下げている…


『マジマジと見なければ、大丈夫な訪問者で良かった…しかし、この数は…ちょっと引くな…』


と、少しホッとするが何とも言えない気持ちで、


「何か用かい?」


と、聞けば他よりデカい蟻が、


〈陛下、我々塹壕蟻の一族は穴堀りスキルに長けた蟻にございます。

我が娘が、陛下が植樹をして栗を栽培する計画を耳にしまして、我々がお手伝い出来るのではと馳せ参じました〉


と、言っている。


『うーん、蟻さんかぁ~、従魔の枠はあるけど…』


と悩みながら俺は、


「君たちは、穴掘る以外に得意な事ある?」


と聞けば蟻さんは、


〈我々は元より、苗木を傷つけずに掘り起こし巣の側に植え替えて、食糧とする事をしておりますので、陛下のお役に立てるかと…〉


と、頭をさげる。


『植え替えと栽培もするんだ…よし、採用!!』


と決めた俺は、


「では、君達一族は俺の配下になる?」


と聞けば、蟻は、


〈我々一族は、元より陛下の配下にございます。

どうか、陛下の望まれますようにお引き回しのほどよろしくお願い致します〉


と答えたので、俺はその大きめの蟻に手をかざして、


「アンリ!」


と命名すると先頭のデカい蟻は勿論、後方の蟻まで光りだして全体的に少し大きく変化した。


そして、


「陛下、我々一族に新たなる力をお与え頂き感謝いたします。

〈築城蟻〉の女王アンリ、一族をあげて陛下のお力になれます様に働かせていただきます」


と頭をさげた。


『アンリも喋るタイプか…』


と、感心しながらも、


「宜しくね。」


と俺は応えるのだった。



しかし、驚いたのは進化した築城蟻の実力だ。


〈穴堀りスキル〉で、思い通りの穴や溝を掘る事が出来て、

〈接着スキル〉で、同じ素材をくっ付ける事ができる。


指示さえだせば、拠点に堀や石壁が作れるのは勿論、道に指定した土を〈接着〉して舗装したり、その場に居て細かい指示さえだせば複雑な物もつくれる様で湯船も作れた。


そして、農機具いらずで土を耕し大木も掘り起こして抜いてしまう…


優秀な土木作業会社をまるまる手に入れたようであったのだ…

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